※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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概要:艦これ終戦→1世紀を経る→とうらぶの時代 21世紀末、人類が「魔法」を手に入れた話 刀艦乱舞としていますが、艦娘は出てきません。うちの鬱これ:財前提督シリーズの世界観が下敷きにあるのでこんなのになりました。ウチの鬱これシリーズに刀剣乱舞の世界観に至るまでの妄想を合わせてみたら合体事故を起こしました。型/月用語やシステムも入ってます。ウチのとうらぶは基本このコラボ前提です。
▼「何者にもなれない」(https://novel.syosetu.org/85854/1.html)に端を発する鬱これシリーズの提督(但し本人は出て来ない)のだいぶその後、という位置づけです。なのでこっち読んでないと訳わかんないところがある、完全自己満です
▼当方の中だと艦娘=巫覡という解釈です 軍艦の付喪神を血統に宿してる あとここのこんのすけは「稀に見られる精神疾患を患ったQ/B」


ドーナツ・ホールを空けたのは【刀艦乱舞】

前史

 

 100年以上前、人類が手に入れたのは「魔法」だった。

 正確には、科学の域にまで落とし込まれた「技術」だった。しかし、行きすぎた科学は魔法のそれと区別がつかない。150年以上にわたる制海権を、ひいては世界を巡る「艦」の争いの終結に相応しい、それは戦利品だった。海の向こう――この島国の民間信仰では「異界」とされるところ、のちにこの世界線から懸け離れた並行世界からやって来たと判明した彼女達が残していった「記録」は、現代の文明の手には余りそうな程の代物だった。

 それを何とかしたのが、のちの「政府」――深海棲艦と戦っていた、日本では旧海軍・陸軍の者達。そして、艦船血統――俗に「艦娘」と呼ばれる者達だった。特に後者が、そのブラックボックスの解析に貢献した。

 当然だ。彼女達は、同じ「モノ」だったのだから。たとえこの世界線の人類の中にその種を、因子を混ぜようとも、本質的には同じモノだったのだから。

 19世紀後半から21世紀まで。150年間の長い長い戦乱。年若い女子供を戦場に送り出してきた代償は、23世紀に至ると「未来予測」「時間遡航」「意志・想念の具現化」、その他数多の魔法の域だった術を人類に与えた。その貢献は民衆に、150年以上にわたる戦乱による疲弊を超える満足を与え、そして政府が秘匿している秘密に関して気付いても、さして気にする事はなかった。不利益よりも利益の方が、遙かに大きかったのだ。

 だが、その一般民衆にも知られた「時間遡航」「意志・想念の具現化」――嘗ての艦娘達の末裔や、彼女達の扱いに不満を持っていた軍関係者達が何よりも望んだ後者のそれ。それらが、更なる戦の種をまく事になる。

 艦娘達は、巫覡だった。嘗て同じ歴史を辿った遠い並行世界の「軍艦」、深海棲艦から引き上げだ、その名を冠した付喪神を宿す巫女だった。だから、19世紀の時点ではまだ判明していなかった「のちの歴史」については箝口令が敷かれた。艦船血統は女性が多く生まれた。人類としては好都合だったし、当然だとも思えた。艦船が、人類が抱くイメージには、女性というジェンダーに偏りがちだった事。更に、長時間、巫覡として戦う事に長けていたのは男性より女性だという認識が長らく強かった事がその原因だった。

 しかし、150年は長かった。長すぎたのだ。彼女達は150年の間、意図的に血統を増やされ、兵器として戦わされた。人権を有していても、ないも同然。それが彼女達には、長い間、苦痛で、屈辱だった。

「ならば、巫覡の必要がないようにしよう」

 その、新たな戦乱。「政府」が下したのは、そんな結論だった。

 時代を遡航し、歴史を改変――実際には、現代から遡航する時点で既に現代との連続性は絶たれる。選択肢の変更による、ただの並行世界を生み出す行為。しかし、未来予測による「より良き選択」を人類がする為には、選ぶレールは少ない方がいい。だから「改変」は止めさせないといけない――しようとする「想念」達。いわば、この国でいえば付喪神と呼ばれるそれらは、確かに「神」だった。嘗ての、軍艦の意志を巫覡としてその身に宿した艦船血統の者達は、人々を動かす中枢へと上り詰めていた。だから、拒否できた。

