pixivより転載
話には聞いていた、条件を達成しないと出られない部屋が、本丸空間のバグとして出るらしいことを。時に政府でも起きるバグらしい。なんでも霊力を持つ者の妄想を取り込んだ結界がバグを起こしてしまうらしい。
しかし、この本丸でこんなことが起きるとは思いもしていなかった。
「……御刀様、これはどういう状況なのですか」
「ちょっと待て。今考えてる」
考えるも何も、扉は固く閉ざされ、その上にお題が堂々と飾られている。この空間に共に巻き込まれた安宅切からはひたすら困惑している気配が伝わって来た。長谷部は、頭を抱える。
部屋のお題の名は「どちらかが媚薬を飲まないと出られない部屋」。……悪夢のようだ。
(しかも、この狭い空間で一緒にいるのがよりにもよって安宅切なのが……!)
──この10年(もうすぐ11年)童貞を守ってきたのは、偏に頭のどこかに安宅切のことがあったからだ。要は安宅切以外では勃起しない。その安宅切が愈々実装されてしまったので、長谷部はこのところ少しも落ち着いていなかった。隙がないようでどこか自分に対しては無防備な安宅切が愛おしくて仕方ない。だから、順序立てて接近をもくろむつもりだった。
その目論見が、この度めでたく脆くも砕けた。ふざけないで欲しい、と長谷部は思う。
しかし長谷部のそんな煩悶など気にした様子もなく、安宅切は、ふむと顎に手を添えた。
「ここは私が媚薬とやらを飲むべきでしょうね」
「は!? 何を言って……」
安宅切の言葉に、長谷部はそれまでの思考を吹っ飛ばして咎める。しかし安宅切は平然としたものだ。
「落ち着いて考えてください。私はLv.99と言っても初。翻ってあなたはLvは57と言えど極。戦力差は歴然としています。強い者が弱体化するより弱い者が弱体化する方がまだマシかと」
「Lvに関しては過大な世話だがそれは置いておいて……いざとなったらお前を抱えてひとりで戦えと?」
「はい、できるでしょう?」
「~~……」
嘗ての主の軍師と言う側面を色濃く反映された安宅切に、論理で詰められては顕現して10年の差がある長谷部にさえ破れない。
しかし、一瞬納得しかけた自分を抑える。
単純に、長谷部は安宅切に危険な目に遭わせたくなかった。
「やはり俺が、ってあっ!」
長谷部が止める前に、安宅切は素早く小瓶を奪い取って中身を呷っていた。ぷは、と小瓶をテーブルに置いた。
「ご馳走様」
「お前なぁ……」
「さぁ、さっさと出ましょう。私は出たら手入れ部屋に入ります。それで治まるでしょう」
そう言って本当にさっさと扉に手を触れる。長谷部は慌てて後を追った。
重厚な扉が開き──
開かれた先も、また部屋だった。
「は?」
思わず長谷部と安宅切の声が重なる。進んだ部屋にはベッドがあり、ヘッドボードの上になんらかの瓶が置かれていた。
同じような扉の上には、しかし違うお題がある。
『媚薬の効果が抜けきるまで出られない部屋』
「は、」
安宅切が呆ける声がした。彼の計画がご破算になったのである。
やはりこういったところは新入りか……と長谷部は思ったが、今はそれどころではない。長谷部はとりあえず安宅切を少しでも宥めようと、肩を抱こうとする。
「あたきぎ、」
「っ触らないで!」
常になく反応が過敏だった。手を弾かれた長谷部は、思わず呆然と安宅切を見る。
安宅切は、……いつの間にか真っ赤な顔をしていた。心なし前屈みである。呼吸も荒い。どうやら効きの早い薬だったようだ。それなら抜けるのも恐らく早いだろう……と長谷部は口にしようとしたが、気休めにすぎないと思ってやめた。どちらにせよ、今の安宅切には恥辱だ。彼自らが進んでしたこととは言え、やむを得ない状況だったのだ。
