pixivより転載
どだい、無茶があったのだ。
「2020年代のオリンピアンの殺害が目論まれてる?」
「──と、政府は歴史遡行軍の動きを読んでいるらしい」
審神者は、大広間に集めた刀剣男士たちに語り掛ける。手には書類が握られていた。
「正確にはそのオリンピアンを育てたコーチも諸共、といきたいらしい。彼らはどこかで私怨を買ったのかも知れないね。まあオリンピアンともなれば要らない恨みを買うこともあるだろうけど……」
「種目はなに?」
「フィギュアスケート」
「あぁ、日本は200年前からフィギュアスケートの過密地帯と聴くね。……待て、スケート?」
「歌仙の察し通りだと思うよ」
審神者は言った。
「お前たちには、フィギュアスケートを滑ってもらう」
そして今、歌仙たちは2020年代の名古屋にいる。
「無茶があるよね」
「全くだ」
そこにある東山FSCのスケートリンクで、彼らは股が引き裂けそうになるのを必死で堪えていた。
今回の部隊の編成は歌仙、加州、太閤、物吉、豊前、古今伝授の太刀の6振り。寸法が打刀以下なのは、特に打刀は学生としても大人としても振る舞える外見年齢に期待されたものだ。一応、この中では最も落ち着いて見える歌仙と清磨に身分証明書が渡されている。「親戚や友人たちでスケートに挑戦しに来た」というのが渡されたバックストーリーである。
問題は、潜入先で妙に目立ってしまっている、「滑れない男たち」が発生していることだ。物吉はなんとなくモノにしている。それでも滑り方はややぎこちない。顔のいい男たちがどれもこれもポンコツだったため、周囲の女性は声をかけるか否か迷っている様子だった。これはいけない、と歌仙は思う。現世への潜伏任務は目立たないことが第一義だ。今の自分たちは思い切り目立っている。今からでもメンバーを変えるべきではないか──そう思っていたときだった。
「あ。わかりました」
不意に呟く声。
──颯爽と滑っていく風。
ジャッと回転する身体。長い髪が巻き付く。
着氷したスケート靴が弧を描いた。
「……古今?」
思わず歌仙が呟く。その間も彼は股が裂けないように必死だった。その中で優雅にスケート靴で輪を描く。
「なんとなくですがジャンプできました。今の何回転だったんですかね?」
「すごいよあなた! 3回転アクセルでしたよ!」
不意に声をかけられる。歌仙が見遣ると──要警護対象がそこにいた。
明浦路司と結束いのりだ。堂々としている前者に対し、後者はおどおどと彼の腰の後ろに隠れている。
司はにこやかだ。
「どこかでプロでもされてるんですか」
「いえ、スケートは今がはじめてです」
「はじめてで3回転アクセルを!?」
「(……ねぇ歌仙)」
「(あぁ……うまくとっかかりを掴めた)」
ネックは、この面子でどうやって警護対象と接触するかだった。場合によっては遠くから見守り、いざとなったら時間遡行軍を討伐するつもりでもいた。しかし接触できるならいい。場合によっては太閤をスケートクラブに入れるつもりだったが……穏やかに司と話をする古今伝授の太刀を眺めながら、策謀した。
このまま個人的に親しくなる方面でいこう。なおも股が裂けそうになりながらも、歌仙は考えるのだった。
「へぇー、学生さん。親戚と友達で滑りに来たと」
「そうなのです」
(いいぞ、いけ……!)
要警護対象、将来のオリンピアンとそのコーチの結束いのりと明浦路司。彼らを無事に守り切れるか──!?
ハッピー・エイプリルフール!