ゲイだがゲイとしては非モテの男審神者が、好みドンピシャの二筋樋と出逢ってしまい──
▼二筋樋さんが好きすぎてヤバイです 顔も体も声も台詞も設定も好きすぎる
pixivより転載
23世紀の世の中は同性愛者にも優しい。同性愛と異性愛の違いなど、食の好みの違いぐらいの感覚である。ただし、どうしても受け付けないものというのはある。それが同性愛と異性愛の壁だ。
結論として、世の中は異性愛者がメジャーだ。
ここの審神者はマイナーの中でもマイナー。即ち、「ゲイとしては非モテのゲイ」である。
なぜ彼が審神者をやっているかと問われれば、色々と理由は上げられるが、最終的には「男所帯だから」となる。そう、男性ハーレムにいられると思ったのだ。結論として、この審神者はそれなりに満足した生活を送れていた。恋刃や、性生活がこの数年充実したわけではないが、同性しかいない環境と言うのはストレスフリーだった。そう、このまま恋人や伴侶ができなくてもいいと思っていた程度には。
「新しく配属された二筋樋貞宗だ。護摩箸を11に見立てて……とは、何を考えているのやら」
──彼が来た瞬間、審神者の心臓が跳ねた。
(びっ……くりするほど好みドンピシャだったな……)
数日後。審神者はまだその衝撃を噛み締めていた。
突如として鍛刀キャンペーンでやって来た二筋樋貞宗は、見事に審神者の心を掻っ攫っていった。シガールームでひとり、紙巻きたばこを喫っていた審神者は、久方ぶりの恋心と共に煙を吐き出した。
現在30代の審神者が最後に恋をしたのは現世にいた大学生の頃だ。黒髪の刈り上げで、それなりに体格の良い体育会系の先輩だった。初恋は保育園のときの黒い短髪の保育士で、小学校のときは黒髪のガキ大将で、中学のときは剣道部の顧問の黒髪短髪の教師で、高校のときは野球部の黒髪短髪の先輩だった。……要は黒髪に短髪の、さらに体格が良ければ惚れていた。しかし、1度も恋が実ることはなかった。
黒髪短髪と言う条件だけで言えば、二筋樋以前にも該当者はいた。体格のいいモノさえいたのだ。だから、審神者は自分でもそれが不思議だったし、──二筋樋が来て、これが運命というものか感じたのだった。
(でもどうせ結ばれない運命なんだろうなぁ)
煙草の煙を肺に深々と喫いこみながら、審神者は思う。
審神者の外見は、彼の趣味で金髪に染めてピアスをバチバチに空けた、見た目だけならばどう見てもチンピラだった。お巡りさんの二筋樋に逮捕はされなくても職務質問は避けられない容姿である。そして痩せている。身長も平均的だ。彼は自身が同性愛者と言う意味での同性受けをしないことをよくわかっていた。自分ならば、それこそ二筋樋のような筋骨隆々とした清潔感のある男がいい。そうでなくとも肉付きが良い方がいい。しかし審神者は太れないし筋肉もつきにくい体質だった。外見の通り振る舞いは明るい方で1部の女性には受けていたし「うちら付き合わん?」などと言い寄られることもあったが、審神者はバイの素養の一切ない同性愛者だったためすべてお断りしていた。10代の頃は異性と付き合ったことは何度かあったが、違和感しか覚えなかったのだ。
長々と語ったが、要はこの審神者は二筋樋が好きだった。そして、自身が魅力的だとも思われなかったので、二筋樋のことは諦めようと決めているところだったのである。
「おや」
──不意に、その本命の声が聞こえてきたときは驚いた。
シガールームの引き戸を開いている男がいた。二筋樋だ。思わず驚いて、ベンチの上で腰を抜かしそうになったのを必死で堪えている審神者に対し、二筋樋は友好的に微笑んでいる。
「あんた、ここにいたんだな。喫煙者だったのか」
「まぁな」
煙草を口に添え、煙を吐き出す。そのことで表情を隠した。早くどこかに行ってくれないだろうか、そう願う審神者に構わず二筋樋はどこまでもにこやかだ。隣に座って来る。
「煙草、1本くれないか」
「何、お前も煙草喫うの」
「見てたら喫いたくなった。まだ給料も入ってない身の上だ、お情けかけてくれないか?」
そう言って子どものように笑うので、審神者は堪らない。なんとか煙草を1本とライターを押し渡す。二筋樋は嬉しそうに煙草に火を点けた。それから軽く煙を吐く二筋樋を見て、審神者は言う。
「……お前、喫煙はじめてじゃないだろ」
「本霊時代に煙管では喫ってたな。紙巻は本当にはじめてだ」
「そっか」
(はじめてを俺がもらったのか)
そんな不埒な思考が一瞬掠める。審神者は再び煙草を喫った。
そのうち腹立たしくなってくる。二筋樋は呑気に煙草を喫っているが、審神者は楽しい喫煙タイムを闖入者に邪魔され内心で狼狽えている。それもこれも審神者が勝手に二筋樋が好きになったからなのだが、少しぐらい意趣返しがしたかった。
だから、審神者は。「二筋樋」と呼ぶと、顔が向いた瞬間、喫いこんだ煙を彼に吐きかけたのだった。捨て鉢な気持ちで。
(どうせ「傷害罪だ」とか言われるんだろうな)
審神者は「相手に煙草の煙を吹きかける」ことの意味を分かっていた。怒られることも視野に入れていた。
だから、相手が喫っていた煙草を地面に落として、赤い顔をするなど想像に余ったのだ。
「えっ」
思わず審神者も煙草を落としそうになる。それに対し、赤い顔を手で押さえた二筋樋は、じろりと彼を睨んだ。あまり気迫がない。
「……あんた、俺のこと、『そういう』目で見てるのか」
「え、あの」
それから、二筋樋は深々と溜息を吐いた。立ち上がる。
「……あんたのこと、傷害罪で逮捕しなかったことを感謝して欲しいな」
そう言い捨てて、二筋樋は赤い項を晒してシガールームを去った。
置いて行かれた審神者はと言うと、今度こそ煙草を取り落としていた。
(え? 今のどういうこと? え?)
混乱の極みにあった。
最初は歩いていた。それから段々と歩調が早まる。終いには疾走に近い駆け足になっていた。それで、できるだけ本丸から離れようとしていた。実際は刀剣男士は許可なく本丸の敷地から出られないのだが。
それでも敷地の端と思われる塀にまで来ると、二筋樋はしゃがみ込んだ。
──自分を迎えたときの、ふわりとした笑顔がいいな、と思ってはいた。
(明確に俺を誘ったということだよな、あれは)
──自分に煙草の煙を吐きかけて来たときの、あのけだるげな顔!
二筋樋は顕現早々、審神者に「欲」を持ったことを自覚してしまった。
『いいかい、二筋樋。ご主人様に関してはライバルは多いよ』
本丸を案内してくれた身内の言を、今彼は身に沁みるほど理解していた。
さて、生まれてこの方恋愛が成就したことのない(他者の好意に異様に鈍い)審神者と、人の身1年生の男性同士の恋愛がどう成立するか。ライバルとなる刀剣男士以外では、賭け事の的となるのだった。
了