ある日の演練で、ボーっと刀剣男士が戦っているのを眺めていた病弱審神者(審神者名「菱潟」)にパーシヴァル(転生、審神者名「谷駆」)が話しかけてきて……
バソの審神者名:玄海
彼があんなにもぼんやりしている様は、見たことがなかった。だからパーシヴァルは、演練会場用ベンチに腰かけていた彼に声をかけた。
「菱潟?」
「っ、あ、ああ、谷駆さんか。吃驚した」
パーシヴァルがぬっと顔を覗かせると、彼――菱潟はひどく怯えた様子を見せたのち、パーシヴァルの顔を見て安堵の息を吐いた。それに、パーシヴァルは心配になって問いかける。
「何かに怯えておいでで?」
「ああ、うん……」
菱潟は躊躇いがちに頷く。そして、意を決した様子で言った。
「あの、話すと長くなるんだけど」
「聴きますよ」
そう言って、パーシヴァルは同じベンチに腰を下ろした。
菱潟は今度は彼が心配そうに言う。
「あんた、良い人過ぎてこの界隈やっていけるか不安。いざとなったらジョンを頼るんだよ」
「ジョン……あぁ、玄海のことだね。うん、彼とは支え合いたい。それで、話は戻りますが」
「俺が何に怯えてるかって話だね。うん……」
菱潟は言った。
「結論から言うと、俺は雲生が怖い」
そう言われて、パーシヴァルは忽ち納得してしまう。
パーシヴァルと雲生は特徴が似ていると、よく言われるのだ。
しかし、とパーシヴァルは思う。
「あ、あー……私、彼と似てますからね。でも、怖いとは?」
菱潟は赤い目を遠くにやった。
「あいつに迫られてて……」
「あぁー……」
パーシヴァルは状況を察しつつあった。
菱潟は御手杵と結婚している。その披露宴にも自身も参列した。つまり、雲生を受け入れたらそれは浮気である。
菱潟は顔を手で覆った。
「結婚してるっていくら言っても諦めてくれなくて……終いには手籠めにしようとしてきて……今は雲次が見張ってくれてる、と思ったらその雲次も俺にちょっかいを出してきて」
「あぁー……」
パーシヴァルが思い起こすのは、自身の本丸の雲次だ。最初は驚いた。菱潟にあまりに似ていたからだ。菱潟を知っている審神者ならば皆が驚いたことだろう。
菱潟は溜息を吐く。
「多分雲次のはただの好奇心だと思うんだけど、その辺で雲類がバチバチやってて……現行雲類は近侍にしないことにしてるんだけど……雲次はあの1回以降手を出して来ようとしないからホッとしてるんだけど、雲生がね、本当にね」
「うんうん」
「って言うか俺の顔見てわかると思うんだけど雲次、俺と同じ顔してんじゃん。なんで手を出す気になるのかと」
――なお、余談だが、このときの彼らは「雲生と雲次が和服着て話してる」と周囲から思われていた。彼らが雲類に似ていたがゆえに。
それに気づかず、菱潟は息を吐いた。
「話を聴いてくれて有難う、谷駆さん。ちょっとすっきりした」
「また何かあったら相談してください。話だけは聴いてあげられますから」
「谷駆さんマジ紳士。本当、ウチの雲生に爪の垢を煎じて飲ませたい」
そう言って苦笑した菱潟の後ろから、何かが飛び出て来た。
「まぁ夜の私にはケモノなんだけどね!」
「うわ出たメカクレ狂」
政府所属審神者(怪奇対策部)のバーソロミューである。1歩身を引いた菱潟に対し、パーシヴァルは心から嬉しそうだ。
「今日も麗しいね、玄海」
「そういう君は今日も男前だよ」
「ジョン、どこから聞いてたの」
「『吃驚した』の辺り」
「ほぼ最初じゃん! はあ、まあいいや……」
前髪を掻き上げる菱潟に、バーソロミューはニコニコ笑った。
「ところで雲次が来たようだね? 雲次は中々メカクレ深度があることがわかったんだ、そっくりな君も同じ髪型にしてみないかい?」
「去ね」
その場は雲次でも予報できないほどの急速な冷気が吹き荒れた。
菱潟が怒りながら、自分の本丸の部隊を連れて去ったのち。
パーシヴァルはバーソロミューに言った。やや頬を赤らめ。
「あの……『夜はケモノ』とか、公衆の面前で言わないでほしかったな……」
「事実じゃないか。それにしても、菱潟も厄介なことに巻き込まれたものだねぇ」
パーシヴァルの言葉をスルーしながら、バーソロミューは溜息を吐いた。
「賭けてもいいが、絶対菱潟の本丸の雲類は揉める」
「菱潟を巡って?」
「いや、……多分違うな」
尋ねるパーシヴァルに、バーソロミューは答える。
「多分、あの2振りの痴話げんか」
演練会場には、雲生と雲次がそれぞれ見かけられた。
了