▼見た目犯罪+少年感と言う背徳感マシマシ少女を自認お巡りさんにぶつけたかった
pixivより転載
最初、清潔感のある少年だなと思った。
直毛のショートヘアの黒髪が、動く度にさらさらと揺れる。真っ黒な瞳。少し日焼けした肌はしかしきめ細かい。背丈は目算で160㎝ほどだろうか。年頃は中学生ぐらいに見える。寒いのか、下はジャージに厚手の靴下、上には半纏を着こんでいた……そんなことを、まじまじと観察しながら考えていると、彼は形の良い眉を顰めた。
「……? なに? 自分、あんたから見てそんなに変?」
「いや、好ましいなと思った」
率直に答える。すると、彼はそっぽを向いて、「そ」とそっけなく答えた。
さて、自身の名を二筋樋貞宗。現在は刀剣男士と呼ばれる身の上である。今はこの本丸に来て名乗り口上を上げたところだ。近侍と思しき男士は「二筋樋出たよー!!!!」と怒鳴りながらいずこへかと去った。2人きりの鍛刀部屋。どうやら口が達者ではないらしい彼──審神者は、もごもごと何かを言っていた。
「なんだ?」
聞き返すと、審神者はきっと顔を上げた。
「これから、宜しく」
どうやら挨拶だったらしい。それに二筋樋は微笑ましいものを感じて、ふと笑みながら「こちらこそ」と差し出された手を握り返した。その手は、少年のものにしては小さく柔らかかった。
それから話は1か月ほど飛ぶ。
その間に、審神者が本当に中学生であること(それも1年生らしい)、制服はブレザーなこと(スラックスにネクタイだった)、学校に通いながら審神者をしていること、小学生の頃から審神者をしていること、あと風呂は自室のものを使っていることがわかった。なぜ風呂の件を知っているかというと、審神者が大浴場に来ることがないためその辺りにいた亀甲に訊くと、「? ご主人様だからね、当然自室のお風呂に入ってるよ」との答えを得た。──その言葉にやや引っかかりを覚えたものの。
さて、その間に二筋樋は本丸での生活に慣れ、様々なことに興味を覚えた。そのひとつに、審神者のこともあった。刀剣男士と言う人外の中に混じって暮らす人間の少年の審神者が目についたのもある。
「なぁ、あんたは何が好きなんだ?」
「へぇ、それが嫌いなんだな」
「お巡りさんに興味はあるか?」
などなど。
それを尋ねられると、審神者は最初少し困惑した顔をしていたが、次第に打ち解けていった。
「二筋樋、思ったより話しやすいね」
そう言って、ボーイソプラノの声で笑った。
──それを聞いた瞬間、二筋樋の仮初の心臓が動悸を起こした。
「うっ」
「え? どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
きょとんと黒い目を瞬く審神者に、とりあえず二筋樋は胸を押さえながら誤魔化した。
そのときは一時の気の迷いだと思ったのだ。
しかし、話はそう都合よくもいかない。
たとえば、審神者が転びそうになったときに咄嗟に支え、その少女のような柔らかさと腰の細さを感じたり。
たとえば、審神者がしかめっ面をしていたとき、つい「どうした?」と事情を訊きに行ってしまったり。
たとえば、審神者が他の男士と喧嘩をしていたときに真っ先に止めに行ったり。
……要は、構うのを止められなかった。
そしてその度に、自分の気持ちが固まっていくのを感じた。
二筋樋は、あるとき学校から帰ってきて、初期刀兼近侍にふにゃりと笑う審神者を見て、酷い嫉妬を覚えた。
そして理解してしまう。
(俺は、主が好きなのか)
それは、自分でも度し難い感情だと思った。
──「お巡りさん」を自負する二筋樋にとって、まだ13歳の少年である審神者は二重にも三重にも守るべき存在だ。それを、色恋の目で見るなど論外だ。
(まずいだろ……)
それは途方もない罪悪感だった。中学生、それも少年に恋をするなど。自分は異常性愛者だったのか。二筋樋は己の性的嗜好を疑いながら、本丸内をふらついていた。
──近侍に会ったのは偶々だ。
「あ、二筋樋。丁度良かった、主におやつとお茶を持ってってくれない? 俺今手が離せなくてさ」
「わかった」
反射で答え、盆を持たされた。盆の上には梅の花が描かれた湯呑と饅頭が乗っていた。
そして二筋樋は、審神者の私室兼執務室へと歩いて行った。このときの彼は、「あまり今は主と顔を逢わせたくないな。早々に去ろう」ということが頭を占めていた。
だから、「主、入るぞ」と部屋の外から声をかけたとき。「あ、ちょっと待って」という返事をよく聞いていなかったのだ。
──そこから先の光景を、二筋樋の目は脳裏に焼き付けてしまった。
下着姿で、丁度ジャージのズボンを穿こうとしていた審神者の格好を。
より正確に言えば、ブラジャーに包まれた微かな胸のふくらみを。
二筋樋が盆を取り落とさなかったのは奇跡だった。2、3歩後退る。
一方審神者と言えば──わなわなと震えていた。
「でっ……出てけー!!」
その大声は本丸中に響いた。
その声に男士たちが集まってきて、二筋樋はしょっ引かれることになる。
「……主が女性だと知らなかったんだが」
「え? マジ?」
「どう見ても少女じゃないか」
しょっ引かれた先は、刀剣男士たちが詰めている事務室。今は本丸中の刀剣男士が集まってきて、縁側にはみ出していた。どうでもいいが冬の景趣だから寒い。そう思っていると、安宅切が手を上げた。
「あの、実は私も今知ったのですが」
「マジで!?」
「というか恐らく、初期メンバー以外は知る機会がなかったのでは」
「……」
「俺も知らなかった」
「僕も」
どうやら本丸内でも認識は二分していたらしい。その中で、二筋樋は尋ねる。
「中学に通っていると聴いたが、制服が男子のものじゃないか。スラックスだぞ」
「今時の学校は男子も女子もスラックスかスカートか選べるんだよ」
「……本丸だとジャージなんだが」
「動きやすいからって理由だよ。あと今まだ寒いじゃん。スカートとか穿かせられないよ。そもそも主、この本丸に来たときから『スカートは嫌!! 動きにくい!!』って言ってたから」
「……髪型……」
「あのね、現代の女の子にショートヘアは普通なの」
「……」
「納得した? なら主に謝りに行こうね」
「あぁ……」
近侍にそう説き伏せられ、二筋樋は一応は納得した。納得したものの、脳の片隅では安堵している自分と、余計に警鐘を鳴らしている自分が戦っていた。
即ち、「少年」ではなく「少女」に恋をしているわけだ。同性だと思ったのが実は異性だった。よくある展開だとは思う。思うが、どちらにせよ「中学生の少女にガチ恋している」自分に憂鬱な気分になる。ロリコンの誹りは免れなかった。
それでも、どう足掻いても、二筋樋は彼──もとい彼女が好きだった。
「ほら、謝って」
「主、すまない。女性の着替えを見てしまった」
「……もういいよ。あんたに限ってわざとじゃないことはわかってるから」
「うっ(信頼が今は重い)」
そこから二筋樋は、誰にも言えない想いを抱えることになるのだった。
「一目惚れした二筋樋に下着姿見られて動転したって? 貧相な身体だって幻滅されたかもって? もー、主の魅力は十分だよ! まぁそもそも主はまだ中学生だから向こうに本気になられても駄目でしょ(笑)」
了