▼予定よりちょっと早く実休さん来ました! 早速部隊長に据えて連隊戦回してます
pixivより転載
ばりん、と煎餅を齧る音が響いた。
「静かですねぇ……」
「本当にな」
縁側に行儀悪く寝転がりながら、宗三は3時のおやつと洒落込んでいた。傍らには湯飲みがある。そろそろ暑くなってくる季節だったので中に入っている茶は冷たい。
その茶を挟む形で縁側に腰かけた、薬研が宗三に相槌を打った。彼は彼で胡坐をかいて新聞を開いている。鳥が囀っていた。
「こんなに静かなのって初期の頃以来ですよね」
「そうだなぁ、昔は静かだった。大将も寝込んでいたし」
「……あんなに幼かった少年が、今や成人男性で結婚もする、ですか。月日は早いですねぇ……」
宗三の示しているのは、この本丸の主である審神者のことだ。この日、審神者は御手杵と結婚披露宴を挙げていた。平均的な審神者は本丸で行うことの多いそれを現世で行ったのは、偏に審神者の現世での知人友人親戚の多さゆえだ。顔合わせのためである。
静けさも、それゆえだった。ほとんどの刀剣男士が審神者と御手杵の披露宴に出席したからである。残っているのは6振りの刀剣男士だった。そのうちの2人が宗三と薬研である。
出席しなかった者たちの理由は、本丸の留守を預かるべき刀剣男士が必要だったからだ。そういうことになっている。少なくとも薬研と、今頃自室で本を読んでいるだろう平野はそういうつもりだった。宗三はと言うと――
「それにしても、結婚式は本丸でやったし、主のご家族も本丸で顔合わせしたのに、披露宴にまで出席したいものですかねぇ……十分でしょう」
「大将たちのめでたい席には全部出席したいんだろ、みんな」
「でも明石は面倒がってましたよ」
「愛染はともかく蛍丸まで行きたいとなったら、保護者としては行かざるを得なかったんだろ」
「はぁ……小夜と太閤はちゃんと江雪兄さまの手綱を握っているでしょうか……」
彼らは知らない。江雪が披露宴の余興で自らの髪を用いて墨で大きく「祝」の文字を書いていることを。
ふと、宗三が薬研の方を見る。
「そう言えば七星剣と白山は?」
「七星剣の旦那なら寝てる。白山は通信機のメンテをしてる」
「白山はともかく、七星剣は何してるんですか。もう15時ですよ」
「昨夜、七星剣の旦那に言われたんだ。『普段こき使われている分われは寝る。披露宴はめでたい。だがこの機会を逃したくない』って」
「……まぁ、七星剣はこの本丸も例に漏れずこき使われていますからねぇ……」
七星剣と言う剣。彼はその特殊能力ゆえに先年の大侵寇での顕現以来戦闘に参加しなかった日はない。
「その七星剣の休息はしばらく続きますよね」
「大将と御手杵が新婚旅行に行くからなぁ」
「沖縄に7泊8日でしたっけ。主、太って帰って来そうですね」
「沖縄は飯が旨いって聞くからなぁ。まぁ大将はもう少し肉つけてもいいと思うがな」
ふと、会話が途切れる。宗三は相変わらず煎餅を齧っていて、薬研は新聞のページを捲る。いつもは聞こえてくる人の声がしない。それがなんとはなしに彼らに寂しさを覚えさせた。この感傷も夜には終わるのだが――
「あ、2人とも。ここにいたんだ」
不意に声がかかる。宗三と薬研が顔を上げると、実休が内番着姿でザルを持っていた。座rの上には草が乗っている。
「丁度良かった。薬研くん、畑から薬草を摘んできたんだ。仕分けるの手伝ってくれないかい」
「お、いいぜ。暇してたしな」
「働き者ですねぇ……僕も暇なので見てていいですか?」
彼らは暇だった。退屈ゆえに、最も新参ゆえに今回の披露宴には参列しなかった新入りを、薬研と宗三はそれぞれなりにかまってやることにしたのだった。
なんだかんだと、彼らは本丸の日常を好んでいるのだった。
披露宴が終わり新婚旅行から帰って来た審神者と御手杵が一目憚らずいちゃつきだすのを見て宗三がキレるのはまた別の話だ。
了