▼弟のショタ審神者もいます んばみかは彼の現世近侍です
pixivより転載
今日から、審神者の実家で暮らすことになる。これは「期限」が来た時間停止型審神者が1度予備役に編入して復帰できる時期を待つことを指す。丁度、というか兄のその期限と合わせて、同様に審神者をやっていた弟も予備役に編入されることになった。予備役の間に大学を卒業するまで現世で過ごす。その間は、護衛としてそれぞれの本丸から現世近侍がつくことになった。現世近侍は文字通り現世で過ごす審神者につけられる護衛だ。彼あるいは彼らには本丸への鍵役、霊体化、念話などのオプションが付与される。
長々と話したが、要は最初に言った通り審神者の実家で、自分たち刀剣男士も一緒に暮らすことになるのだ。中々ないことだ。余程広い家でないと大の男たちを迎え入れることはできない。何なら常に霊体化しているという選択肢も取れたが、ここの審神者兄弟の家は別だった。家は広く、部屋数も多いという。そういうわけで、大の男3人が加わっても問題はないという。光熱費とか食費はどうなっているんだろうと思ったが、その辺りは政府から予算をもらっているのでどうにでもなるという。
そういうわけで、この日。政府からやってきた審神者の家は、和洋折衷という様子の大きな家だった。
「本丸ほどじゃないけど、でっかいな主んち」
「本丸は城塞だから一般人の家庭と比べないで。ああ●●……三日月さん、切国さん、しっかり支えてあげてください」
「あいわかった」
「あぁ、主。荷物が重いだろう。俺が持つ」
そう言いながら審神者兄弟の両親に先導されて、扉が開かれた――
と、何かが飛び出してきた。それはこちらの主――兄の方に飛びついてくる。
すわ襲撃か、と身構えかけた俺に審神者は「待って」と制止してくる。そして審神者は鞄を地面に置くと、飛びついてきた白くて小さい何かを抱えた。
それに、既視感を覚える。なぜか花の香りがした気がした。
「フォウ!」
「フォウくん久しぶりだね。まあこちらの感覚だとほんの数日だろうけど……お前にはわかるかなその辺」
「フォウフォウ!」
「そっかそっか」
「あの……主、その…犬だか猫だか兎だか判然としない生き物、それの言葉がわかるのか?」
「何となくね。フォウくん、ほら●●だよ。それに他の刀剣男士の皆にも慣れてもらわないとね」
「ペット……なのか?」
国広の言葉に、弟も両親も首を傾げた。そして審神者は言った。
「フォウくんはフォウくんだよ」
「……とりあえず種族をはっきりして欲しいんだが」
「やれ、国広。あまり主の兄君を困らせるでない。それにさっさと家に上がらせてもらおう」
国広の言葉は、三日月の諫めに尻すぼみする。仕方なし、という様子でとりあえず全員で部屋に上がった。
部屋を宛がわれ、一通りの部屋の説明を終えたのち。人心地ついたところで、居間に集まった刀剣男士と俺の主で話をする。フォウくん、とやらは相変わらず俺の主に懐いていた。猫より小さな体で肩に乗っている。
口火を切ったのはやはり国広だった。
「その……生き物はなんなんだ? 犬か? 猫か? 兎か?」
「俺たちにもそれが判然としないんだよね。とりあえず兎ではないよ、雑食だし、肉球ついてるし」
「肉球?」
「兎には肉球がついてないんだ。草食動物だからね」
なるほど、思わぬ知見を得たところで国広は更に問う。
「それでは、何の動物なんだ」
「さあ~、フォウくんはフォウくん、という認識でウチで飼われ続けてるからなあ」
そう言って主は遠い目をする。
「俺が生まれた時からずーっと傍にいて、曰く母さんが子どもの頃からずーっと傍にいて、更に聞いた話だと祖父ちゃんが気が付いたときからずーっと」
「待て待て待て、いくつだこの謎生物は」
それを聞いて俺は思い出す。イギリスの魔法学校もので、ペットのネズミが殺人犯が変身していたものだったという話だ。そして俺は先程感じた既視感を口に出すことにする。
「なんか……この生き物、いつかこの主が夢に囚われた先に出て来た人物に似てる。雰囲気が」
「雰囲気が? どういうことだ」
さすが同業、夢に囚われたというぐらいでは動揺しない。御手杵は感動しつつ以前あったことをさっくり話してから、言う。
「丁度、こんな夢みたいな色をしたグラデの髪をしてたんだよな。名前は聞かなかったけど」
「聞かなかったのか」
「なんか、『名乗っても信じてもらえないだろうから』って言われた」
「言われたねえ。俺はあの人の正体が誰であっても驚かないつもりだったけど」
そう言いながらフォウくんの腹を撫でる。フォウくんは心地よさげに微睡んでいた。そして主は言った。
「ま、なんにせよフォウくんはかわいい。怪我も病気もしない。……そもそも新種くさいから獣医に連れていけないのもあるけど。それで十分だよ」
「そういうものなのか」
「そういうものなんです」
そう言って主はフォウくんを縦抱っこすると、その背中を撫でてやった。すると間もなく、フォウくんは眠りについたのだった。
俺は結局、この不思議な生き物と10年近く共に過ごすことになる。
了