 しかし、戦いはしなければならない。それならば、どうすればいい。

 答えは、人類が手に入れたブラックボックスの中にあった。

「あの時代は、『提督』が本来の審神者。『艦娘』が巫覡だった。審神者は、神の媒介となる巫覡の言葉を聞いて、神の託宣を受けるモノ。しかし、巫覡はもう限界だ」

「ならば、『神』を、人にも使役できる形に押し込めてしまえばいい。直接、人の口を、手足を、身体を与えればいい」

「巫覡は要らない。巫覡という媒体は、もう不要だ。なぜなら、審神者が直接神の言葉を聞けるようにすればいいからだ」

「歴史修正主義者達は、想念そのものの姿だ。それが勝手に暴れ出し、そして歴史を遡航した。だが、今ならば」

「今ならば、想念――『神』に、人の身体を与えられる」

「主に歴史修正主義者となっているのは刀剣だ。刀剣を『媒介』にすればいい」

「今ならば、エーテル体が作れる。歴史修正主義者も、それに近いものを纏っているのだから」

「その技術を、150年をかけて手に入れたのだから」

「歴史修正主義者達も、堕ちたといえど、神だ。神には、神に対抗するしかない。あの150年間で学びきった事だ」

 

「神の姿はどうする」

「この技術を手に入れるまでは、女を使っていた。ならば」

 

「今度は、男にしよう」

 

 

 

 

 ぱちり、火の爆ぜる音がする。集めた木葉をいたずらにかき回す、清光がぽつりと呟いた。審神者は、その垂れた赤い首巻きが焚き火の中に落ちやしないか内心ではらはらとしていた。

「そういえば、何で俺は男なんだろうなぁ。主」

「急に何だ」

 首巻きにばかり注意を向けていた。だから不意の質問に、内容よりもタイミングに途惑う。本丸の庭の片隅。縁側に腰掛けた彼の前でしゃがみ込んだ清光は、手持ち無沙汰らしい。焚き火に突っ込んだ枝を手慰みにいじっていた。自身も言葉が足りないと理解したらしい。焚き火に体を向けたまま、清光は重ねていう。

「そもそもさ、俺らって一応、『神様』ってやつじゃん。付喪神っていうの。あんまり俺自身には自覚ないけどさ。三日月なんかは凄くそれっぽいけど」

「あれは単に年の功でしょ」

 いいながら、目をやる。彼らから離れたところ。作務衣姿でも曇らぬ美貌の青年が、鍬をとんちんかんな持ち方をして首を傾げていた。それを燭台切が困った様子で取り上げているのを、一振りの刀とひとりの目が眺める。三日月との畑の内番相手は、老人介護をしてもストレスの溜まりにくいタイプにしてやった方がいいかも知れない。審神者はそんな事を頭の隅で考えつつも、焚き火を眺めるのにも飽きたらしい清光が隣に座ってきたのでそちらを見た。

 しみじみと美しい男だ。彼自身が手入れを事欠かないのもある。だが何もしなくても、それこそ三日月のように美しさを讃えられるだろう。さすがに「神」なだけはある。尤も、多神教の国の付喪神らしく、妙に人間臭いところもあるけれど。事あるごとに「昔」を思い出しては不安定になるこの最初の近侍が、たとえば女神の姿をしていたならば――やはり美しかっただろう。元より、審神者として着任する時に選んだ姿の時点で、赤い鞘に黒の映える美しい刀だった。商家の実家に先祖伝来の太刀があり、日本刀といえば自身にとってはそれだった。だから、並べられた「打刀」という種類の刀達の丈に驚きながらも、惹かれたものだった。その由来や歴史を知ってからは、とある疑問を抱いたものだけれど――閑話休題、持ったままの枝を振り回す、清光は首を傾げた。女顔の美貌に、括った黒髪が垂れていた。

「でも、それにしてもさぁ。主の時代でいったら昔……100年から200年ぐらい前か。それぐらいの頃は、それこそ付喪神として戦ったのは女の子達だったって訊いたよ。まぁ、あれは女の子達が巫覡としてたせいもあったらしいけど。……別に女の子になりたいって願望はないよ。ただ、刀って元々無機物じゃん。昔、人類が戦ったっていうのも、元はといえば軍艦の神様だったっていうし。俺らの姿は『政府』が使役しやすいように人の姿にしてるとは訊いてるけど、何で敢えて男なのかなーって。俺は別にどっちでもよかったからさ、かわいければ」

