pixivより転載
「もういいよ。嬉しかった」
雲次は、今にも泣きそうな微笑を浮かべてそう言ったのだ。
ある朝のことだった。
「雲次」
本当に寝起きのことで、雲生の声も掠れていた。雲次は寝惚けながら「おはよう。なぁに」と返した。
「この間の返事なのですが」
「うん……?」
このときの雲次は、雲生の言葉が今一つわからなかった。低血圧個体ゆえ、寝起きが悪いのである。それをわかっているはずなのに、雲生は朝に言ったのだった。
「私もあなたのことが好きです。お付き合いしましょう」
「うん………………えっ」
脳に染み渡るのに時間を要した。その間に雲生はさっさと布団を仕舞い、身支度を整えはじめる。雲次は寝間着と寝癖のまま、布団からはい出した。
「あのっ、雲生?」
「はい」
「お付き合いってのは、その……恋人としてのお付き合いってことでいい?」
振り向いた雲生は、黙って微笑んだ。
「あれ?」
その日のうちに、加州は気づいた。近侍の仕事をしながら雲次に尋ねる。
「お前ら付き合いはじめた?」
「うん!」
加州に問われ、雲次は元気よく答える。一方、雲生は苦笑していた。
「雲次、あまりこういう関係は詳らかにするものでは」
「雲生硬いなー、ウチの本丸の念友連中堂々と痴話げんかするよ。俺も安定とよくするし」
「あ、大和守と付き合ってるんだ加州」
雲次はそんなことを言いながらも、気がかりなところがあった。
――雲生は、周りにこの関係を決して悟らせたくないのだろうか。
それで、不安が募りはじめた。
情を交わすことを最初に持ち掛けたのは、雲次の方だった。
手っ取り早く仲を深めるにはこれが1番だろうと考えたのだ。思い詰めた様子の雲次に何を思ったかはわからないが、雲生は了承し、そして彼を抱いた。
それはそれは、割れ物に触れるかのような、優しい抱き方。どうしたいかを訊いてきて、それに答えて、挿入して良いか尋ねて来る。手本のような抱き方。
それで、さらに不安が募った。
その不安の名は――
そしてある日の夜、冒頭の台詞を、雲次は雲生に投げかけたのだった。
風呂上がり、あとはもう眠るだけ。布団を敷いていた雲生は、告げられた言葉の意味を咀嚼する。それから、顔を強張らせて尋ねた。
「もういいよ、とは」
その言葉に、堪らず雲次は答える。拳を握った。
「だって、雲生は僕にお情けで付き合ってくれてるんでしょ」
「――は」
「もういいよ、これ以上は僕が惨めになるだけだから」
雲次は雲生の視線を振り切った。
「それじゃ、おやす――」
布団に入ろうとする、その手を雲生は掴んだ。それは雲次が今まで感じたことのない、雲生の強い力。逃げることを許さない、と言わんばかりの。
「何、離して」
雲次が振り払おうとするも、その手の力は本当に強い。あるいは、彼の雲生への未練によるものか。
雲生はひどく真剣な顔をしていて――
抱き寄せて、口付けて来た。
「っは、」
最初は唇を重ね合わせるだけ。次は舌を押し入れられる。肉厚なそれが、雲次を軽い窒息に追いやる。舌と舌が絡み合い、硬口蓋をなぞり、歯列をなぞり――雲次は生理的に目尻に涙が溜まる。酸素が、欲しい。
――気が付くと、雲次は布団の上に押し倒されていた。雲生の香りがする。あぁ、そういえば情事のときは決まって雲生の布団の上で、雲生の香りに包まれながらするのがすごく幸福で――
「や、」
寝間着を脱がされる。乱暴な手つきで。常の雲生ならば決してしないようなやり方だ。抵抗しようとしたところで、再び唇を重ねられる。それから、雲生は低く呟いた。
「……わからせる必要があるようですね」
「んっ、ふ、あ……!」
既に何度達したか、雲次は正確なところを憶えていない。それほど気をやった。
汗、涎、精液。それらを雲生との体の間に絡めていた。雲生の常にない抱き方で、雲次の精嚢は既に空だ。弱いところを正確に把握されている。大きな喘ぎ声をあげたが、他の部屋から咎められることはなかった。あるいはこういうことはよくあるのかも知れない。もしくは明日咎められるか――
