▼大侵寇のとき政府おさえられかけたんだからあれで普通敗北ルートだよなと思った
pixivより転載
いつかこうなる気はしていたのだ。
「みんな。我々の敗北だ」
大広間にて、そう告げる。自分でも穏やかな声だったと思う。そして、それに対する刀剣男士たちの反応も穏やかなものだった。――わかっていたことだ。戦況が酷かったことは。傍らのこんのすけは沈黙している。今頃彼と繋がっている政府が押さえられているところだろう。彼の口からは降伏を告げる言葉しか出ない。
俺は、淡々と告げた。
「今から24時間後にすべての本丸は解体される。我々は皆この本丸でこの生を終える。各々、この本丸の中で悔いのないように残りの時間を過ごすように」
「待った、大将」
手を挙げたのは薬研だ。彼を見ると、薬研は紫紺の目でこちらを見詰めていた。真摯な眼差しだった。
「俺たちに否やはない。だが大将、あんたは人間だろ。あんたは――」
「薬研」
俺は言の葉を遮った。黙り込む薬研。彼に、俺は微笑んだ。
「現場の司令官を解放してくれるほど、向こうは甘くないんだ」
沈黙する皆。俺は「それじゃ、解散」と手を打った。それで、この本丸は終わりを告げたのだ。
「あんた、他に言うことはなかったのか」
声が降ってくる。聞き馴染んだ声だ。俺は湯飲みを持ったまま、顔を上げた。
そこには御手杵がいた。今までなら本丸にいるときは内番着か軽装だった彼は、今は戦闘着だった。彼なりの気持ちなのだろう。彼が来るだろうことは予想していた俺は、あらかじめ用意していたもうひとつの湯飲みを差し出す。縁側に座った彼は、それを受け取った。一口すすってから彼は言う。
「主。あんた、まだ将来があっただろ。少しぐらい悲嘆してくれたって俺たちは構わなかったぜ」
「だろうね。お前ら刀剣男士は優しいから」
栗饅頭を齧る。甘さの程よいそれは常日頃から贔屓にしていた店のものだ。
最期だから、日常を感じるものがいい。
俺は言う。
「でもね、俺は自分に対して期待してない。とっくに諦めてる。寧ろ悔いているのは、お前らに感謝の気持ちも謝罪の気持ちも示せなかったことだ」
「……」
「だって、俺はきっと時間いっぱいまでどちらも口にするだろうから」
「……そうか。でも、俺たちは本霊に還る。あんたは生まれ変わるだろ」
「どうかな。俺は魂ごと修正される気がするよ。それだけのことをしてきた。そしてきっとそれは俺じゃない。――生まれ変われても、きっと今よりずっと酷い戦乱状態だ」
怪訝そうな御手杵に、俺は言う。
「10億もの軍勢が、『歴史を変えたい』その一念だけで我々政府軍と戦ってきた。でも、今こうして政府軍を倒してしまった。これからどうなると思う? たとえばAを生かせばBが死ぬ、Aが死ねばBが生きる、そんな勢力同士がぶつかりあったりしたら……」
「……相当な内ゲバになるだろうな」
「そして結局、人類は衰退の一途を辿るだろうね。何もかもがわやくちゃだ。そんな世界で俺は生きていける自信がないんだ。だから、ここで魂ごとすっぱり消えてしまった方がいい」
「でも」
御手杵は言う。湯飲みを片手に、俺を見詰めていた。
「それでも、俺たちは……俺は、あんたがまた生まれてくることを祈ってるよ」
「……優しいのに残酷だね」
「神なんてそんなもんだろ。で、それで?」
「それでって」
御手杵は尋ねて来た。
「あんたの本当の本音は?」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
けれど、もう時間がなかったから。俺はすぐに口にした。
「……もう、誰も傷付けなくていいんだなって。そう思うよ」
「そっか。よかったな」
「それにごめんね御手杵。勝たせてあげられなくて」
「いいんだよ」
御手杵は、笑った。
「あんたの下で戦えたのが、最大の誉だ」
「……有難う」
どちらともなく黙り込む。茶を啜った。息を吐く。
「ああ。良いお茶だ。最期に相応しい」
「時間です」
ごとり。
2つの湯飲みが地面に落ちる。まだ中身の残っていたそれは、緑色の液体を撒き散らして、やがて動きを止めた。
そして誰もいなくなった。
了