pixivより転載
丁度秋だったからだろうか。黄色く色づいた、特徴的な形の木の葉がひらりひらりと舞い落ちる。それを眺めながら、俺は観察記録をつけた。植物関係に縁のある刀剣男士が交代でつけているものだ。俺は飽くまでフラワーアレンジメントがしたいのに、という訴えは現在審神者代行をしている加州に却下された。
さて、なぜ加州が審神者代行などをしているか。答えは簡単。本来の主が動けないからだ。
何せ今、庭の真ん中に生えている銀杏の巨木が審神者だからだ。比喩でも何でもない。――真ん中の洞から、審神者の顔が見えていた。審神者は深い眠りに就いている。手は無数の枝葉に、脚は大地にしっかりと根付いていた。
今まで土地神の祝福による妖精化、攫われた先で薬を投与されての人形化、本丸バグによる幼児化と巨大化はあった。なので行きつくところまで来てしまったな、というのが本丸の総意だろう。比較的新刃の刀剣男士は狼狽えているが……。今回は歴史修正主義者たちからの呪詛と言うことらしい。詳しいことは聞いていない。俺に任されたのは飽くまで審神者の記録なので。
木の中で審神者の身体がどうなっているかは不明だが、栄養は光合成で賄っているようだった。尤もその葉っぱも散りつつあったから、あとは大地からの栄養補給と言うところだろう。桑名などは「大地が栄養取られてるって言ってる」と宣っていた。そんな桑名もさすがに主の生命に関わることなのでそれ以上は文句を吐けなかったが。
さて、呪詛なので解呪のプロが必要だ。怪奇対策部の神祇官が日毎に祝詞を上げている。じわじわと解呪を試みているところらしい。生憎素人の俺たちにはあまり見た目は変わらないように思えた。
「2週間はかかりますね」
とは神祇官の言葉だ。1か月ぐらいかかるかと思っていたから、仕事の早さに恐れ入る。尤も、最も優れていると言う解呪のプロにかかれば3日とかからないらしいが彼はその有能さゆえにもっと火急の仕事に回されているらしい。つまりはウチの審神者はさして緊急事態ではないと言うことだ。それに安堵して、1週間。審神者は一向に目を覚まさない。
目を覚ました頃に、呪いは解けると言う。
――けれど、今しばらくはこの姿でいて欲しい、とも思う。
紅葉した銀杏の木と一体化した審神者。それはこの世ならざる美しさだった。
そして、俺はふと思い出す。丁度そこに燭台切が通りかかったので、彼に話しかけながら、ぽつりとこぼした。
「なぁ、知ってるか。光忠」
「何がだい」
「銀杏の木の木言葉さ」
「花言葉じゃなくて?」
「俺も偶々花言葉のついでに調べただけなんだけどね。ほら、桜も木だろう。それで銀杏の木の木言葉はね」
俺は息を吸った。
「『聡明』『復活』そして――『あなたは何度でも立ち上がる』」
燭台切が息を飲んだのが聞こえた。俺は笑う。苦笑に近かった。
「何度へこまされても、その都度立ち上がる主にぴったりじゃないか」
「……うん。そうだね。僕たちの主は、そう言う人だ。だから、今回もまた蘇るよ」
燭台切の言葉は、恐らく真実だろうと俺は感じた。
さて、復活した審神者が「体中がバッキバキなんだけど!?」と文句を高らかに叫ぶのはそれからぴったり1週間後のことだった。
了