pixivより転載
どこかには豪雪の景趣なるものを年がら年中設定している本丸もあるという。事情があるとすれば、この本丸とは逆のことだろう。
この本丸は、常に夏だった。
審神者は雪国出身で、寧ろ暑さには弱いはずだった。しかし小学生で審神者に就任して以来、1度も夏の景趣から季節を変えたことがない。そこに何かしらの意図があることは、初期刀の蜂須賀や近侍の五虎退は察しているようだが、長谷部たちにはわからなかった。わかるのは、薄着でないと熱中症になりかねないという事実である。
さて、先日の連隊戦でやって来た安宅切。彼にもまた夏服が支給された。正確に言うと半袖のTシャツとハーフパンツである。
「公式の服装だと、とてもじゃないけどこの本丸だとやってられないからね……」
とは、甚兵衛姿の蜂須賀の言だ。内番着だという。他の本丸の蜂須賀をこの時点で知らない安宅切はそれを受け入れたし、素直に着ていた。
話が変わって来るのは、彼が着任して1か月ほど経った頃のことだ。
「……あの、安宅切さん。暑くないですか……?」
五虎退が恐る恐る尋ねたのは、長袖長ズボン……つまり公式の内番着を着込んだ安宅切に対してだ。
この五虎退はこの本丸の審神者の近侍のため、城内の事柄を把握している。だから五虎退は、安宅切は時折いる「公式しか勝たん」(公式の服しか着たくない)勢ではないことを把握していた。ごく素直にTシャツとハーフパンツを受け入れていたはずだ。なのに、今日も燦々と照って来る日差しの中、彼は内番のこの日、長袖長ズボンだった。
安宅切は真顔のまま答える。
「暑くありませんよ」
「でも昨日までちゃんと半袖でしたよね……?」
「……ちょっと身体が冷えるんです。これ以上は説明できません。それじゃ内番をはじめましょう」
そう言って、安宅切はさっさと作業をはじめ、五虎退を置いてきぼりにするのだった。
さて、ここの長谷部と安宅切はつい先日結ばれ、つい昨夜一線を越えた。それはいい、それはいいと安宅切は思う。
今朝の安宅切は、まだ眠る長谷部をしり目に、汗などを流すために個室についているシャワールームに入った。そこで唖然とした。
「あぁ……起きていたか安宅切、早かった、な!?」
起き抜けの長谷部は、安宅切の枕による抗議を顔から受け止めることになった。
ぼすんぼすんと枕で叩いてくる安宅切に「ど、どうしたどうした、訳を言え」と動揺しながら言ったものだ。
「訳を言え、ですって……?」
低い声で、安宅切は言った。
彼はシャワールームから出てきたところで、髪が水気を帯びていた。肌も同様だ。彼は上半身裸で、その体には、歯形が多数刻まれていた。首から腕、腹や腰などにも。見えない位置にもある。足にも勿論刻まれていた。
安宅切は枕を持ったまま言った。
「どうしてくれるんですか! この噛み跡だらけじゃTシャツもハーフパンツも着れませんよ! 私、今日内番なんですよ……!」
「す、すまん。つい夢中になって……昨夜のお前があまりに可愛らしかったから」
「……そんなこと言われたって絆されませんからね! 本気でどうするんですかこれ」
「あぁ、それなら解決策がある。他の連中もやってる手だ」
長谷部はけろりと言った。
「手入れを受けろ。元に戻るはずだ」
「……ひとつ訊きますが」
簡単な答えに、安宅切は胡乱に尋ねた。
「それ、主の裁可が必要ですよね。何と言えばいいんです」
「正直に」
「言えるか!!」
安宅切は怒鳴った。
「主は花も恥じらう女子高生ですよ!? しかも着任当時は小学生だったそうじゃないですか! 今まで他の人たちもまさか正直に言ってたんですか!?」
「大丈夫、その辺りは蜂須賀が誤魔化して」
「なお言えませんよあの潔癖な人に! 御刀様の馬鹿!!」
結局解決策は見つからず、安宅切は跡が消えるまで長袖長ズボンで過ごすことになる。
ただ、刀剣男士と言えど汗はかくので、日差しを浴びて汗だくになった安宅切を見て審神者が不審に思い問い質した結果、長谷部が呼び出され説教されることになる。しかし審神者にこそ知られたくなかった安宅切は、しばらく長谷部に近寄らなくなる。事の次第を知った黒田組に「お前が悪い」と詰られることになる長谷部だった。
了