▼リアルで私が捻挫しました あのね、ちょっと病院の予約時間が迫ってて急いでて家の階段を駆け下りてたら踊り場に着地したときグギーっと 靴下履いてたからそれで中で滑って余計に捻じれたんだと思う 思わず誰もいない家でひとり「なに?!??!」って叫びました でもバスの時間があったから痛む足を引きずって病院に行きました なお大学病院だったんですが、そこの整形外科は紹介状がないと受診できないので泣く泣く予約していた科を普通に受診して、マツキヨで湿布と包帯ネット買って帰りました しかも近所に整形外科がないから詰んでる だんだん痛みが酷くなっていくし腫れていくしで エーン 4日ほど経った今日になったら腫れがそこそこ引いたかなって感じです みんなも急いでるときこそ階段は気を付けよう! 裸足だったらここまで酷くならなかったろうな
pixivより転載
ひょこ、と足を引きずる。審神者をはじめてからは珍しい洋装だった。有体に言うとジャージである。理由がある。狩衣だとはっきり言って歩きづらい。特に、今のように足を傷めた状態では。
「まったく、階段で転んで捻挫とか間抜けが過ぎるよ主」
「まったくだ」
「面目ない」
ひょこ、ひょこ、と左足を引きずる審神者の右隣で加州が言う。審神者を挟む形で反対側に長谷部が審神者の荷物を持っていた。護衛と荷物係である。
審神者は今朝、所用で急いでいたために本丸の階段を駆け下りていた。その際に階を踏み外し、着地をし損ない左足を捻挫したのだった。なお、その場でひとり物言わず悶絶していた審神者の第1発見者は泛塵で、彼は泡を食って審神者を横抱きにして執務室にいた加州の下に運び込んだのだった。薬研が呼ばれ「こいつは医者に診せた方がいいな」ということだったので、審神者は着替えて政府本局直轄の病院の整形外科を受診したのだった。
結果としてはただの捻挫。1週間ほど安静にしているように、と湿布だけ処方されたのだった。本丸には包帯は掃いて捨てるほどあるので。ネット包帯で覆われた左足を引きずりながら審神者は言う。
「まあ骨折じゃなくてよかったよ」
「それはそう。骨折は痛いからね~」
「そうそう、昔集団リンチ受けて骨折れたけどめっちゃ痛いんだよね」
「ごめん、闇歴史やめて」
「主? 主? そういう話は俺は初耳なんですが」
「あー長谷部には話してなかったっけ? そうそう、俺頑丈だからその分痛めつけられてさ~」
「お願いだからやめて、悪かったから」
世間話でもするように笑いながら凄惨な過去を話す審神者に、加州は耳を塞いで長谷部は目を剥いていた。そして、審神者はふと空を見上げた。青い空だった。
「そう言えばこんな日だったな」
「って言うと?」
「俺、今より小さい頃にも、1回捻挫してるんだよね。祖父ちゃんと出かけたとき。そのときは右足だったんだけど――」
多分、はしゃいでいたんだと思う。
思うようにならない病弱な体。それでも気紛れに体調が良い日があった。そういうときは、学校が休みならば決まって出かけた。弟と一緒に出かけることもあったけど、その日は弟は友達とサッカーをする約束をしていた。なのでその日祖父と買い物に出かけたのは俺だけだった。例の如く、両親は仕事に忙しかったので。
娘とやや折り合いが悪く、隠居してからは普段は第3新東京市の近郊に住んでいる祖父が、それでも頻繁に顔を出してくれたのは仕事に忙しい娘夫婦の代わりに孫たちを可愛がるためだったのだろう。子供心に何とはなしにそれを理解していたので、長じるにつれて祖父には遠慮が出るようになった。このときもそうだった。けれど子どもの決意など簡単に揺らぐもので、新しい靴を買ってもらい、美味しいと評判のファミリーレストランでハンバーグを食べたあとは、帰り道はスキップして歩いていた。
「楽しかった! 祖父ちゃん有難う! 弟にもお土産買えたし」
「どういたしまして。お前に楽しい想い出ができたなら何よりだ」
