▼「昔話」(https://syosetu.org/novel/85876/46.html)のその後的な……この話で出て来た少年の娘です
▼病弱審神者がまだ時間停止型審神者だった頃の話でもあります
pixivより転載
父に似たことが、私の将来を決めた。
父は嘗て美しい少年だったと言う。私が物心ついた頃にはすっかり大人の男になってしまっていて、造作はとても整っていたが印象に残らないと言う顔立ちになっていたが。そんな父は、小さな所領を治めていた。土地は比較的小さいが良質な鉱物の採れる鉱山を複数有する土地だった。こんな土地が周辺諸国から狙われない訳がない。そう言うわけで、我が■■家の当主は世渡り上手が求められた。
父は12歳で6歳上の正室を娶り、13歳で息子を得、15歳で家督を継いだ。その頃に奥州で名を轟かせはじめていた伊達政宗に、「私が笑っているうちに服属しろ」と言われたのだそうだ。――それを舌先三寸で退けたのが当時の父だ。
ここで、政宗に「おもしれー男」認定されてしまった。その後、政宗は多忙の身に関わらず度々■■家を訪ねたと言う。
父が18歳の頃、私が生まれたときも真っ先に祝いに来たのが政宗だった。
乳母に抱かれ喃語のようなものを呟く私を見て、私の、父と同じ白い髪と白い肌、赤い目を見て――
「この娘を嫁入らせ候へ」
舌から先に生まれて来たような父が、言葉に詰まったのはこのときだったと乳母が証言した。まだ歯も生えていないような赤子――しかし、父親似であるのは確実の娘。
そも、政宗は父を小姓にと望んでいたと、のちに聞いた話だ。それも断った父の胆力は凄まじいものがある。しかし、このときの父は動揺の極みだった。なにせ、寵愛しており彼女以外の妾を置かなかった正室を、私を出産したときに亡くしていたからだ。かくして父の判断力は鈍り――数年後、私は伊達政宗の側室入りが決まったのだ。
年の差、20歳ぐらい。13歳の私は、天下分け目の大いくさの1年後に伊達家に輿入れした。
私は縁側を歩く。ひとりで歩く。
「
背後で声がしたが、私は気付かず歩いていく。
「茨の方様」
「――あぁ、私のことでしたか」
不意に、それが今の自分の名なのだと思い出して振り返る。振り返った先には、顔貌の整った若い男がいた。私とさして年は変わらない。片倉重長だ。かの片倉景綱の嫡子であり、将来を嘱望されていると聞いている。私は彼に呼び止められた理由がわからず首を傾げていると、彼は言った。
「政宗さまがお呼びです。『いいものを見せてやろう』と仰っていました」
「そうですか……政宗さまはどちらに?」
「いつものお部屋です。どうぞこちらへ」
私は重長に導かれるまま、政宗のいる方へと歩いて行った。
「来たか、
いつもの部屋で、政宗は不敵に笑っていた。いつもこんな調子なので、私もすっかり慣れてしまった。そもそも私がもっと幼い頃から度々足を運んでは私を構い倒していた男だ。娘にも等しい年齢の少女をそのまま宣言通り娶ってしまったのだからこの男はどうしようもない。もっともまだ三十路を越えたところなのでそこまで老いは感じないが……そんな彼は、私を手招きする。重長は政宗の斜め後ろに控えた。そんな彼を全く気にせず、政宗は言う。彼の手元には刀があった。1口。太刀だろうか。政宗が、彼の前に座った私に刀を掲げて見せる。
「お前の実家は良質な玉鋼が出る土地だから刀も良いものができるだろうが、こちらも中々の名刀だ。これは光忠。家臣を斬ったら青銅の燭台も切れたから燭台切と名付けた」
「物騒な名付け方ですね」
「茨の方様……!」
重長が声を潜めてとがめてくるが、「よい。これが茨のいいところだ」と政宗は意に介した様子もない。
そして、彼は言った。やや声を低めて。
「それで、茨。『声』は聞こえるか?」
――我が■■家は魑魅魍魎の蔓延る藪知らずを平定した土地の首領。特に「あるじ切り」などと称される家宝の太刀は、家系の者ならばその話す言葉が聞き取れた。政宗は何の拍子かその秘密を知ったようだ。
私は言われるがまま、その刀に触れた。自信はなかったのだが。
――ふわり、桜が散った。
それは夢幻のことで、政宗も重長も目を瞬いている。私はと言うと、ただ一言聞こえた言葉を告げることにした。政宗の隻眼をしっかり見つめて。
「『青銅の燭台が斬れたから燭台切って、格好がつかないからちょっとイヤ』だそうです」
「はっはっは! それは悪かったな、しかし名は変えんぞ」
言いながら、政宗は刀を取り戻すと、控えていた重長に「元に戻しておいてくれ」と刀を渡した。
燭台切光忠に「逢った」のは、これが最初で最後だった。
夏の風が吹き込む。
「燭台切?」
その中で、僕は体を起こした。セミの声がする。夏だ。正確には夏の景趣だ。ヒグラシの鳴く声が聞こえる。そろそろ夏も終わりだ。格好が悪いが涎を垂らして昼寝をしていたらしい。手袋で口元を拭いながら、僕を起こした人物を見やる。
彼はここの審神者だ。白い髪に白い肌、赤い目のそれは美しい少年。時間停止型審神者だということで、18歳を迎えた今も中学生ぐらいの姿のままだ。神に仕える者として髪を長く伸ばしており、それを下で括っていた。
「珍しいね、かっこつけのお前が昼寝してるなんて」
「かっこわるいところ見せちゃったかな」
「んーん、大丈夫だよ。かわいげを見せるのも人心掌握の手段のひとつだよ。それより疲れてるなら、次の内番は他の人に代わってもらおうか」
「大丈夫。そこまでではない。ただちょっと眠かっただけ――昔の夢を見ただけだよ」
僕が立ち上がると、しゃがみ込んで僕を覗き込んでいた主も立ち上がる。そして、僕は尋ねた。
「ねぇ、前から訊きたかったし、答えたくなければそれでいいけど」
「うん? なに」
「主の家って、『■■』家?」
「――ああ、俺の先祖に伊達家に嫁いだ人がいたね。逢ったことあるの?」
答えはあっさり返って来て拍子抜けした。けれど僕は同時に、因縁を感じる。
嘗ての主に嫁いだ幼な妻。彼女よりも年下の側室もあのあとできたけれど、嘗ての主は殊に彼女に会いに行っていた。子どももできた覚えがある。彼女たちがどうなったかは果たして今の自分にはわからないが――
彼女の系譜が、確かにここにいた。彼女の因果が、ここにいた。それで十分ではないかと、僕は思うのだった。
了