pixivより転載
歌仙兼定とは、趣味の合う主従と言う間柄だ。周囲には「趣味が悪い」と言われる品も、歌仙には「雅だね」と言ってもらえる。そういうことで、一時期俺が古道具収集や美術品集めに凝っていた頃、歌仙の骨董品コレクションとお互いに「イイね!」しあっていた。
ただ古道具や美術品は俺の性にはあまり合っていなかったようなのと、あまりに骨董品で怪異に遭遇することが多く対オカルト班から抗議の声が上がったのもありそれらは控えるようになった。元々の趣味の古書収集は続けていたし、歌仙も俺の本棚から本を借りて行くこともあった。歌仙のコレクションに「イイね!」することもあった。けれどその一時期ほどではなくなり、数年が経った。
時間停止型審神者だった俺が実年齢で成人した頃のことだ。
「あぁごめん、出掛けるの? なら歌仙についていってもらって。俺今ネイル塗ったばかりだから」
そう言って、いつもはついてきてくれる初期刀兼近侍の加州が、丁度通りがかった歌仙に声をかけた。第1部隊隊長の御手杵とはまた異なり、この本丸において初期刀兼近侍の加州の発言力は非常に強い。その加州が本丸黎明期に大和守と一緒に暴走したときに鎮圧した和泉守が陰のご意見番なのだけど……閑話休題、とにかくそのとき万屋街に一緒に出掛けたのは歌仙だった。
結論から言うと、そのときに万屋街が襲撃を受けたのだ。
避難誘導される一般職員、応戦する刀剣男士と指揮する審神者。俺たちは後者だったわけだけど、即席の連合部隊には隙が生じる。背後にいた俺が敵苦無に刺されそうになった。
その機動の差を気合いで埋めたのが歌仙だった。
「ここは頼む」と隣にいた他所の刀剣男士に頼み、縮地して俺に襲い掛かった敵苦無を打ち払ったのだ。
そのとき歌仙は怒鳴った。
「うちの子に何をするんだい!」
……その後、政府からの応援部隊がやってきて襲撃部隊は制圧。事後処理がなされた。そのときに俺は歌仙に不満をぶつけたのだった。
「もう俺、実年齢は成人してるんだけど」
それに対し、何に対しての文句かを正確に悟ったらしい歌仙は、ふっと笑った。
「20歳なんて赤子だろう。せいぜい還暦したら大人だと威張るんだね」
そんな俺は今、死の床に伏している。50代にして患った大病が、遂に完治せず俺の命を奪い去ろうとしていた。病院のベッドに横たわりながら、かわるがわるやってくる刀剣男士たちと話をする。もう、最後なのだ。
その中の一振りが、歌仙だった。
歌仙には、俺のコレクションの古書の管理を任せることにしていた。引き継ぎの審神者には弟子として修行をさせていた際に「読書の習慣がない」と言われていたので。できれば城を引き継いだ際にこれを機に読書をして欲しいものだけど……そんなことを考えながら、俺はふと見上げる。
歌仙が、黙って傍に立っていた。あれ程風流を愛し雅な言動をとる彼が、ただ、何も言わずに。
俺は歌仙が言いたいことを正確に悟った。
あのときのことを思い出しているのだ。
俺は、回らなくなり出した口で、ようやく言った。
「ごめんね。俺、大人になれなかった」
歌仙が顔を背ける。どうしたのだろう。霞がかってきた思考で、ぼやけてきた視界で、俺は疑問に思う。
歌仙がこちらを向いた。今にも泣き出しそうな笑顔だった。
「大人じゃなくても、君は立派な主だったよ」
俺は、その言葉に微笑んだ。
俺は大人になれなかったけれど、良い主になれていたなら、よかった。
了