長谷部は、今度は触れずに安宅切に声をかけた。
「安宅切、とりあえず安静にしよう。ベッドで寝ていればマシかも知れない」
「……そうします」
自らを抱き締めていた安宅切は、その言を容れてベッドに向かった。そして横たわり、あとは痛いほどの静けさ。
長谷部は手持無沙汰だった。なので、ベッドの端に腰かける。背後からびくりと跳ねる反応が返ってきたが、そのあともまた静かだった。
長谷部はふと、携帯端末の存在を思い出した。ポケットから取り出す。圏外。一応電子掲示板の方も確認してみたが、こちらも繋がらなかった。怪奇現象では繋がることに定評のあるとうらぶちゃんねるなのに、こういうときに繋がらない。役立たずめ……と思ったが、今の状況を打破できる案が掲示板で出るとも思えなかったので八つ当たりはやめた。
それにしても、と長谷部は思う。この状況、据え膳では? ──しかし、安宅切のことを想えば想うほど、迂闊に手を出すことは躊躇われた。嫌われるのも怖い。安宅切の長谷部への気安さと忠実は彼にとって得難いものだ。それが失われるのが、怖い。今の長谷部は臆病だった。溜息を吐く。
しかし。
──不意に、服を引っ張られる。振り返った。
耳や、見えている首まで赤くした安宅切が、荒い吐息混じりに、懇願してきた。
「御刀様、お願いします。……お慈悲を、垂れて下さいませんか」
「──」
生唾を飲んだ。
……それから、ゆっくり確認した。
「いいんだな?」
「はい……あなたなら……」
その言葉に、長谷部は唇を引き結ぶ。
──今の安宅切は正気ではない。後悔するに決まっている。
けれど、安宅切の熱に中てられた長谷部もまた、正気ではなかった。ギリギリ理性の糸を掴みながら、長谷部は安宅切の手を取って言う。
「……あとでどれだけ俺を罵ってくれてもいい」
「……私から言い出したことですよ」
「猶更だ」
手袋を脱がせて、その掌に口付けた。
「他ならないお前のことだ。責任ぐらい取らせてくれ」
ヘッドボードに置かれていた瓶は潤滑油だった。それに長谷部は1番安堵した。
「っは、ん、あ……!」
長谷部はまだ1度しか達していない。しかしその間に安宅切は5度ほど達していた。服を脱がせ、体に触れ、安宅切自身に触れ、後孔を解す。その一連の間に安宅切は何度も達していた。いい加減精嚢が空になりそうなものなのに、まだ白濁を放っていた。安宅切の腹は彼自身のもので汚れていた。目が虚ろだ。そのすべてに、長谷部は欲情する。
それでも長谷部はできるだけ自制していた。なるべく安宅切に負担をかけたくなかったからだ。安宅切の、額に汗で貼りついた前髪を退けてやる。日頃は隠れ気味の、美しい藤色が露わになる。……メカクレなるものに興味はなかったが、なるほど、好きな相手ならば変わるものだな。そんなことを長谷部は思う。前髪の奥に隠れた宝物。政府職員にやたらとメカクレなるものを主張する者がいるが、今度彼に会うことがあったら話してみてもいいかもしれない。そんなよそ事を考えていると、頬に触れるものがあった。
安宅切が、長谷部の頬に手を伸ばしていたのだ。
「……かんがえごと、ですか」
「ああ、すまん。お前の瞳の美しさについて考えていた」
まるきり嘘ではない。そんなことを言ってのける長谷部に、安宅切はきょとんとしていた。しかし、ふ、と笑む。
「おかたなさまのうつくしさには、まけます」
「──そうか」
「あ、っ? おっきくなった、ぁ」
「……そんな可愛らしいことを言うからだ」
「ひぅっ」
抽挿の勢いを強める。自制しているつもりだった。しかし、そろそろ限界だった。途中で把握した安宅切のイイトコロを突く。安宅切の喉が晒された。体を屈め、その喉に軽く嚙みつく。安宅切は達した。しかし長谷部はまだ達していない。
