pixivより転載
「煙草、1本くれる?」
その日、20歳の誕生日を迎えた審神者が言い出した。俺は縁側で腰かけながら彼を見上げる。
中学を卒業し、高校を卒業し、大学に入学。留年することもなく真面目に学んでいる審神者は、この日めでたく20歳になった。――否、時間停止型審神者として精神年齢はとうに成人を迎えていたのだがそこはややこしいので置いておく。とにかく戸籍上の年齢が20歳を超えたのだった。
この年にもなると家でお祝いするというわけでもない。大学のサークルの飲み会で祝われていた。俺はいつも通り霊体化してそれを見守っていた。それから自宅に帰って来て、酒臭いと弟に煙たがられながら着替えに行った審神者を見送って、俺は縁側に腰かけて煙草を喫いはじめたのだった。
俺が喫煙をはじめたのは、特に理由はない。趣味らしい趣味がなかった本丸着任当初、暇を潰せるものを探した結果、同僚の喫煙に倣うことをしたのだ。今は手芸や料理などをすることもあり余暇を潰せるが、懐を傷めない程度に買う煙草を喫うことは続けていた。
本丸では気管支の弱い審神者のために彼の前では喫わないようにしていた。予備役編入後も、こうして庭で喫うようにしていた。審神者は特に煙草を嫌ってはいないのだが、それでも気にしてしまう。審神者の体を想うと。
そうしていつも通りに灰皿を傍らに置いて煙草を喫っていると、からからと音を立てて掃き出し窓が開く。振り向くと、審神者がいた。まだ若干顔が赤いから酒気が抜けていないのだろう。そして、審神者は冒頭の台詞を言ったのだった。
俺は隣に腰かけてくる審神者に戸惑う。煙草を喫う俺の隣に座ることはよくあったが、煙草を強請って来たのははじめてだ。真面目な審神者なので未成年の喫煙や飲酒を一切しなかったのだ。今日はじめて酒を飲んだことで箍が外れたのだろうか。しかし審神者の意思なので、俺は大人しく1本渡した。それでも俺は尋ねる。
「なんで急に?」
「成人したんだから1回ぐらいいいかなって。あ、シガーキスってやってみたい。御手杵、火を頂戴」
「え? いいけど……後悔するなよ」
俺は言いながら、煙草を咥える。
「ゆっくり吸えよ」
煙草の先をくっつけて、火を渡す。ニコニコと笑顔だった審神者だったが、次の瞬間盛大に噎せ込んだ。
「げっほ!!!!! まっず!!!!!!」
「だから言っただろ、後悔するなよって……シガーキスってなんでか知らないけど不味くなるんだよ。今同じ銘柄の煙草渡しただろ、それでも不味くなる」
「ふ、不思議……だね……」
火の点いたままの煙草を手にしながら噎せ込み続ける審神者。大丈夫か、と煙草片手に顔を覗き込もうとして――審神者が片手で肩を掴んできた。
大人びて来た、その顔は険しい。
「ちょっと待って御手杵。シガーキスが不味いってことなんで知ってんの? 誰かとしたことがあるってことだよね? 誰と?」
「シガーキスぐらい浮気にカウントするなよ~」
「したんだね!? 誰とだ!? 吐け!!」
「主酔ってるだろ~」
灰皿に煙草を押し付けた審神者に胸座を掴まれて揺さぶられる。相手は酔ってるとは言え、あからさまな嫉妬が少し嬉しいな、などと思うのだった。
なおこのことは尾を引き、審神者と俺が前線復帰したのち、本丸内部で「御手杵とシガーキスしたことある奴誰?」と刀剣男士喫煙者グループへ魔女狩りが行われることになる。
了