▼審神者の闇歴史、一周回ってネタになった感じの話
pixivより転載
ひらり、と書類を捲ってひと言。
「呆れた」
「わかる」
「それで、今回の組対部案件はどんなだったの」
執務室。折り畳んだ座布団を枕に横たわる男たちが2人。片やここの少年審神者、片やここの「汚れ仕事担当」近侍の長谷部である。横たわっているとは言っても枕は並べていない。長谷部の足元には審神者の頭があるし、審神者の足元には長谷部の頭がある。加州がプリンとコーヒーを2人分盆に乗せてやってきたとき、「シックスナインかな」と日も高いうちから品のないことを思いながらも書類を見上げている審神者に問うた。
彼らは先程帰って来たばかりだ。正確には他にも部隊を引き連れて行き、部隊長の長谷部以外は既に食事や入浴をしているところだ。報告書を仕上げるためのささやかな休息だろう。仕事が早いことは知っていたので彼らに「落ち着いたらプリン食べなよ」とちゃぶ台に盆からおやつを置いていく。そこでようやく、審神者は起き上がった。白い頭の前髪を掻き上げた彼は嘆息する。
「一言で言うと闇オークション開場」
「闇オークション」
「現世で開けないからって、本丸コードを招待状にしてゲートに通して本丸側は集めた窃盗品を競にかけたわけよ。尤も、盗んだ美術品を蔵に保管していたら美術品に付喪神が憑いててそこの刀剣男士と話した結果通報と相成ったわけだけど」
「組織犯罪系ブラ本も手口が巧妙になって来たねぇ」
「もうこうなったらいたちごっこよ。ああ長谷部、先にプリン食べよう。プリン美味しい。うめ、うめ」
「これは小豆のプリンだな……メープルシロップが利いている。甘すぎるほど甘いが今の俺たちには丁度よいですね……」
「頭使ってくるだろうからって小豆が甘さ濃いめのプリンを作ってくれたんだよ。脳味噌にカロリー回った?」
陶器のカップを空にした審神者と長谷部はそれぞれの速度でコーヒーを啜る。長谷部はブラック、審神者はメープルシロップで淹れたカフェオレだ。尤も審神者はプリンが甘すぎたためブラックの方がよかったなと少しばかり後悔していたが。
「ご馳走様。少し歩きたいからこれを片付けてくる。清光、主の手伝いをしてくれ」
「わかった。任せるよ」
そう言って長谷部は、加州から受け取った盆に空になった器を載せていくとさっさと執務室を辞していった。先ほどまで審神者と一緒にぐったりしていたとは思えない。審神者は書類をちゃぶ台に置いてから、頬杖を突いた。とろけている。どうやら今回の案件は相当疲れたらしい。それでもホロモニターを起動させる審神者に「もう少し休んだら?」と慌てて制する。しかし審神者は力ない笑みだ。
「このまま休んだら夜まで寝ちゃって細かいこと忘れちゃいそうだから……」
「あぁ、うん……俺、話しかけてた方がいい?」
「そうして欲しい。寝ちゃいそう。つーても何を話すか――ああ、思い出した」
言いながら淀みなくキーボードを叩く審神者。彼は何でもないように言った。
「そういや俺、昔、闇オークションにかけられたことがあるんだよね」
「いつもの闇歴史、と言うには一周回って興味深いから詳しくお願いできる? 所謂BLで出てくる感じの……?」
「うーん、BLはよくわからないけど漫画とかに出てくる感じではあったな。そもそも病院から売り飛ばされたんだけど」
「まーた医療施設関係で不幸な目に遭ってる」
「で、それでよくわからないうちにあれよあれよと牢の中で鎖につながれて――」
思い出す。突如として引っ張り出された眩しいほどのスポットライト。目が眩んだために客席はよく見えない。「1000万からスタート!」と言う言葉には当時7歳の自分も耳を疑ったけれど。
「待って、7歳?」
「7歳だったんだ」
――やがて男たち(偶に女)の声が「俺」の値を釣り上げていく。どうしたものか。鎖は容易に解けそうになかった。そもそも手錠がかけられている。自力で脱出は難しそうだから、買い取られたときに抵抗するしか――
「待って、なんで7歳でそんなに落ち着いtあっやっぱいい言わなくていい」
「さすがにオークションにかけられたのはあれがはじめてだったけど誘拐自体ははじめてじゃなかったからなあ」
「言うなっつったじゃん!! それでどうしたの? その危機的状況やばすぎるでしょ、金持ちの攻がいないとどうにもできない状況じゃ」
「ひょっとして清光最近腐った? まあいいや。大丈夫。そのときは普通に警察が踏み込んだ」
「よかった主の話にしてはハッピーエンドだった」
胸をなでおろす加州に、審神者は微笑んだ。
「そうだね。まず祖父ちゃんが警察より先に乗り込んできたんだけど。単身で」
「……は?」
加州が顔を上げる。審神者はキーボードを叩いたままだった。
「文字通り。ああ、単身とは言っても得物は持ってたな。木刀だけど」
「木刀1本で? 闇オークションの現場に? と言うか祖父ちゃんってあれだよね、主の母方の祖父って言う」
「そう、その祖父。凄かったよ、阿修羅の如き八面六臂の活躍ってああいうのなんだなって。拳銃を持った奴もいたはずなんだけど全然相手をモノともせずにあれだけいた警備員を無力化していってさ。木刀が聖剣に見えたよ。最終的に怯え切って沈黙した客や司会をものともせず、俺の元に歩み寄ってきて……檻の鍵を壊して俺を引きずり出して戒めの鎖も外してた。……あれ、今にして思えば本当に木刀だったのかな? 木刀で鎖砕けるかな?」
「怖い怖いあんたの祖父ちゃん怖い」
「バーサーカーってああいうのいうんだなあ、って思いながらも俺がぽかんと見上げてると、祖父ちゃんはそれまで真っ黒だったお顔に表情が戻った。……暴れてる最中はなんか目が赤く光ってた気がするんだけどね。で、俺の顔を両手で挟んで見下ろしてきたときは、心底ほっとした顔をしてた。それで」
審神者は言った。
「『無事でよかった』って」
「無事……無事だったんだよね?」
「無事だったよ、商品価値を下げないために強姦されたりもしなかったし」
「もう! もう!!!! そういうこと言う!!!!」
喚く加州に審神者は苦笑した。
「事実だし。まあもっとも、祖父ちゃん警察の人にやりすぎって言われてたな。俺を助けるの邪魔した奴ら全員病院送りになったらしいし」
「怖……え、なんでそんな強いの」
「さあ……剣道をやってたとは聞いてるけど。祖父ちゃんにとってはかわいい孫が攫われた上に売られそうになったとあっちゃ黙っていられなかったんだろうねえ」
審神者はほえほえと微笑む。一方加州は審神者の祖父の強さを想像して身震いしていた。彼は尋ねた。
「主のお祖父さん何者?」
「俺にもわかんない。ただね、俺から言えることは、祖父ちゃんは俺にとってのヒーローってことだね」
のほほんと答える審神者。彼はホロモニター越しに、立葵の花咲く庭を眺めるのだった。
「まあ、そのとき婦警さんナンパしてたけど」
「しまらないね」
「ところで主って最終的にいくらの値がついたの?」
「まだ値が釣り上げられてる最中に祖父ちゃんが乱入してきたからわからないけど、確かその時点で3億だったかな……」
「ヒェッ」
「でも俺と変わらない年の子……確かアイスランド人だったかな? が17億ついてたよ。その子も助けられたはずだけど」
「世の中広いねぇ……」
了