「え、あ、まって、もうイッた、もうイきましたから」
「俺がイッてない」
「やだ、やだ、もうだいじょうぶ、あっ、あっそこ、やだ、!」
幼く喘ぐ安宅切に、愈々長谷部は歯止めが利かなくなった。声では拒絶しているのに、長谷部の背中に手が回る。爪が立った。痛みが走ったが、それより目の前の彼を貪る方に夢中になる。
抽挿は激しくなり、ひっかき傷は深くなる。
「も、や」
藤色を潤ませる安宅切の、その目元に口付ける。
それから、唇を重ねた。
──最奥を突く。
「──!!」
がり、と引っ掻いた。
安宅切は、服を着た状態でベッドに横たわっていた。長谷部に背を向ける形で。
「……」
「……その、だな。安宅切」
「なんですか」
声は明らかに不機嫌だ。それに益々恐縮してしまう。
「その、機嫌を直して欲しい……」
「御刀様、私の不機嫌の理由を具体的に言葉にしてみてください」
そう言われ、一瞬長谷部は言葉に詰まる。しかし、抱く前に「いくらでも罵っていい」と言った手前、誤魔化すことはできない。長谷部はぼしょぼしょと言う。
「……もうイッたと言ったのに、俺が続行したこと」
「よくわかってるではありませんか。では私にすべきこともわかっていますね」
「…………すまない。俺が悪かった」
そこまで言って、長谷部は自分が言うべきことをもうひとつ見出した。だから、つられて口にする。
「お前が好きだ」
「──」
「……可愛くてしょうがない。愛してるんだ。だからさっきも止まれなかった。本当に悪かっ、」
──がばりと起き上がった安宅切が、長谷部の唇にキスをする。
……それから、赤い顔で言った。ふてくされている。
「……もっとまともなシチュエーションで言って欲しい台詞だったんですけど」
「すまない。俺がふがいないばかりに。もう少し順序立ててお前に迫るつもりだった」
「…………じゃあ、遅かれ早かれこれに似た事態にはなってましたね。きっと」
そう言って頭を摺り寄せる。
「私も、お慕いしています。へし切様」
「あぁ。……嬉しい」
そして、再び口づけた。
──それから、安宅切が先に立ち上がった。
「さて、もう鍵は開いていますね。行きましょう」
「……次はまともに出られるといいんだが」
「それは全くその通りですね」
扉を潜ると、そこは元の本丸だった。
振り返ってもただ壁があるだけだ。それに、長谷部と安宅切はどちらともなく溜息を吐く。
「……本当に異空間だったんですね」
「噂には聞いていたがな……さて、主に報告するか」
「え、異界で私と目合いしたことを……?」
「そうじゃなくて。その辺りはさすがに濁す。……お前との交際も、ちゃんと主に報告しておきたい」
「──」
「……気が早かったか?」
少ししょぼくれて見せる長谷部。それに、安宅切は笑った。藤の花が開いたような笑顔だった。
「全然。嬉しいです。でも、あの、あと……」
「なんだ?」
もじもじとした安宅切は、人影を見てから、長谷部に耳打ちする。
長谷部は言った。
「さっきあれだけシたのに」
「……薬のない状態でシたいんです。……駄目ですか」
「──いや、まともな状態でシたいのは俺も一緒だ」
長谷部はそう言って、安宅切の頭を抱えると、彼の額に口付けた。
さて、(セックスしたことは端折って)条件を達成しないと出られない部屋に遭遇したことを長谷部と安宅切が報告すると、審神者は即座に政府の抗議をしたのだった。
──それと、長谷部と安宅切の交際は祝福して(この過程で何があったかは察せられた気もしたが、審神者も長谷部たちも互いに口にしなかった)。
了