pixivより転載
「主、大丈夫?」
このところ、審神者の様子が少しおかしいようだった。
なんとなく、落ち着きがない。きょろきょろと辺りを見渡すことが多く、何かに怯えているようにも見える。
時は晩夏、対百鬼夜行への強化プログラム中。それでも審神者は指示を飛ばしていたし、課業中は普段通りの審神者だった。ただ、課業外になると途端にびくびくとしているように思えた。
初期刀兼近侍の加州は、その様子が3日ほど続いたのでさすがに指摘したのだ。
「え、変?」
審神者は自覚がないようだった。頬に手を添えているが、ただでさえ白い顔が最早蒼い。夏の肌の色とは思えなかった。だから加州は重ねて問う。
「このところ落ち着きがないというか……きょろきょろしてるよ」
「気が付かなかったな」
「3日ぐらい前からだけど、心当たりないの?」
言われて、審神者はしばし考えこんでいた。
そして、ぽつりと言う。
「景趣を変えたな」
「あぁ、あの朝顔の景趣」
加州は思い出す。夏らしくて、軽装にも合ういい景趣だと思っていた。審神者も、そう喜んでいたはずだ。
けれど、次に審神者の口から出た言葉により、加州は彼を政府の怪奇対策部に引っ張っていくことになる。
「あれからなんか、四六時中見つめられている気がするんだよな……」
怪奇対策部に加州に引っ張られて来た審神者は、最終的に医療施設に連れて来られた。
そこで出されたのは、薬だった。
「精神安定剤です。これを夏の間は朝飲んでください」
「はあ……」
審神者は困惑していたし、加州も同様だった。てっきり怪奇対策部案件かと思っていたのに、連れて来られたのは精神科だ。
加州はこのとき、審神者が神経質になっているのかと思った。だから朝顔の景趣で「見られている」と思ったのだと。
しかしこのとき、医者は言った。
「あと、朝顔の景趣は、夏が終わるまで……そうですね、8月31日まではそのままにしておいてください」
「え?」
「決して、変えないでください」
医者は真面目な顔でそう言った。
医者は審神者を退出させると、加州に言った。
「朝顔の景趣が実装されてから、偶に『見られている』と訴える審神者の方が出まして。こちらで精神安定剤を処方したところ改善が見られたのですが……そのあとで怖がって景趣を変えた審神者の方が行方不明になるという事件が発生していまして」
「えっ」
「なので近侍のあなたがよく見ていてくださいね。症状自体はこれで治まるはずですが、朝顔に魅入られた審神者は景趣を変えることによって『連れて行かれて』しまうので」
「あの……あの朝顔の景趣って政府が実施しているものじゃ」
医者は深刻な顔で言った。
「付喪神を顕現するほどの霊力に呼応すれば、時に仇為す存在になることもあるんですよ。何事も」
その後審神者は落ち着いた様子だった。
そして加州はふと思い出す。
テレビで観たものだ。犬が四六時中見つめられていると、落ち着きなく振る舞う。
――あの朝顔は目玉なのだろうか。
加州が見ても、それはただの花にしか見えなかった。
了