pixivより転載
「思ったんだけどさあ」
執務室にて。それまで沈黙を保ったままキーボードを叩いていた主が、ふと呟いた。俺は報告書を同期させる手を止めて聞く。
「なにが?」
「困ったオッサンとテロリストだったら、テロリストの味方をするよね?」
「……は?」
何を言い出すのだろう、この人は。こんな危険思想だっただろうか。俺が頭にはてなマークを浮かべていると、主は続ける。キーボードを打つ手に淀みはない。
「親戚の家で200年ぐらい前に実際に起きたらしい出来事なんだけどさ。簡単に言うと困ったオッサンとテロリストの争いがあったらしいんだよ」
「はぁ」
「で、最終的に親戚はオッサンの方の味方をしてテロリストは伸してオッサンは去って行って万事解決したらしいんだけど」
「うん」
「俺だったらテロリストの味方をしてたなって」
「なんでそこでそうなるわけ?」
主の思考がわからない。今に始まった話ではないが。俺が困惑していると、主は背中を向けたまま話し出す。
「まずさ。困ったオッサンって簡単に言ってるけど、困ったオッサンと言うのは無限に不快を周囲に撒き散らす害悪なわけだよ」
「う、うん」
「それで、そこにオッサンを殺そうとしてるテロリストがいるわけだ。殺してもらうべきじゃない?」
「物騒」
「止める理由は人道的理由しかないわけだ。でも後顧を憂えるとオッサンは殺しておいた方がいい。そこをテロリストが殺してくれるって言ってるんだよ? 渡りに船じゃん」
「船もここまで物騒なものを運びたくなかっただろうな……」
俺の慨嘆に構わず主は言う。
「それに、オッサンを殺したらテロリストを処分する大義名分もできるわけだ。元々テロリストなんて要は犯罪者だからね。オッサンを殺したところで逮捕してもらえばいい。ね? これなら不快なオッサンもテロリストもいなくなるわけだ。ウィンウィンじゃない?」
「うん、主」
俺は、主の肩に手を置いた。振り返る、彼の顔は明らかに疲労が滲んでいた。このところ政府からの仕事の依頼が立て込んでいたからな。俺はそれを思い出しながら、できるだけ優しく微笑んだ。
「今、温かいお布団を敷くね。お香も炊くよ。主が寝てる間に小豆に頼んでおくから、お昼寝から起きたら美味しいおやつもある。ね、休もう。仕事をし過ぎなんだよ」
「俺は疲れてない」
「さぁ~~寝ようね~~」
「ああ~~~~」
俺は主を羽交い絞めにして、ホロモニターとキーボードの前から引きずり出したのだった。
午睡ののちの主は、「俺、疲れてるわ」とドーナッツを食べながら言ったのだった。人間、本当に疲れてるときは自覚ができない。カフェオレのお代わりを淹れてあげながら、俺は「人間はすぐ壊れちゃうんだからね」とぼやくのだった。
了