pixivより転載
「相当大規模な訓練があるみたいだね」
それはいつも通りの日のはずだった。
初期刀兼近侍の加州、隊長の御手杵以下第1部隊に編成されることの多い面子。軍議室でホロモニターを前に腕を組む審神者は真剣に唸った。彼はこの日は珍しくTシャツにジャージというラフな格好だった。冬の景趣だが室内は暖かいのでこの格好でも問題ないのである。昨日からこの格好だった。
「大侵寇に備えよ、か……青野原の様子も不穏だったし、ここは思い切った戦略が必要かもね。極カンスト短刀揃い踏みでも無傷は難しかったし……」
「俺も情けなか……」
「あんなにボロボロにされたの久々だったよ……」
「脇差ガードも難しかったしね」
「太刀の先制攻撃でも刀装を少し剥いだだけだったし……」
「極太刀はまだそんなに育ってないから仕方ないよ。編成を改めて考えないとなあ……」
浮かび上がった幾重のモニター。それらをスライドさせながら審神者は難しい顔をする。顎に手を添え――不意に脇腹に手を添える。眉間を顰めた。だがそれは一瞬のことだった。そのまま「極大太刀の練度も上げたいね」と話を移行しようとする。そして、ふと顔を向けた。
先程からずっと黙って審神者を見ていた御手杵に。
「御手杵。部隊長として何か意見はあるかな」
「あると言えばある。ただ俺個人の意見なんだけど」
「何かな」
他の刀剣男士が見つめる中、御手杵は「ちょっと失礼」と断りながら――審神者の前にしゃがみこむと、彼のTシャツの裾を捲り上げた。ギョッとする周り。加州が「何してんの?! そういうことは2人きりのときに――」と苦言を呈しかけたところで、彼も見た。
薄らと筋肉のついた、しかし未発達な腹。その右の脇腹に痛々しい、大き目の擦過傷のような痕――全体としては赤く染まっている。思わず息をのむ加州。顔を顰める審神者。御手杵は呆れ顔で言った。
「あんた、さっきからこの脇腹気にしてたろ。これただの傷じゃないよな。それで今は冬場――免疫系等のなんかじゃないか?」
「あっ、主もしかしてそれ帯状疱疹じゃないの!? 家庭の医学書で見たことある! 毎年冬になると口唇ヘルペス発症してたじゃん! それ早く治療しないとダメなやつでしょ!」
加州に矢継ぎ早に責め立てられ、刀剣男士たちも「主さん具合悪かったんですか?!」と口々に言う。それに審神者はたじたじだ。
「む、虫刺されのひどいやつかなって思って……かゆくなくかったけど……」
「寧ろ痛くなってきてるんだろ。明らかに痛そうだし。服がこすれると痛いから身軽な格好してたんだろ。軍議は中止だ! 加州、構わないよな」
「当たり前じゃん。主、病院行くよ。薬出してもらおうね。別の病気の可能性もあるし」
「ちょっと待って2人とも、待って、待って、あーっ」
「それじゃみんな一時解散! ほら保険証とお薬手帳と診察券持ってくるから!」
そう言って御手杵と加州は審神者の腕を片方ずつ掴み引き摺って行く。じたばたと暴れる審神者の膂力ではどうしようもなく――軍議室を出て行った彼らを見送った刀剣男士のうち、誰かが言った。
「御手杵さん、最初の頃に比べて随分人の変化に敏感になったね」
「あれは相手が主さんだからだと思う」
初鍛刀乱の言葉に、息が漏れるように皆が「あぁ……」と頷いた。
「まったく、主専用ナイチンゲール加州の異名をとった俺より先に気付くなんて!」
「だってさ、主の変化って愛おしくないか? 些細なものでもさ。それがマイナスのものでも」
「……それ主には言わないようにね。特に最後」
「なんでだぁ?」
なおその後処置が比較的早かったのと23世紀の医療のために次の日には痛みが取れたという。
了