pixivより転載
前世を含めて長い人生、大抵のことには動じない自負があった。血液銀行時代に営業としてあらゆるタヌキジジイ、ヒヒジジイを相手にした。一時は失っていた記憶だが、哭倉村の経験まである。子育てだってした。転生してからは前世の因果か、オカルト案件を引き寄せる体質になってしまいそれもなんとかした。大人になって政府勤務審神者になってからも仕事をこなしてきた。
だから油断した、と言えばそうなのかも知れない。
――俺たちは政府の施設にいたはずだ。なのに、なぜこんな真っ白い部屋にいるのだろう。
俺がきょろきょろと見まわしていると、どうやら俺と同じように巻き込まれたらしい菱潟が一点を見つめていた。心なしか、ただでさえ白い顔が蒼い。
「水木さん、あれ……」
その左手が――薬指に指輪が光る――示した先を、俺も見た。
『セックスしないと出られない部屋』
嘘だろ、と呟いた。
次の瞬間、俺たちはガッッッと掴み合った。
「水木さん、俺に抱かれたいですよね!」
「いーや! お前こそ俺に抱かれたいだろ!!」
お互いに必死だ。ケツのアドバンテージを奪われまいと必死だった。やいのやいの、ぎゃーぎゃーと喚き合う。実に醜い争いだった。
菱潟が俺の肩を押しながら必死の形相だ。
「俺があなたに抱かれてみなさい! 御手杵に抱き潰される!!」
「それはこっちだって同じだ! ゲゲ郎にやられる!! ……というかお前が俺に手を出したらゲゲ郎が黙ってないぞ!」
「それはこっちだって同じです!」
そこまで言い合ったところで、俺たちは肩で息をする。
どちらともなく、手を放した。
「……不毛な争いはやめるか」
「はい」
俺はどっかりと床に座る。ベッドどころか布団すらない。潤滑油すらないのでここはひょっとして刀剣男士と女審神者向けの部屋ではないかと推測する。恐らく俺たちがここに巻き込まれたのは何かの間違いだろう。胸ポケットから煙草を取り出して火を点ける。今はライターと言う便利なものがあっていい。
立ったままの菱潟に「お前も座れよ」と促してから、俺は言う。
「今回はシリアス感が薄いから、俺のオカルトホイホイじゃなくてお前の被害者体質の方じゃないか」
「そうでしょうね……まあある意味、俺たちにとってはシリアスにならざるを得ないんですけどね……」
もしこれでお互いに相手がいなかったらそこに躊躇いはなかっただろう。お互いに相手がいるからまずい。しかも執念深い人外がお互いに相手と来た。間違っても手を出せない。俺は煙を吐いた。
「煙草、喫うか?」
「気管支が悪いので……これ前にも言ったでしょ」
「そうだったな……」
そう言われて俺は煙草を携帯灰皿に押し付ける。
さて、手持無沙汰になってしまった。新しく取り出した煙草を火を点けずに口先で転がしていると、手を振り上げて背筋を伸ばした菱潟はあっけらかんという。
「まあ、そのうち助けが来るでしょ」
「こういうトンチキなトラブルに慣れてるな、お前」
「被害者体質ですから……3Pしないと出られない部屋よりはマシかな……」
「そんなのに遭遇していたのかお前……」
「さて、暇ですししりとりでもします?」
――助けが来たのは3時間後。
その間しりとりから古今東西にまで発展して白熱したバトルを繰り広げていた俺たちのもとに、御手杵とゲゲ郎と鬼太郎が扉をぶち破って来たのだった。
「よかった、2人とも無事で」
鬼太郎が胸をなでおろす中(なんて良い子だ)、御手杵は菱潟を、ゲゲ郎は俺を抱き締める。そして2人同時に、俺たちの目を見て「何もしてないな?」と尋ねて来た。
何もしてないのは事実なので、俺は「あぁ」と答えた。
「最初は揉めたけど何もなかったよ」
と余計なことを言ったのは菱潟だった。
「最初は……?」
「揉めた……?」
「確かに硬い床に座ってたからケツは痛いがそっちの意味では大丈夫だから、落ち着け」
「座布団の1枚も欲しかったですよね……」
了