▼この本丸の髭膝髭は初期設定からあったんですが書けたのはじめてですね……
pixivより転載
それは何気ないやり取りからはじまった。
この日の仕事を終え、空調の利いた室内で3時のお茶の時間と洒落込んでいた。本日の3時のおやつはくりもちである。9月なのでまだ冷たい焙じ茶で頂いた。
そんな審神者のご相伴に与ったのは、偶々厨の前を通り過ぎた髭切だ。分けてもらったくりもちを幸せそうに食べていた彼は、唐突にも思える言葉を発する。
「そう言えば主って、血が混ざりすぎて訳が分からないことになってるみたいだけど、確か鬼の血も入ってるんだよね?」
「そうらしいよ」
とは、他人事のような審神者の言だ。
ここの審神者はひと言で表すなら「混血」だ。それは表向きは外国人の血が混ざっていることを示していたが、実際のところは人外の者との血が混ざったモノを指す。特に審神者業界では混血はよくいる。混血は霊力の高いモノが多いからだ。
ただ、刀剣男士との兼ね合いがよくないモノもいる。蛇神との混血などは抜丸などと相性が悪い。審神者が噂を聞いたところでは化け蜘蛛の女審神者が膝丸と恋人になったという例もあるので、一概には言えないのだが。
そう言えばウチの源氏兄弟は付き合っているのではなかったっけ。そんなことを思いながら、審神者は焙じ茶を啜る。
「なんでも戦国大名だった先祖が、鬼の娘を娶ったとかって。鬼である証拠に、金髪碧眼だったらしい」
「へぇ」
「まあ実際は髪と目の色はただの外国人で、外国人の子孫が刀工をやっていてその娘が嫁いだってのが実情じゃないかな。弱小戦国大名だったらしいからそう言う婚姻もできたらしいし」
「――いや、確かに鬼だよ」
「へ?」
髭切は薄く笑う。
「その証拠に、偶に君を斬りたくなる」
「怖」
突然の告白に審神者は戸惑いを禁じ得ない。くりもちが喉に詰まりそうになって、焙じ茶で飲み干した。
髭切は続けて言う。
「この間の対百鬼夜行のあとも、血が騒いで主のこと斬らないようにするの、すごい自制が大変だった」
「そ、そう……斬らないでいてくれて有難う……」
審神者としては、そう答えようがなかった。
***
――どく、どく、どく。
仮初のエーテルの身体の中で、心臓の動悸が激しい。息も荒い。
つい先ほどまで、あの「巨大な目」――「鬼」を狩っていた。狩って狩って狩りまくった。あれ程巨大な鬼は見たことがない。だから、他の本丸のように、審神者の狂奔に釣られて暴れに暴れた。
その結果、すべてが終わり帰投した先で――審神者を見た。
どくりと、心臓が跳ねた。
鬼だ。これは、斬るべき鬼だ。――違う、彼は人だ。なにより彼は今代の主だ。
斬ってはならない。斬ってはならない。しかし、斬りたい。
それは丁度、異能者界隈の人外狩りの血族が起こすという「退魔衝動」にとても近かった。
なんとか審神者に挨拶をして、その場を辞す。それでも熱は冷めない。
斬りたい、斬りたい、斬りたい。
「兄者」
――不意に、冷えた水のような声がかかった。
肩に手を置かれていることに気付けたのはそのときだ。
「あ……ひざまる?」
退魔衝動への熱でぼやけた記憶の中枢から、なんとか名前を引っ張り出す。訂正が入らなかったから合っていたらしい。ぼんやりと肩に手を置いた彼を見つめ返すと、彼は小さく嘆息した。
「兄者、よく耐えたな。とりあえず水風呂に入ろう。物理的に冷やすんだ」
「きがえ……」
「兄者が風呂に入っている間に手拭いと一緒に持って来る。布団も引いておく。……疲れただろう。もう夜になった。このまま寝よう」
虚ろな意識の中で、それでも髭切は言った。
「ひざまるも、いっしょにねてくれる?」
「……同じ部屋だろう」
「そういういみじゃなくて」
「今夜は駄目だ。兄者の自制が利かないだろう。とにかく、今は風呂に入ってくれ」
そうして髭切は、弟に風呂場に押しやられたのだった。
結果としてそれは功を奏して、風呂から上がる頃には多少退魔の熱は冷めていたので、その日の晩はゆっくりと眠れた。
髭切は知らない。熱に浮された兄に、抱きたいとも抱かれたいともつかない欲情を抱いてしまったことに。
了