「そりゃ、歴史修正主義者も男っぽいからじゃない。何となくだけど。昔、人類が制海権を巡って戦ったっていう深海棲艦は、強い奴だと女の子に近い姿をしてたらしいよ」

「へー、マジで」

「まあ、お目にかかるのはそれこそ強い子だけだったらしいけど。蛍丸に感じが似た子もいたらしいよ。とにかく、同性の方がいいって事じゃないの。一応、概念的に男の方が力が強いってイメージもあるし」

「まぁ、一理あるかな」

 隣で肯く清光。いいながら、審神者は膝に草履を脱いだ足を乗せる。足袋を穿いて生活するのにも慣れてしまった。自身の200年程前の先祖は海軍将校と艦娘だったらしいけれど、将校の方はともかく艦娘の方も皆お仕着せを着ていたというから、お仕着せの生活に因縁があるのかも知れない。溜息を押し殺した。もくもくと、煙が上がっている。

 自身が審神者に選ばれたのも、艦船血統――艦娘の末裔だからだという。終戦後、疾うに一般人と交雑しすぎ、艦船血統の持っていた、1立方cmの筋細胞の耐荷重が常人の数十倍以上あったという「人肉サイボーグ」ともいうべき膂力はほとんど残っていない。幼い弟の方が、年の割には腕力が強いので先祖の名残がまだ強い。しかし、必要なのは「神と交信する力」だと、政府の人間は、自身が家よりも長く過ごしていた病室にやって来て告げた。

『艦船血統は、要は巫覡の血筋です。艦船の記憶や力……いわば“神”を体現していた訳ですから。私共が必要としている審神者は、本来は巫覡という媒介を通じて神……つまり目に見えない思念・想念と交信します。ですが、私共政府が実現した技術ならば、俗に呼ばれている刀剣男士――政府が保存している“本体”から、審神者が用意した媒体の刀に宿らせた分霊にエーテル体……仮初めの人の身体を与えられます。つまり、神と一体化するのではなく、神と対面し、そして戦わせる事が出来るんです』

『最後のがよくわかんないんだけど』

 慇懃無礼。そんな言葉が頭に浮かんだ。黒いスーツに狐面を被った男に、第1印象から不信感を抱いたせいかも知れない。年上だろう男に構わず敬語を使わなかった。自身は読んでいた野球雑誌を小脇に起きながら問うた。

『神社やってる本家ならともかく、俺はそんなに詳しくないけどさ。要は、神を使い魔に貶めて戦わせるんでしょ。つまり、人間の下僕だ。確かに本体の刀剣は人間が使い、戦う為の道具だ。でも、中には1000年以上昔の、それこそ国宝指定受けてるような刀剣もあるんじゃないの。そんなのが、人間に傅いて戦ってくれるとは思えないよ。彼らに何のメリットあるんだ。それこそ、歴史修正主義者を説得した方が、まだ俺達人間の為に戦ってくれるよ。少なくとも、彼らは歴史を変えたい程にヒトを想ってるんだから』

 一旦言葉を切る。息が詰まりそうになったからだ。生まれついての気管支の弱さが、病弱の最大の要因だ。そして、言葉を継ぐ。

『ウチの先祖の艦娘……艦船血統は、形ばかりは敵対してた深海棲艦と同一のもの。彼女達は俺達人類に自分達の“記録”や“種”を残せればよかった、生存本能の塊だった。人類に対して共存、否、寧ろ従属してくれていたのはそういうメリットがあったからだ。けれど、刀剣達にはそんなものがあるか。俺が何か、間違った事をいってるかな』

『間違っていませんよ。簡単にいえば、“神”に気に入られる素質を持ったモノの方が、私共のいう審神者に相応しいんです』

『……は』

 眉を顰める。男は何がおかしいのやら、狐面の奥で笑っているようだった。喉の奥で笑う、かんに障る笑い方だった。

『巫覡は、古来、女性の場合は神の花嫁でした。一夜妻、という言葉も、元を辿れば神の種を貰い、子孫に神の力を宿す母となる巫女を指したんです。つまり、“そういうもの”に気に入られやすい素質を持っている方が審神者になってくれた方が、“彼ら”は貴男の為に戦ってくれるでしょう。この際、性別や年齢はどうでもいいんです。神に気に入られさえすればね。勿論、我々審神者が、神に感謝や礼を尽くす事も大事ですがね』

