政府の会議に出に行った審神者と長谷部と雲重(雲重は仕事の勉強)。会議室に1番乗りしたのはいいが、そこには「刀剣男士にランダムにデバフがかかる」という罠があった
pixivより転載
学生時代、野球部の朝練のために早起きする習慣のついていた審神者は、大学を卒業し審神者に復帰した今もなお早起きである。そんな彼につられて、余程の朝に弱い個体でない限りは刀剣男士も早起きだった。
そういうわけで、その日政府での会議に行くことになったときも、審神者も刀剣男士も随分早起きだった。
ゲートを潜り抜け、政府に到着する。政府案件担当の近侍の長谷部は嫌味を零す。
「全く、じじいどもみたいな早起きするんですからあなたは……つられて起きてしまうではないですか」
「朝型で何が悪い。ねー雲重」
「はい。早起きなのは素晴らしいと思います!」
さて、新入りの雲重である。
この度のちよこ作戦にてやって来た彼は、実に仕事に積極的だ。どちらかと言えば整備士と言うだけあり手を動かす方が得意だし好むようだが、本丸の古参は「どうせだから」と事務の方も覚えさせようとしている。実のところ事務は常日頃は審神者だけで賄っているようなものだが、彼が倒れることはさほど珍しい話ではないからだ。
この日も、政府案件に関わらせてみようという試みで、彼をついてこさせたのだった。政府案件は政府出身の刀剣男士が適性が高いが、意外な刀剣男士が能を見せることもある。特にここの審神者は連続殺人事件を解決したこともあるので、地道な捜査に適性のある刀剣男士も求められるところだった。なお二筋樋はあちこちの政府案件に関わる審神者に引っ張りだこである。勿論この本丸でも早々に鍛えられた。
その二筋樋を鍛えるのはもう十分ということで、新入りの運中にお鉢が回って来たのだった。彼はきょろきょろと政府の内部を見ている。
「わぁ、政府ってこうなってるんですね」
「そうだよ。長谷部、会議は東館の第3会議室だっけ?」
「そうです。3階までエレベーターに乗りましょう」
朝の政府はほぼ人はおらず、エレベーターも当たり前のように他に誰もいなかった。恐らくこの分だと会議室に一番乗りだろう。そんなことを喋りながらエレベーターを降りる。
まさか一番乗りであることが災いを齎すなど誰も思わなかったのだ。
──第3会議室の前に辿り着いた彼らは、審神者が真っ先に入った。これは政府だからだった。常ならば刀剣男士を先行させて検索と消毒をさせるところだ。政府施設は安全なはず、だった。
「おー本当に一番乗りだ。というか職員すら来てないな。早すぎたな俺ら。……長谷部? 雲重?」
背後で扉が閉まる音がした途端、ぴたりと静まり返る。審神者は訝しんで振り返った。
途端、大きな音。
長谷部が身体を硬直させたまま仰向けに倒れた。
「は、長谷部!?」
「う……あ」
「大丈夫!? 頭打ったでしょ今! てかなんでそんな硬直して……」
長谷部の様子は見るからにおかしかった。まるで縛られたかのように直立した状態から倒れていたのだ。そして倒れた今なお縛られたように手足を硬直させていた。
(まさか刀剣男士が脳卒中!? いや、これは……)
「今人を呼ぶから、そのままじっとして──ん? なに?」
長谷部の硬直して動かない手をそれでも握る。長谷部は、そんな主に目のみを動かして必死に何かを訴えようとしていた。
長谷部の口が、僅かに動く。
『に』
『げ』
『て』
──途端、審神者も床にもんどりうつ。
ただし彼は誰かに突き飛ばされたことによってだ。審神者は長谷部が倒れたことで一瞬意識の外に追いやっていたもう一振りの存在を思い出した。
雲重だ。彼は審神者を床に倒したのだ。審神者としては困惑しかない。
「雲重? なに、どうしたの」
「……にげて、ください……」
「え?」
「自分から……!」
そう言って、雲重は言葉とは裏腹に、審神者を押し倒した。そしてキスをしてくる。驚いた審神者に構わず、舌を捻じ込んでくる。
「ん、ふうっ……!」
抵抗を試みるが、体重をかけられて退かせない。上背で言えば僅かに審神者の方が上回るのだが、体格差は圧倒的だ。あのベルトに食い込んだ胸筋でわかる筋力である。捻じ込まれた舌で口内を蹂躙された。
「ふ、あ……」
酸欠気味になった息を、空いた瞬間に思い切り吸う。しかしそれどころではない。
雲重は、審神者の服を剥きにかかったのだ。
さすがに慌てて突き飛ばす。意外に容易に彼は尻餅を搗いた。それから出口を探そうとするが、丁度出入り口が長谷部と雲重で塞がれている。舌打ちして窓を開けようとした。──開かない。
(結界か……!)
「主……」
「!」
立ち上がった雲重が、審神者の方へとまた来ようとする。審神者はそのとき一計案じて、わざと雲重の前に近寄った。
すると雲重は寄って来る。それを会議室の机と椅子を避けながら引き寄せた。
一周し、出入り口の前まで来ると、テーブルと椅子を雲重の前に力いっぱい叩き寄せた。雲重はテーブルと椅子に潰れる。
「おい! 何かあったか!?」
外から、恐らく政府職員の声がする。それに内側から扉に縋った。──開かない。絶望の想いで、それでも助けを呼んだ。
「助けて! 開けて! 今長谷部が倒れてて雲重が俺に襲い掛かって来てる!」
──その途端、外の空気が冷えた。気がした。
「──御刀様が倒れていると?」
途端、扉が蹴破られた。ぶちん、と鈍い音がした。それは結界が切れた音だと、あとで怪奇対策部の職員から教わることになる。
そこには、「怪対部所属」と腕章をつけた安宅切がいた。藤色の目が暗く澱んでいる。
「黒田の御刀様に手を出した不届き者はどこです……?」
「待って落ち着いて! とりあえず長谷部と、あと雲重! 運ぶの手伝って! 神祇処の救護室! 多分あれ、ほら、デバフ! デバフがかかってた!」
その通りだった。
神祇処で見てもらったところ、彼らは状態異常の呪いにかかっていたという。長谷部はスタン、雲重は混乱と魅了だったらしい。
彼らは3時間ほどのお清めののち──その間審神者は本来の目的の会議に参加していた。恐らくこの会議の議題の妨害工作だと思われたからだ──、目を覚ました彼らは何も憶えていなかった。そう、雲重も。
心なし、少し距離を置いている審神者に、雲重は戸惑う。
「自分、あなたになにか……?」
「大丈夫。あれは事故」
「あの、何かしましたよね」
「事故。事故。鵜飼派ろくなもんじゃねえなとか思ってないから」
「しましたね!?」
「皆さん、解呪は済みましたからあとは捜査会議にさっさと行ってください。今回の件で我々の仕事も増えたんだからさっさと行ってください」
「お、俺らは悪くなくない……?」
「八つ当たりです」
「そうきっぱり言い切られると」
「清光、俺、怖いんだ……。雲生は俺に手を出そうとして来たし、雲次は1回ちょっかいかけてきた。1番純粋そうな雲重でさえ今回の件だ。……雲上とやらが来るのが怖いんだよ……」
今回の件は内々に周知され、「鵜飼派は危険」という認識を持たれてしまうことになる。
「自分、主に何かしでかしてしまったようで……」
「大丈夫。私がしでかしたことに比べればはるかにましですきっと」
「逆に何しでかしたんですか……?」
了