▼御手杵が審神者と付き合いだして、恐怖と言うものを覚えた話 あるいは肉体関係からはじまった審神者との関係に、御手杵が内心での変化を覚えた話
pixivより転載
その日の夢も、いつもの夢だった。
土に埋められることなく、家宝として蔵の中で燃え朽ちる夢。
それは実のところこの本丸に来てから毎夜のように見ていた夢だった。それ自体は気にしたことがない。それは、もう、本霊に刻まれた「事実」だからだ。眠れているには眠れているので、気にしたことはない。
ただ、本丸に来てから変わったことはある。今の主と付き合いだしたことだ。
肉体関係から始まった付き合いだから、堂々と言えた関係ではないけれど。
主はそれに、ただ微笑むだけだった。病弱な彼らしい、儚げな笑みだった。
……あぁ、まただ。またあの夢を見る。
ドロドロと、手足が溶けていく。指が、手が、腕が。恐らく顔も。そんな中で自分は焼けていくのを享受していた。いつもならこのまま骨の一片まで燃え尽きるのを待つ。それがいつもの夢だった。
――それに気付いたのは、辛うじて嗅覚が残っていた証だろう。
残っていた眼球が、蔵の扉が開いていたのを見た。今までにないことだった。自分は燃え盛る火の中、這いずり出した。
……水だ。水が欲しい。
俺は這い出して、外に出た。嗅覚の求めるまま、水の方へと……。
――暗闇の中、唐突に明るくなる。昼間なのだろうか。戸惑っている俺は、そこが海ではなく川だと気付いた。海水よりも淡水の方がマシだろう――そう思いながら、ふと気付く。
なんとか残っていた聴覚が音を拾った。
ちゃぷ、ちゃぷ。何かが水に浮かぶ音。
川に手を伸ばしかけた俺は、気付いた。
目の前にいたのだ。川面で仰向けに、諸手を広げた少年が茫洋とした目で空を見上げていた。
それは、主だった。
「どうしたの、御手杵」
審神者の私室で同衾していた夜だった。俺は飛び起きると、傍らで寝息を立てていた主を抱き寄せた。衝撃で目を覚ましたらしい主が困惑した様子で声を上げる。しかし無理に藻掻こうとはしない。俺の背中に手を回しながらぽんぽんと優しく叩く。
俺はと言えば、動揺したまま。俺に比べれば細い、少年の体を抱き締めたまま呟いた。
「主」
「うん」
「頼むから、身投げはしないでくれよ」
「うん……? 自殺の予定はないけど」
「約束してくれ」
俺が抱きこむ力を強くすると、主は戸惑ったままとりあえず、と言う様子で頷いた。
それで、俺は改めて認識したのだ。
俺はこの人の死を恐怖としている――たとえそれが、あの日、焼け爛れた自分の救済となってもだ。
水辺でオフィーリアのごとく浮かぶ主は、大層絵にはなったけれども。そういうことでは、なかった。
それは俺が主への気持ちを自覚しはじめたときの話。
了