pixivより転載
三日月の帰還後、「残りは掃討作戦となります」と言うこんのすけが続けた言葉に、審神者は顔を上げた。
「本丸をバージョンアップする……? それって」
「本丸の警備が整いますね、主!」
三日月の無事の帰還に泣き濡れていた審神者を心配してタオルを持ってきた長谷部が、審神者が示した喜悦に賛同した。否、したつもりだった。
審神者の喜びは斜め上だった。
「組織犯罪系ブラック本丸が減るってこと!?」
組織犯罪系ブラック本丸。それの性質は主に気候調節の自由な広い閉鎖空間、大勢の従順な男手という特殊性を活かした犯罪を行う本丸を示す。専ら反社勢力と手を組むのが常套だ。麻薬密造、武器密造、違法AV・スナッフフィルム撮影、資金洗浄……上げればきりがない。
ここの審神者は、その摘発に頻繁に駆り出されていた。
こんのすけが嘆息する。
「ここの審神者様にはご面倒をおかけしていますが……」
「全くだ。大侵寇が来るまではウチの主は最近は専らそちらにばかり意識を割いていたんだぞ。主のご本業は俺たちの指揮のはずだ」
「俺が有能なばかりに」
「ええ全くその通り。主、あなた有能すぎるんですよ。なんでそんなになんでもできるんですか。なんでもできるからなんでもしちゃうんでしょうが」
おちゃらける審神者に長谷部が進言する。
「あなた、お身体が強くないんですよ。わかってますか」
――ここの審神者は酷く病弱だ。だった、というべきかも知れない。体を鍛えたことと、なにより大典太が来たことが大きかっただろう。それでも基盤の体質は決して強くない。時々寝込むこともある。長谷部はそれを憂えていた。タオルで顔を拭う審神者の肩に手を置きながらこんのすけに言う。
「主は戦の指揮も犯罪本丸の摘発もできる稀有な人材だ。しかしまだお若い上にお身体も弱い。その上今回の防人作戦でほとんど寝ていないんだぞ。いいか、バージョンアップすると言うなら主の仰る通りそちらの整備も――」
「あ、お待ちください。入電がありました」
長谷部の提言を黙って聞いていたこんのすけだが、そう言って不意に首輪からホロモニターを出力した。それから、しばし。こんのすけは黙っていた。
黙っていたが、それもここまでと言う様子で重苦しく言った。
「……審神者様」
「うん」
「現在政府は大侵寇を受けて立て直しを図っている最中です」
「うん」
「つまり弱っています」
「うん。で?」
「……犯罪組織と手を組んだ本丸が、政府本局の『蔵』に押し入ったそうです。現在政府所属の戦力が応戦中とのことですが戦況は苦しいとのこと。応援を要請する、とのことです」
「……」
「……」
「あれ? どうしたのこの重苦しい空気」
泣いていた審神者に水分補給させるためにスポーツドリンクを取りに行っていた加州が戻って来た。そして沈黙している審神者とこんのすけ、長谷部を見て目を瞬く。
しかしそれも数秒のことだ。審神者は長谷部の方を向いた。
「長谷部」
「はっ」
「俺はさすがに今は前線を離れられないからお前に現場での指揮権を預ける。今から臨時部隊を選出するから連れて行って鎮圧してきて」
「主命とあらば」
「はあ~~~~まったく! 犯罪者ども! 犯罪者ども!!」
審神者は諸手を上げて喚いた。珍しい光景だった。さすがに疲労が来ているらしい。それでもすぐさま臨時部隊の刀剣男士の名を呼びつけたので、大物になるな……と長谷部は思いながらこんのすけと共に駆け出した。
「主、本当にお疲れ。休みたいって言ってもいいんだよ?」
「スポドリが沁みる……あと休むのは残党狩りが終わってからにするね……」
「なんでそこまで頑張るの……」
了