『……つまり、俺に軍隊の将になれという事か。全くの素人、こんな、人生の大半を病院で過ごしてる、半分死んでるような人間を』

『貴男なら大丈夫ですよ』

 どうやら、笑ったらしい。狐の面が揺れた。にっかり、という言葉がぴったりだったかも知れない。自嘲しながらも訝しげな自身に、男は告げた。

『“政府”にそんな口を利くような審神者は、例外なく刀剣達から慕われていますから。逆に、私共に媚びへつらう審神者が彼らにどんな処遇をし、どんな運命を辿ったか、お聞きしたいですか』

 

 そして結局、法外な報酬と、自身の治療費で傾いた家の身代。それに幼い弟のこれからの学費の為にも、審神者になる事を受諾した。時代を逆行した際に流行病に罹らぬよう、様々なワクチン――中には開発中で、本来ならば一般にはまだ流通していないものもあった――を打たれ、そして放り出された。読み取った性格から、第1印象で「取っつきやすそう」という理由で選んだ清光。そして、政府からアシスタントとして派遣されたという「こんのすけ」他、使い魔の狐たちと共に。何だかんと、結局今のところごく普通に生活し、そして増えた刀剣達に戦って貰い、今のところ破壊された刀剣男士もおらず、日頃は無事に過ごしている。八百万の神の国の付喪神らしく、人間に近い性格をしたモノばかりで、さほど息苦しさは覚えていないのは不幸中の幸いだった。寧ろ、23世紀ではほとんど通えていなかった学校にいる気分だ。

(学校といえば、久しぶりに野球がしたいなあ。一応野球部だし……でもまず野球のルールを刀剣達に教えるところだろうなー。まずはキャッチボールからか。そういえばこいつらの中で野球知ってる奴っているのか)

「ねー、ちょっと。主。主ってば」

「何だ、もう芋が焼けたか」

「芋はまだだけど、さっきから隣でこんのすけが待ってるよ」

「あ」

 先日の内番で、陸奥守が収穫してきてくれた芋が、2人で集めた枯れ葉の下で焼き芋へと進化しつつある。その観察を妨害してきたのは、いつの間なにやら隣で鎮座していたこんのすけだ。政府からの使い魔、アシスタントの「こんのすけ」だ。どうやら狐らしいが、更に狐の面を被っているという奇妙さだ。更に奇妙なのは、この狐が「審神者殿、遠征部隊が帰ってきましたよ」と流暢な人語を解する事だが――鳴狐のお供は、「鳴狐は付喪神、その付喪神とワンセットな訳だからただの狐じゃないだろうし」で片付けている――。こんのすけの告げた内容と共に、表の方から複数の男達の声が聞こえてきた。それに立ち上がりながら肯いて礼を述べた。近侍の清光は、一緒に芋を焼いていたから気付かなかったようだ。政府に打たれた薬のお陰で以前よりもずっと健康になった手足を伸ばしながらかけ出す。そして縁側から立ち上がりかけた清光を押し止めた。

「そこに火の元があるでしょ、清光はそれ見てて!」

「あ、うん……」

「あとで一緒に芋食べようねー、こんのすけも」

 いいながら、手を振る。それに小さく、はにかみながら手を振り返す清光の姿は、角を曲がったら見えなくなった。

 

「主はさ、とっくに気付いてるよ。俺らの矛盾点に。お前も気付いてるんだろ」

「『加州清光』の本体が政府にある、という事でしょうね。ここの審神者殿は、スカウト当初から利発な方でしたよ」

 立ち去った審神者。残された清光は、立ち上がらずに枝を振り回す。狐の面を被った狐は、悪びれもせずに返答した。その声が、嘗てここの審神者を病院にまで訪ねた男と同一のものであると知る者は、この場にはいない。火の爆ぜる音が、遠くから聞こえる喧噪とは別に響いた。こんのすけと名乗る、狐はいう。

