pixivより転載
確かに、単位がもらえるので今回の臨時講演に出席したのだ。
審神者候補生として勉強するのは2年間。短大のようなもので、その分単位の取得がきつい。だから機会があれば隙なく単位を奪いに行くのだ。今回もそのケースだと思われた。
(どうせ臨時講師とか言っても冴えないオッサンの話なんだろうなぁ)
彼女はそう考えていた。講義室に入った他の審神者候補生たちも似たような話をしている。さて、講演に関してのレポートを書かなければならないので一応録音機器を用意して講演を真面目に聴くことにした。
事態が急転するのは、講演がはじまって、壇上に狩衣の青年が上がったときだ。
傍らには近侍らしき雲次。ついこの間来たばかりの刀剣男士だ。資料だけ見ていたが相変わらず刀剣男士はイケメン揃いだ。
問題は、その狩衣の青年の顔だ。
雲次にそっくりなのだ。瓜二つと言っていい。髪型の違い――雲次がワンレングスなのに対し、青年は前髪があって長髪を括っていた――があれど、同じ刀派かもしくは写しと言われたら納得する。隣に並んでいるゆえに、その差異を見つけるのに必死になってしまう。女審神者候補生どころか、男審神者候補生ですら目を剥いているのだから相当だ。
その騒ぎが収まるか否かの頃に、青年はマイクに向かった。
『えー、私は男性審神者の菱潟と申します。候補生の皆さん、本日の講演に足を運んで頂きありがとうございます。本来ならすぐにでも組織犯罪系ブラック本丸への対策について語りたいところですけど、まずは俺の顔を見てください。――あ、もう見てますね』
思わず頷く。同調した者が数名散見された。
それに青年は薄く笑う。
『見ての通り、私は雲次にそっくりです。これは偶々です。他人の空似と言うのは恐ろしいものですね。さて、世の中には私のように刀剣男士にそっくりな審神者、あるいは刀剣男士並みのイケメンの審神者と言うのもいます。そこの男性審神者候補生、自分は関係ないという顔をしてますね』
1部からざわめきが起きる。男審神者候補生が固まっている席からだ。
青年はマイクを握り直す。
『そういう人ほど……そして今回の講演に来るような、単位に抜け目なく取得しようとする人も、気を付けて頂きたい。そういうイケメンの審神者に、“金を貸してくれ”“資材を貸してくれ”“刀剣男士を貸してくれ”などと言われたら即座に政府に通報を。審神者同士の金銭・資材・刀剣男士の貸借は禁じられています。尤も、その場では断りにくいと言う場合は一旦承諾してからその場を離れてください。脅迫されたと言う形で処理します。まずは逃げることが先決です。よくわからなかったら、“俺みたいな顔をした奴には気を付けろ”と言うことだけ憶えて帰ってください』
それから、青年はころりと笑った。
『さて、個人的注意はここまで。ここからは予定通り審神者になってから組織犯罪系ブラック本丸に関わったら、の講話になります』
そこから話はがらりと変わり、彼女は思わず聞き入ってしまったのだった。あまりに迫真に満ちた、青年の体験談だったゆえ。
――控室にて。
「お疲れ様でした、菱潟様」
管狐が言う。首の骨を鳴らす審神者は、雲次にも「お疲れ様。肩揉む?」と言われて頷いた。
審神者は言う。雲次に肩を揉まれながら。
「あー慣れないことした。審神者研修校で組織犯罪系ブラック本丸について語れって言われたときは吃驚したよ」
「驚いたのはこちらですよ。なぜわざわざそっくりな雲次殿をお連れになったのかと思えば……まぁ講演は時間通り終わらせた辺りさすがと言いましょうか」
「だって必要なことじゃん。刀剣男士で慣れてるはずの審神者がイケメン審神者に騙される話なんていくらでもあるじゃん。これからは審神者研修の必須項目に入れるべきだよ。騙されたら本丸ひとつ潰れることもあるんだし」
「検討しておきます。しかし説得力が段違いですね、菱潟様」
管狐はちら、と彼の顔を見た。
「政府での会議で、顔でごり押しすることもあるお方の話は」
「さてなんのことやら」
審神者は空惚けた。
さて、審神者研修校ではのちのち、この日の講演がある意味伝説として語られるところとなり、卒業し審神者になった者が菱潟を見つけて「マジで雲次そっくりだ」と驚くことになる。
了