pixivより転載
一竿子忠綱と言う刀とは、そこそこに仲良くやれている……と、二筋樋は思っている。何せ自身は打刀、向こうは大脇差と言えど脇差は脇差だ。なので二刀開眼ができる。……とは言っても、それならばすべての脇差と仲良くやれているか? となると話は別である。鯰尾とはそれなりに仲良くできていると思うが……二筋樋は思い悩んでいた。
というのも、一竿子に尋ねたいことがあったからだ。
「お前、俺に訊きたいことあるみたいだな」
風呂上がり。縁側で涼んでいたときに、缶ビールを飲んでいた一竿子がそういう。
「へ」
「お前、わかりやすいよ」
「……そんなにか……」
同様に缶ビールのプルタブを開けていた二筋樋は、嘆息交じりに呷った。
一竿子は言う。
「俺に訊きたがる奴は結構いるからな。それはもう色々なことを。で? お前は何が訊きたい」
──こうまで察せられては、尋ねないわけにはいくまい。二筋樋は腹をくくった。
「……お前の元主の、佐野のことだが」
「あぁ、意知暗殺事件ね」
佐野政言。田沼意知暗殺事件での殺害犯。
当時良くない治世を敷いており、賄賂も受け取っていたという汚職政治家の田沼意次。その嫡男を暗殺したのが、佐野政言だった。
使われた刀は一竿子忠綱。通称万太夫。粟田口の後継を名乗る刀工の手による、細工の見事な刀。実際に用いられたのは2尺1寸の大脇差。
世の人は手放しで喜んだ。佐野政言を世直し大明神と呼んだ。やがて田沼意次も失脚し、所領も没収されて1年後に病死している。
次の老中は松平定信だった。8代将軍吉宗の孫である。健やかな治世を期待された。
そして、それは果たされなかった。
『白河の清きに魚も棲みかねて、元の濁りの田沼恋しき』
その後の流れはこの狂歌に集約されている。
その後定信は失脚する。
この一連の流れを後世の研究者はこうまとめる。
『田沼の政治は、人々の批判を受け入れ、決して弾圧しなかった。また彼は開明的な政治家で、意知もまたその薫陶を受け、いずれ訪れた開国を穏やかなものにしたとだろう。翻って佐野政言はその時勢に逆らい余計なことをした政治テロのテロリストに過ぎない』
──そういう話を、二筋樋はしたかった。
正確には、「その上で」のことだ。
缶ビールを片手に、二筋樋は尋ねる。
「あんたは……元主のことについては承知の上だよな」
「そうだよ。結局はテロリストに過ぎないこともね」
「その上で尋ねるが──」
二筋樋は尋ねた。
「あんたにとって、正義とはなんだ」
一竿子は、それを聞いて真っ直ぐに指で示した。
池の水面に映る月。
「その時勢によって移り変わる、水面の月さ」
「──」
「さて、それじゃ寝ようか。おやすみ、二筋樋」
空き缶を握り潰した一竿子は、そのまま自室へと向かった。
二筋樋は、その姿を見送り──池を見た。
水面は、風で揺れて月の姿がぶれていた。
了