pixivより転載
その本丸の襲撃は1度や2度ではなかったが、今回は特に深刻だった。
初期刀も初鍛刀も、第1部隊長から連なる各部隊の隊長も破壊されたのだ。ジャミングを受けて、政府へ連絡を取ることもできない。
敵の勢いはすさまじい。それでも戦歴が10年以上に及ぶ刀剣男士たちは、審神者を逃がそうとした。――本丸を防衛することは、とうに放棄している。
しかし、じわじわと防衛線は退かざるを得なかった。
「主は!?」
怒号が飛び交う。刀剣男士も敵も審神者の居場所を知らない。場は混迷を極めていた。
その中で、襲撃者の一部隊がとある部屋に辿り着いた。
そこは審神者の執務室だった。少なくとも芳醇な霊力が残っているところから、審神者のよくいる場所だと思われた。障子は閉まっている。――人の息遣いがした。
部隊は躊躇わず障子を蹴倒した。
そこには、資料通りの審神者がいた。
白い長髪に白い肌、狩衣を着ている。目は瞑っているので赤色かどうかは確認できないが、魂の形がここの審神者のそれをしていた。目鼻立ちも髪型も資料通りだ。
そもそもここにいる者はひとりも逃さず殲滅するように言われている。だから、微塵も動きを見せず泰然自若としているこの審神者も勿論殲滅対象だ。中に踏み込んだ打刀が、審神者を袈裟斬りにした。
何の抵抗も示さなかった審神者は、仰向けにどう、と畳に倒れる。
――そのとき、審神者の頭から何かが外れた。
それは鬘だった。白く長い髪の――
倒れた「審神者」の髪は、オレンジがかった白髪。開かれた目は、青かった。
彼は、呆然としている敵打刀に嗤う。
「残念。ハズレ」
そう言った彼の身体は、ガラガラと崩れていった。狩衣の下から鉄の破片が崩れ落ちていく。
そうして、彼らは知ったのだ。
影武者だ。これは刀剣男士だ。本物はどこかに逃げ去った。
一方、審神者は走っていた。
服は雲次の衣装。伸ばしていた髪は切って前髪を分けていた。一見すれば髪色が雲生と似た雲次だと思われるだろう。
遠くから剣戟の音がする。先導する雲生は、時折現れる敵苦無を黙って斬り捨てながら進む。目指すは敷地の隅に隠されている緊急ゲートだ。
審神者は振り返りながら言う。
「雲次、雲次が……」
「お急ぎを」
答える雲生の声は、鋭い。
「雲次のためにも」
それは己の感情を抑制するための鋭さだと気づいた審神者は、唇を噛み締めて刀剣男士の足の速さに必死で追い縋った。
――ああ、10年過ごした本丸が、部下が散る。そして何より、刀剣男士として散らせるのではなく、己の影武者として散らせた者もいた。
『大丈夫、僕らは双子みたいに似ている。きっと誰にもわからないさ』
その台詞が脳裏に焼き付いている。
――その刹那、雲生が斬られた。
「雲生!」
そこには敵大太刀がいた。鈍重な動きで――しかし確実なダメージを負わせて。
袈裟斬りにされた雲生は、明らかに致命傷だった。それでも彼は、敵大太刀を切り伏せた。
そして、思わず立ち止まっていた審神者に言った。
「何をしているんです、早く逃げなさい!」
血を吐いての叫び。審神者は、駆け出した。緊急ゲートはもうすぐだ。
――雲生が、「ここは通さん!」と声を上げるのが聞こえた。
審神者は、ゲートに飛び込んだ。
そこで審神者は目を覚ました。
鵜飼派、あるいは雲類部屋。そこに朝から足音荒く近づく誰かがいた。
「雲次、起きてください。もう朝ですよ」
「うーんむにゃむにゃあと5分」
雲生は服を着替えたのち、まだ寝穢く眠る同胞を起こそうとする。足音に関しては特に気にしていなかったが――この本丸が騒がしいのは既に慣れたことだ――、突如障子が開かれて雲生は肩を跳ねさせた。
そこには、寝間着姿のままの審神者がいた。
常ならば自身に散々手を出そうとして来た雲生の部屋に近づこうともしない審神者だが、何かあったのか――今の音で目を覚ましたらしい雲次が半身を起こして目を擦っていると、審神者が彼に飛びついた。
雲次の肩を掴みながら、審神者は言った。
「いいか雲次、俺はお前を影武者なんかにしないからね!」
「何の話~……?」
この雲次はどうやら低血圧の個体らしい。審神者はそう思い、雲生は、
(主は夢見が悪かったのだろうか)
という正答を得ていた。
その後審神者は結界とゲートの管理をさらに徹底化するようになったという。
「ははぁ、僕が影武者。確かに今の主なら務められそう」
「雲次!」
「……やだな、冗談だよ」
了