じいちゃん、と彼が呼ばれているのを見て道行く女性がギョッとしたのを見た。無理もない。30代で通る祖父は結婚式に呼ばれるときひどく億劫そうだと母から聞いていた。女性が入れ食いなのだ。離婚しているから虫よけの結婚指輪も嵌められないし、偽装で指輪を嵌めることもできない実直な人だ。尤も個人的に「お付き合い」している女性は入れ代わり立ち代わりいたようだけど――閑話休題。
そんな祖父を振り返りながら歩いていたせいだろう。俺は階段に差し掛かったのに気付かなかった。
「あ」
「――●●●!!」
駆けだした祖父の手は間に合わず。
俺は階段を滑り落ちた。
――そしてなんとか着地したものの、力加減を誤り右足を思い切り挫いたのだ。
「……!」
「●●●! 大丈夫か?」
「子どもが階段から落ちたぞ!」という騒ぎの中、迷いなく階段を駆け下りて来た祖父。その祖父に、俺は笑おうとした。
この年の時点で、俺は痛みに慣れていた。慣れているつもりだった。正確には慣らされている段階だった。家庭運と友人運には恵まれていたけど、なぜか病院に関わるごとに治療以上の痛い目に遭う。この当時の時点でそこそこ痛みに慣れていたつもりだったから、俺は笑って顔を上げた。声は掠れていたけど。
「……大丈夫」
「ではないな、その様子だと」
けれど祖父の目は確かだった。
階段に俺を座らせると、どうやら俺が着地を失敗した方の足を正確に見ていたらしい。スニーカーと靴下を脱がした俺の右足を見た。じわじわと腫れつつあるそれを見て、祖父は再び靴下と靴を履かせると、荷物の入った鞄を肩にかけたのち俺を抱え上げた。そして携帯端末を弄りながら歩き出す。向かう先は出口だ。
「祖父ちゃん?」
「病院に向かうぞ。タクシーで土曜でも受け付けてくれる整形外科に行く。それまで痛いのは忍耐してくれ」
「うん」
「あぁ、でも」
建物の外に出たところで、祖父は俺を見下ろして優しく微笑んだ。そこそに年輪の刻まれた、それに相応しい穏やかな笑顔だった。
「泣きなさい。張り裂けんばかりの大声で。暴れるのは足によくないからやめて欲しいが……今は、私はお前の泣く顔が見たい」
「――」
それは、幼心に祖父なりの優しさだと気付いた。
「お兄ちゃんなんだから」と言われたことは1度もない。このあとも1度たりともなかった。けれど何より自分自身が、やや年の離れた弟を守ろうと、強くあろうとした。それは結果として審神者になる道を選ぶことになるけれど、それはともかく。俺はそう言われて、心の端がむずかる気配を感じた。
けれど俺は長男だった。そして、これは●●●●●が抱いている宿痾のようなものだろう。
俺は大声を上げることはできず――代わりに、はらはらと涙を零した。そんな俺を、タクシーに乗った祖父は黙って頭を撫でてくれたのだった。
結局ただの捻挫ということと、家に帰ってから「子どもはいきなり駆け出すものなんですよ!」と祖父が母に叱られていたのを見て「俺が悪いんだよ、俺が前方不注意だったから」と取り成したら「こういうことは大人の責任なんだよ」と肝心の祖父に言われてしまった。
尤も、これで祖父が俺たちを連れ出すことはやめることはなく、両親も止めなかったことはおまけにしておこう。
「っていうことがあってね」
「良いお祖父さんじゃん……ただのチャラ男かと思ってたけど……」
話し終わる頃には本丸に着いていた。執務室に布団を敷かれオーバーテーブルが渡される。その上でパソコンを設置された。ホロのモニターが無事出力されたのを確認した長谷部は、(これで主が寝ながら仕事ができる)と安心しながら審神者の荷物を片付けながら彼の話を聞いていた。
家庭と友人には恵まれているらしいとは聞いていた。素直に泣けない孫にする対処としては良いモノだろう。そう思いながらも聞き耳を立てていた。
そう、審神者が溜息交じりにそれを告げるまで。
「そう、良い祖父ちゃんなんだよね。俺の手当てが終わるまで、女性看護師さんに色目使ってたけど」
「しまらないね……」
「もうそれ病気でしょう」
「そう思う。俺の色ボケも祖父ちゃん譲りって言われてる……」
感動が一気に台無しになった。「それじゃご飯は部屋で食べてね。運んでくるから。何かあったら呼んで」と立ち上がった加州についていきながらも、「良い話だったんだが……」と余韻を噛み締めた。
了