▼読後推奨のおまけ
「『祖父ちゃん強いから大丈夫』って言うから近侍から外れてたのにこれか……? 実の祖父と浮気するためか……?」
「違う違うカップル割は偶々入った飲食店で、だから、ちょっと待ってええええ」
pixivより転載
ある土曜日。インターホンが鳴る。
「はあい」
準備を整え待ち構えていた審神者は、とてとてと玄関に出た。相手はわかっている。時間通りだ。御手杵もついてくる。
扉を開くと、そこに長身の美中年が立っていた。
「やぁ、●●●。迎えに来たよ」
「道わかった?」
「元々この辺りに住んでいたし、昨今の地図アプリは優秀だね」
美中年――もとい美老年の藍(らん)はそう言って微笑む。花がほころんだようだった。見慣れた孫の審神者も、見目の良い男に慣れている御手杵も感銘を受けなかったが。
財布と携帯端末をポケットに突っ込んだ審神者は、玄関で靴を履く。そして立ったままの御手杵を振り返る。
「それじゃ留守番よろしくね」
「なぁ……俺、本当に行かなくて大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、祖父ちゃん強いから」
「任せてくれ、御手杵くん。君の主はちゃんと私が守るよ」
不安げな御手杵に対し、彼の主とその祖父は笑って安心させるのだった。
家を出て街を歩きだす。彼らの目的は、「祖父に街を案内すること」だった。
端末を弄りながら審神者は祖父に尋ねる。
「俺たちも手伝ったけどさ、荷物は片付いた?」
「粗方。元々大して荷物がないしな」
さて、審神者の祖父が引っ越してきたのはつい先日のことだ。
元々は隠居後東京近郊にひとりで居を構えていたが、トラブルがあり、「同居とまではいかなくても自分たちの近所に引っ越してきて欲しい」という孫の審神者とその親の娘夫婦からの要請によりこの度越してきたのだった。現在祖父が住んでいるマンションは審神者の家の目と鼻の先である。
そして今日、審神者が街の案内を請け負ったのだった。
「結構町並みは変わったな……」
「祖父ちゃんこの辺に住んでたの、もう20年は前だもんね」
彼方此方を示しながら並んで歩きながら、祖父が感慨に耽るように溜息を吐く。
「あそこにはコンビニがあった気がする」
「それ10年前の話だよ。今はあそこ本屋。結構品ぞろえいいよ」
「ほう、紙の本屋が今時あるんだな」
「市内だとそこそこあるね。俺もよくあの辺通ってる。あ、あっちは映画館。結構マニアックな映画も上映してるよ」
「今度来てみようかな」
「……それにしても」
それぞれ案内する審神者が、ふと息を吐いた。
「今は一緒に歩いてても通報されなくてよかった」
「……それは……そうだな」
祖父は気まずげに顔を逸らす。
祖父の藍と審神者は確かに実の祖父と孫である。見た目もそこそこ似ている。しかしそれは飽くまでよく見ればの話で、一見すれば赤の他人である。
そして中高生の頃、一緒に歩いていると通報されたのだ。
曰く、「美中年が美少年を連れ歩いている。淫行だ」と。
大学に入り、現在19歳の審神者は容貌が大人びてきた。そのためか、今のところ囁き声に「美中年と美青年が一緒に歩いてる」と言うぐらいしか聞こえない。通報されずに済みそうだ。審神者が安堵しながら話を続ける。
「刀剣男士と一緒に歩いててもそういうことあってさ……」
「それは……仕方ないな……」
「特に刀剣男士の方は警察に説明するのに身分証明書が必要でさ……その点、御手杵の見た目は本当に助かるんだよね。ただの友達だと思われる。まあ実際は恋人なんだけどさ」
「あぁ」
唐突な惚気に祖父は動揺したが、それはなんとか押し隠した。
――ふと、2人はある喫茶店の前を通り過ぎかけた。審神者が祖父に言う。
「喉渇いたからここでお茶してかない?」
「そうだな」
そして、出入り口付近に貼られた張り紙を2人は見た。
「……」
「……」
2人は扉を潜る。店員が愛想よく挨拶してきた。
「いらっしゃいませ! ただいま当店ではカップル割を実施しております」
「あ、カップルです♡」
そう言って、審神者は祖父の左腕にしがみついた。
祖父は何も言わなかった。そのときは。
「……●●●。ああいうその場のノリで嘘を吐くのはどうかと思うんだ」
「確かめようがないからいいじゃん。あ、このコーヒープリン美味しい」
「それはよかった、いやそうじゃなくて。御手杵くんに言い訳できないぞ私は。はぁ」
了