pixivより転載
10月31日早朝。俺が起こしに行くと、主は私室の布団の上で携帯端末を弄っていた。頭には寝癖がついたままだ。
「おはよう主。起きているようでなによりだよ」
「おはよう本歌。ごめん、今ちょっと通販してて……ポチッとな」
主が端末にシングルタッチをすると、ドタッと大きな段ボール箱が落ちてくる。思わず近くによって見に行ったぐらいには大きかった。
「何を買ったか聞いてもいいかな」
「飴」
答えながら、主は机からカッターを持ってくる。さすがに刃物としての俺も段ボール箱を開けるのに刀を使えとは言えない。見守っていると、ざくざくとガムテープを開いていった。蓋が開く。
中には3つほど飴が小さく包装された袋がたくさん入っていた。入っている紙は紫色とオレンジ色に黒い蝙蝠とカボチャが描かれている。
それを見て納得した。
「ハロウィン用のお菓子、買うのを忘れていたのかい」
「そう。10分前に目を覚ましたときに思い出して急いで選んで買った。最近贔屓のキャンディショップでこういうイベント用の量の飴を商品にしてくれてたから丁度いいなって。品切れじゃなくてよかった」
「そうかい。ところでTrick or Treaet?」
「はいよハロウィン第1号」
色気のない段ボール箱から、主は無造作にラッピングされた小袋をひとつ取り出した。
受け取ったそれを裏返すと、「カボチャ味」とある。俺は眉を顰めた。
「カボチャ味って……美味しいのかい」
「さあ」
「さぁって」
「はじめて買う味だからなあ……結構チャレンジャーなお店だし。レビューだと『柔らかい味』って評されてるから多分悪くはないんじゃない? きっと、恐らく」
「せめて自分で味見してから買って欲しかった。どれ……。うん、まぁ、悪くはないな」
「それならよかった。本歌が最初に来てくれて助かったよ。忌憚なく意見を言ってくれるしね」
布団の上で胡坐をかいたままの主は、障子から差し込む朝日の中で朗らかに笑う。そして、ふと遠い目をした。
「そう言えば、お前が来たのもハロウィンだったねえ……」
「あぁ……他の同位体も、多分君と同じ感慨を抱いてるよ」
俺も同じ目をした。
「監査官として入った先の本丸で、大抵仮装をして菓子をやり取りしていて『前線なのに大丈夫か』と思ったものだよ」
「まあこれも福利厚生の一種と言うことで……人の姿を取っている以上、人の年中行事を模倣するなとは言えないじゃん。俺だって楽しみたい」
「最後が本音だね」
「てへぺろ」
自分の頭を自分の拳で軽く叩いて見せる仕草にやや殺意が沸いたが、この主のいつものことだったので深呼吸してそれを収めた。そして腕を組む。
「まぁ……政府にいた頃も刀剣男士の福祉を見ていたことがあるからね。君のやり方は間違ってないと思う」
「そりゃよかった。そういやお前は仮装しないの? 毎年しないよねお前」
そう言われた俺は、じろりと主を睨んだ。
「俺は他の浮かれた連中と違うからね」
「いい加減浮かれてもいいと思うけどねえ……」
主は口元を手で覆った。多分、笑っていたと思う。
「それに、えっちな仮装したら喜んでくれる人がいるんじゃないの」
「に、偽物くんはそんなこと言わない!」
「誰も切国の話はしてないんだよな~~」
「あぁもう! ほら、さっさと身支度して! 朝食もうすぐだからね!」
ニヤニヤ声の主に憤慨しながら俺は部屋を出て障子を閉める。そこで大きく溜息を吐いて――その息が薄く白いのに気付いた。晩秋は目前だった。
了