pixivより転載
審神者が長谷部を伴い、政府に所用を片付けに行って数時間が経つ。
「遅いな」
「今回の件は少し手間取りそう、って言ってたからね」
長義が柱時計を眺めながら呟くと、それを聞きとがめた通りすがりの加州が洗濯物の籠を抱えながら答える。長義は嘆息交じりに言った。
「いつも思うんだが、政府関係の案件は俺がついていくべきでは」
「もう長谷部で馴染んじゃったからね。それに偶についていくじゃんお前」
「飽くまで俺は交代要員だからね。本丸での事務仕事も、主がシゴデキ過ぎて他所ほど逼迫していないし」
「いいことじゃん」
「少しは俺たちに任せて欲しいところだ──おや」
そのとき、転送ゲートの起動音がした。恐らく審神者が帰って来たのだろう。加州は言う。
「丁度良かった。長義、出迎えに行って。俺は俺と安定の分の洗濯物運んでるところだから」
「あぁ」
長義は素直に頷き、玄関の方へと向かった。
その背中を見送り、「ウチの長義って本当に素直だよなぁ」と思う加州だった。
「あーびびった」
その長義は、尋常ではなく疲れた顔の審神者を出迎えていた。
玄関で草履を脱いだ彼は、長義に羽織を渡す。それから隣で靴を脱いでいた長谷部に「今日はあと自由にしていいよ」と告げた。言われた通りにさっさと去る長谷部を見送ってから、彼は溜息を吐いた。
「何をそんなに怯えることがあったんだい」
これは訊いてくれ、ということだろうと長義は空気を読んだ。それで尋ねると、審神者は堰を切ったように喋り出す。
「それがさー聞いてよ本歌。今日めっちゃ怖い長義がいてさ」
「怖い俺?」
首を傾げる長義に、審神者は語り出す。
この日の彼は、いつも通り長谷部を伴い、少々小難しい案件を政府に相談に行った。このときに応対に当たったのが、組織犯罪対策部の新人女審神者だった。
政府所属の審神者はそれなりの数がいる。本丸を持つための霊力が低かったり、本丸を失ったりなど様々な事情があり、中途採用と言った方が近い者が多い。そんな中で、明確に若そうなその女審神者は珍しかった。
結局、彼は彼女の事情をそのときは知らずに終わった。
彼女と、飽くまで仕事の話をしていたときだ。
気が付けば、彼女の背後に長義が立っていた。審神者は「ホラーかな?」と思った。
その長義が恐らく知己のある、それなりに審神者と親しかった長義だと気付いたが──彼は気付いた。
長義は、女審神者の肩に手を置いていた。その上で、長義は──審神者をあからさまに牽制していた。
……審神者は、話を終えてから彼女に尋ねた。
「それで、そちらの長義はあなたの部下ですか?」
「そうですね。私が主になりました。彼の方がキャリアが長いので、専らサポートしてもらっていますね。ね、長義」
「そうだね」
そう言って、彼女には花が綻ぶような笑顔を見せた。
「ということがあって」
「それは怖いね」
審神者と長義は、河岸を変えて話していた。審神者の執務室である。途中で大包平が運んできた「童子切が練習で淹れた」と言う茶を2人で飲んだ。それなりに美味しかったので、それをその場に留まっていた大包平に伝えると、「そうか!」となぜか彼が満足そうに言って去っていたのだった。そしてそれから話を再開して、今に至る。
審神者は腕を組みながら言った。
「俺、あの長義とはそれなりに親交があったつもりなんだけど……多分あれ男ってだけで警戒されてたよね」
「そうだろうね」
「本歌、山姥切長義ってあんなに露骨に嫉妬深くなるの?」
「心外だ。それはその個体が特別嫉妬深いだけだよ」
「ほんとお~~?」
「本当~~」
「そっかあ」
そう言って、審神者は畳の上に仰向けに転がった。
「俺が御手杵と結婚してるの忘れて嫉妬してくる個体はあれだけかあ」
「不安なんだろうねぇその俺は」
長義も畳の上に転がった。
ごろごろと畳に転がる彼らを見咎めたのは、おやつを持って来た倶利伽羅江だった。
「何をしているんだあなたたちは」
「戯れ」
了