「……他のことを考えているんですか?」
「んっ、あぁっ……!」
ずい、と突き上げられる。イイトコロを押し上げられ、もう何十回目かわからない嬌声を上げた。既に雲次自身からは透明な液体しか出ていない。
そもそも雲生も、1度目のときに挿入してからずっと出していない。何度も中出ししているのに、その後も3度抜かずに射精している。ぬかろくって本当にあるんだ、などと雲次が考えていたところで、太腿を持ち上げられた。ナカで、雲生のそれがずれる感触がして喉を逸らした。
「あっ、あ」
その喉に、太腿を押し上げて来た雲生の唇が触れる。れろ、と舐められる感触がした。それから、ゆっくりと口付けられる。
それに、雲次はぽろりと涙を零した。
それまで頑なに敷布を掴んでいた雲次の手が、彼自らの顔を覆う。
雲生は優しい声音で問いかけて来る。まるでいつものように。
「どうしたんですか?」
雲次は、顔を手で覆ったまま答えた。
「……こんな風にされるなんて、まるで愛されてるって勘違いしちゃうじゃないか」
「――」
ぴたりと、雲生の動きが止まる。それに不思議に思って顔から手を離した途端、結腸を抉られた。
「ひぐ、うっ!?」
突然の強すぎる刺激に、目の前が白くなる。ちかちかと星が瞬く。夜空は、障子越しでは見えないのに。
思わず、雲次の腰を掴んでなおも結腸を抉る雲生の腕を掴む。
「も、もうやめ」
「やめません」
「も、限界……!」
「やめません」
雲生は頑なだった。
「あなたに、私があなたをちゃんと愛しているのだと伝えられなければ、意味がない」
「はぇ……? ――あっ、あぁ、っ――!」
再び口づけを落とした雲生は、そしてとうとう「抜かずの六発」をしてしまったのだった。
雲生は、腕の中でぐったり凭れている、キスマークと噛み跡、それに体液塗れの身体を愛おしげに口付ける。それから、意識が朦朧としている雲次に、囁きかけた。
「愛してるんですよ、あなたを。私は2人以上の人を同時に愛せるほど、器用じゃありません」
そう告げられたとき、雲次の目の曇りは晴れた。
そして同時に、ぽろぽろと涙を零した。それに今度こそギョッとした雲生は「すいませんやりすぎました、痛むところでも」と慌てる。
しかし、雲次はそれをやんわりと否定した。喘ぎ過ぎて嗄れた声で。
「ううん。強いて言えば腰が重いけど、そういうことじゃなくて……」
目元を擦りながら雲次は言った。
「嬉しい。主じゃなくて、俺を選んでくれたことが」
雲次は雲生の手から降りると、彼の肩口に額をこすりつけた。
「雲生、好き、好き、大好き」
その彼の頭を撫でながら、つむじに唇を落とした。
「えぇ。私も愛してます。……あなたが後悔しても遅いぐらいですよ」
後半の言葉は、雲次の可聴域外だった。
翌朝、雲生は審神者には会って早々言われた。差し出されたものを見る。
「防音札……?」
「雲次をあれだけ喘がせるぐらいならこれあげるから。効果は長くて一晩。剝がせば時間が経ってなくても効果はなくなる。そういうブツだから、取り扱いには気を付けるように」
「わかりました」
そう答えて大人しく受け取り懐に仕舞う雲生に、審神者は溜息を吐いた。
「全く、お前らがくっついてくれたようでなによりだけどさ。もう俺を巻き込まないでよね」
「善処します」
雲生はそれはいい笑顔で答えた。
「……雲次が嫉妬して来たら話は別ですが」
「こら、聞こえてるよ。その雲次は?」
「そうでした。主に『今日は足腰喉がやられてて出陣は無理』だそうです」
「雲生」
「はい、私のせいです」
「も~……」
審神者が額を抑える。その様を申し訳ないなと思いつつ、微笑ましいものを見てしまう。
しかし、それは既に恋愛感情から主従愛のようなものに推移していた。
「雲次、食事を持ってきましたよ」
「あ"り”がどう”」
「……口移ししましょうか」
「ぞ、ぞれ”は早い”……」
「可愛い人ですねぇあなたは」
了