あとどうせなので航時船にも触れとこうかと
審神者が星属性って言うのは、聖杯乱舞で転生ぐだ♂マシュの長男で、見た目はマシュ似だけど中身というか性質が父親似なところから
pixivより転載
確かに、ここの審神者は星に擬えられることが多い。
政府職員にとっては「組対部の期待の星」だし、船や海に関わったような刀剣男士からも「北極星」と例えられることもある。
だからと言って、こんなことが起きていいはずがない。事に関わった火車切はそう思ったのだった。
秋のことである。審神者が審神者になって12年の節目だ。
航時船の建造の通達が来て俄かに騒がしい本丸。審神者は「新しい構造が加わることでまた犯罪やらかす輩が増えると嫌だな」とコメントしていた。組織犯罪対策部に引っ張りだこのここの審神者としては、本業の本丸の、そして新たなる航時船とやらの指揮になるべく支障が出ないようにしたかったようだった。
そんな審神者はこのところ、火車切の見る限り、空を見上げることが多かった。目が疲れているのだろうか? と火車切は考えた。実際、そのあと執務室の小型冷蔵庫から目薬を取り出す姿も見受けられたからだ。
1度だけ、火車切は尋ねたことがある。
「主、目でも疲れてるの?」
審神者は、目を擦りながら首を傾げた。白い髪が揺れた。
「うーん……多分」
そう言いながらも、審神者自身も納得していない様子だった。
ある日のことだ。
夕暮れ時。火車切は今日の厨当番のひとりの堀川に頼まれて、審神者を夕餉へと呼びに向かった。いつもならば加州や御手杵がすることだが、彼らはそれぞれ遠征に出ていた。帰って来るのは深夜になるだろう。彼らのための作り置きもしなくてはならないので、夕餉作りは特に忙しい。100振りを超えて久しい本丸の食事事情は中々に厳しいのだ。一見昭和風の厨も、実際は23世紀最新のキッチンだ。見た目が古風なのは単なる刀剣男士の気分のためである。
火車切は、そのとき妙に胸騒ぎがしていた。
(なんだ?)
何かの勘が働いているようだったが、それを特定しようとすると妙に思考が鈍る。まるで何かに妨害されているかのように。そう思うと、一刻も早く審神者の元に行かなければ、そう考え、早足から小走りになった。
果たして、審神者はいた。
「主! よかった、無事だったんだ……ね……?」
答えがない。いつも誰が声をかけても明朗に応える彼が。
審神者は、執務室を出てきたところのようだった。ただ、それは中途半端な体勢で、立ち上がって、その背後を見たという風体だった。
彼は何を見たのか。動こうとしない彼の視線の先を見た。
そこから先の火車切の記憶はない。
気が付けば、政府の医療室で、大倶利伽羅に膝枕されていた。
「起きたか」
静かな声が降って来る。それは心から心配している表情だと、この2年と半年以上の本丸生活にて火車切は学んでいた。それが申し訳なく、そして今の状況がわからず、思わず大倶利伽羅の傍に立っていた燭台切に尋ねようとした。立ち上がろうとする。
ぐわん、眩暈と共に頭が揺れた。
「あたたたた……主は?」
「同派との接触の方が回復が早いって対オカルト班が言ってたからね。もう少し伽羅ちゃんの膝を借りてなよ。状況は今から僕が教えるから。ちなみに結論から言うと主は無事。SAN値的なものは危ないかもしれないけど」
審神者と火車切を救ったのは、本丸に漂う「異臭」のようなものに猫より早く気付いた大倶利伽羅が審神者の執務室まで駆けて行ったときのことだ。
駆け付けた先では、異様な光景が広がっていた。
まず、濡れ縁の下になにかを大量に吐いている火車切。
そして、──既に暮れなずんでいた空の一点を凝視して、全身を緊張させたように強張り、火車切を気遣う様子のない審神者。これは異常事態だ、この審神者が弱っている者に手を伸ばさないわけがない。それが長所であり短所だったが、閑話休題。事態は差し迫っていた。とりあえず火車切の背中を撫でながら、大倶利伽羅はこれ以上ないほど声を張り上げた。
「対オカルト班!! 主がおかしい!!」
──その一言で、幣を持った石切丸、酒瓶を片手の次郎太刀、書類作成中だった長義、他何かしら物を片手にやって来た。そして事態を重く見た太郎太刀は、どこから取り出したのか、審神者に目隠しをした。そして彼を担ぎ上げる。
「こんのすけに伝えてください。ウチの主を至急政府の神祇処まで連れて行きます、すべて事後承諾で済ませて始末書上げたくなければ急いで仕事しろと」
太郎太刀がここまで言うのは珍しかった。それだけ急いでいるのだろう。
それから大倶利伽羅を振り返った。
「それと、火車切殿が吐いたものもできれば回収しておいてください。怪対部に回しますので」
大倶利伽羅は驚いたものだった。火車切の「猫」の性質を強く受けた結果、「何でも吞みこんでしまう:難が否体質を把握されていた。さすが神刀、と感心したところで火車切のことも気になった。
「火車切はどうすれば? これほど酷いのははじめてなんだが」
「同派のあなたが接触していれば自然回復しますが、できればあなた方も神祇所に来てほしいところですね。片付けが終わったら吐瀉物を持って火車切殿を連れて来てください。ゆっくりで大丈夫ですよ」
……そういうわけで、大倶利伽羅は念のため軍手とトングでビニル袋に回収したのだった。
吐いたところまでは薄ら記憶の残っていた火車切。そこでとあることに気付く。
「俺が吐いたの……海星(ヒトデ)だったよね?」
「そう見えたがな」
「でもおかしいんだよ」
火車切は言った。
「あの海星、しょっぱくなかった。多分淡水の海星だと思う」
「え?」
燭台切と大倶利伽羅の声が重なった。
尋ねたのは、大倶利伽羅の方だった。
「火車切、海星に淡水生物はいない」
「ひぇ……益々怖いじゃん……」
「で、主の方なんだけどね。全身硬直状態だったんだけど、医療施設で治療を受けたらなんとか意識が回復したよ」
「よかった……!」
火車切は審神者のことがずっと気がかりだったのだ。無事だとは言われていたが、意識が回復したなら望ましい。
しかし、ここから燭台切は顔色をなくす。
「彼ね、ここ1週間ぐらい、夕方の空を見ると、視界の端っこに何か見えてたんだって。はじめはよくわからなったから緑内障かな? と思ったらしいんだけど……今日になって急に気付いたんだ。あれは、空を浸食して、黄昏に手を伸ばす海星だって」
『海星は本来、象徴としてはめでたいものなので、吉凶返しが起きるかもしれない』
『だが様々な面で星を象徴する審神者が、星を吐いた。これはいかがなものか』
『しかし航時船の建造計画はもうはじまる』
『祈ろう。星が星であることを。航時船を導く星であることを』
『然り』
『然り』
『……』
End.