「正確には、沖田総司が池田屋事変で損じてしまった加州清光。それが、刀剣として完全な姿で政府に存在する。恐らく、薬研殿がやって来た時点で確信したでしょう。彼は織田信長公と共に焼失した、という事になっていますから。……私共はきちんと説明しましたからね、あなた方付喪神の仕組みについて。いわば、政府にある本体から、審神者殿が鍛えた媒体に送られてきた分霊だ。サンドイッチに具があるのは、誰かが挟んだから。おにぎりに具が入っているのは、誰かが具を入れたから。ドーナツに穴が空いているのは、誰かが空けたから。結果には、原因がある。つまり、誰かが政府に『沖田総司の使っていた加州清光』を、完全な姿のまま政府に持ってきたという事実に他ならない。過去の改変を阻止する為に送られてきた筈なのに、なぜそのような過去が変わってしまうような事態が存在するのか。……政府が既に、『やらかして』しまった事を、ここの審神者殿は気付いているでしょうね。そして複数の審神者が過去に送られているという事実にも、分霊システムが必要だった理由も」

「それは、『人類のこれからのより良き未来』の為に、悪い選択肢は減らす為。政府がやらかした『悪い選択肢を増やす事』――現代社会にいまだ何の影響も出ていない事がその証左。過去を遡る時点で未来に何の影響も与えない。ただいたずらに、並行世界を増やす事。それでも、戦力の充実の為に、時に『並行世界を増やす事』もする。……歴史修正主義者と戦う意味は、ただの政府の現状の保守に過ぎない。最大多数の幸福、だっけ。その為に、俺の『本体』も、どこかの沖田くんから掻っ払ってきたんでしょ」

「さすがに、分霊といえど、神。気付かない訳がありませんでしたね」

 それは遠回しの肯定だった。清光は、思わず遠い目をする。政府にある「本体」の自分。彼は一体、どの世界線の沖田総司から奪われてきたのだろう。

 過去の改変とは即ち、並行世界を――ともすれば未来の「不幸な選択肢」を増やす事――に繋がりかねない。世界線はレールのように並んでいる。ともすれば簡単に隣に連結し、不幸な未来を辿っていく。時折、嘗ての主の為に歴史の改変を望む付喪神達の幾人が、この事実に気付いているだろう。現在の人類の幸福の為に、過去の自分達は嘗ての幸福を見過ごす事しか出来ない。それも、改新より保守的な事の為だ。しかも、その為にどこかの自分が、主の元から奪われた。ここの審神者の実家にあったという妖刀のように、まともに政府に引き取られたのならばまだよい。しかし薬研などのように、本来の世界ならば失われていた筈のそれが、他の世界線の過去から奪われてきた――その事実は、あまりに恐ろしかった。

 元の技術は、23世紀から100年以上前、人類が異界から侵攻してきた敵から手に入れたと訊いている。その敵が、なぜこちらにやって来たのか。洋書のページを捲るように、遠く離れた世界線からやって来た彼女達に何があったのか。自分達刀剣の付喪神は知らない。ただ、この技術を知れば、おのずと理解できる。屹度、自滅したのだ。こんな技術は、「普通」の人類の手には余るものだ。道具だった自身でも、それはわかると清光は草履を脱ぐ。片足を縁側に乗せた。顔を埋める。先程、審神者が気にしていた襟巻きが揺れた。

 全てを知っているのは、この政府からの使い魔である「こんのすけ」――そして、その子孫であり、「記憶」を受け継いでいるのだろう、審神者だけだ。先程の会話から、確信していた。だから、尋ねる。

「……主は、艦船血統……艦娘とやらの子孫なんでしょ」

「おや、それもお見通しで」

「まるで、強い深海棲艦と『会った』事のあるような口振りだったもん。艦船血統は、血筋で記録を受け継ぐ。それこそ、神の種を血筋に宿して、その力を受け継がせていく昔の巫女のように。主の代になっても残ってる訳だ。……あざとい事するね。俺達みたいなのは、巫覡を本能的に好む。俺は今は主の人の好すぎる節があるところが心配で好きだけど、最初に好印象を持ったのはそのせいだね」

 淡々と綴る、それらの言葉はまるで他人事だ。だが、すらりとこんのすけに向ける、その目はむき身の刃だ。彼の本体、打刀「加州清光」そのものだ。

「あのさ。主の事、心配なんだよ。主のご先祖も主も、周囲の為に戦わせられてる。主は以前はもっと体が弱かったっていうし。主は見た目より強かなのは知ってるけど……もし、お前らのせいで主に何かあったら」

「大丈夫ですよ、加州殿」

 だがその切っ先を、こんのすけは避けた。尻尾が揺れる。目を瞬く彼に、こんのすけは「笑った」。面で見えない、それに相手は動物の姿をしている。しかし、確かに笑ったように見えた。正確には、ここから遠く離れた、23世紀の政府。そこに詰めているだろう、この狐を派遣している審神者の男の、自嘲が。

「ここの審神者殿は、寧ろこれからの政府を変えていかれるでしょう。……貴男はご存じないようですが、今の政府の原型を作ったのは、艦船血統や、深海棲艦と戦った旧海軍・陸軍の人間ですよ」

「それは」

「その人は、定年まで、……終戦まで深海棲艦との戦いに身を投じ続けました」

 突然語られ出した、昔の話。この時代からは未来に当たる。21世紀の、艦を巡る戦い。それに関わった人物らしい者の事を、こんのすけは声を低めて語り出した。

「その人は、全ては艦娘の為に、と。戦後も、艦娘を守る為に、艦娘の立場を守る為に、支援団体も作りました。そして、深海棲艦を殲滅して得たブラックボックスの解析には艦娘が欠かせない、と主張されて。無視するには、彼が司令官として上げた武勲はあまりに大きかった。艦娘を現役中、ひとりも轟沈させなかったという事実が、厳然としてそこにありました。そして、その支援団体を作り……彼は引退しました。その団体が、今の『政府』の母体となったんです。彼は、その後、実家で家族とつましく暮らし、天寿を全うされたそうです。ひどく病弱だったそうですが、一病息災という言葉通りにまめに医者にかかられていたようですからね。その後は、子孫に無理に国防や政治などに関わらせる事もせず。……今の代になると、先祖に海軍将校と艦娘がいた、というぐらいしか伝わっていないようですね」

「――」

「調べると、そっくりなんですよ。彼が海軍士官として着任してからの仕事ぶりと、ここの審神者殿の仕事ぶりが。誰よりも、自分の指示に従って戦ってくれる者達を大切にする姿勢が。……支援団体を作った時に周りの協力は募っていますが、彼自身の名は残されていなかった。敢えて残さなかったんでしょう、自分の子供達に、もう戦いに身を投じさせないように。彼の妻も、艦娘だったから。自分の子孫がまた何かに巻き込まれる可能性を消したかったんでしょうに。これだけは、彼の私情、本音だったでしょうに。……だから、ここの審神者殿も、他の野に下った艦娘の子孫のように、スカウト対象になってしまったんです。本来なら、子々孫々、平和を享受させるべきだったのに」

 歯軋りの音が、聞こえてくるようだった。面の向こう。23世紀のこの使い魔の主は、一体どんな表情をしているのだろう。そして、こんな事を漏らしていいのか。清光には判断しかねた。

 ――今の状況。それを作り出したのが、主の先祖。けれど、それも全て、守る為の。

「……ヒトは案外、その時に最良の選択肢を採っているんだそうです。たとえ、あとでひどい結果になっても」

 落ち着きを取り戻した声で、こんのすけはいう。それには、と顔を上げた。焚き火はまだ燃えていて、芋が焼き上がるにもまだ時間がかかるだろう。その中で、淡々とこんのすけは告げた。

「ここの審神者殿も、常にあなた方を気遣う選択を採っている。こちらこそ、神々のあなた方に申し上げたい。彼を決して裏切らないで欲しい、と」

「……主が、俺らを裏切らないならね」

「そんなの、本当はもう、わかりきっているんでしょう」

 それに、清光は答えない。複数の足音が聞こえてきたからだ。その中に混じる主の足音が、特に彼の口を一度閉じさせた。そして縁側を遠征部隊を伴ってやって来た審神者に顔を合わせてから再び見た時、既にこんのすけは尻尾を振りながら立ち去っていくところだった。そして、薄暗い部屋の陰へ――消えた。

「ただいまー。みんなも焼き芋食べたいってさ。……どうしたの、清光。そんな顔して」

「え、何。かわいくない顔してる」

 戯けたふりをして、自らの顔に触れる。それは表情を隠す為だった。それに「あーはいはい、かわいいかわいい。それより芋足りるかな」と苦笑する審神者は、清光が取り落とした枝を手にとって焚き火の枯れ葉をかき回す。下敷きになっていた、燃えた枯れ葉が姿を見せた。皆がそれを見ている中、安定だけが、相棒の顔を見詰めていた。

 

 

(原因=結果)

 

End.

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