※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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題は深読み推奨。not嫌われ、but......?※似非土佐弁 後半にちょっと大倶利伽羅。陸奥守の「おんしゃあ」という言い方が実は土佐弁だとかなり乱暴だから実は審神者結構嫌われてるんじゃないのか、という話を聞いて。
▼私の土佐弁知識は風/雲/児/た/ち@み/な/も/と先生がベースなのです……
▼このシリーズの審神者がかわいげがない事について。ここの本丸の刀剣は審神者に対して大体家族愛・親愛・友愛的な愛情です。


陸奥守吉行は審神者を嫌っている。【男審神者+陸奥守】

「ワシはおんしの事が嫌いじゃあ」

 笑っていうと、彼も笑っていった。夏の陽光が眩しい。

「だろうね。そうでなきゃ、困るよ」

 

 

 

 最近は、絵画収集にも凝っている。無駄に広い城の一角、審神者の私室から書庫に続いて、画廊として潰されつつある。そこで新しく購入した絵を飾る彼の背後で、陸奥守が身を屈める。彼の位置からだと10cm程目線が下だった。

「この時計がとけちゅう絵はなんじゃ」

「ダリの絵だよ。スペインの画家。いっておくけど複製画でもそれなりのお値段だから気を付けてね」

「わかっちゅうよ。龍馬ンちは商売やっとったからの、こういう貴重品も扱っとったい、心得ちゅう。それよか、もう少し上に飾った方がええ」

「あーそうだねえ、これぐらいだね」

 いいながら、金具を固定する。板張りの窓のない部屋、それでも額の中の奇妙な絵は、既に馴染みはじめているようだった。「記憶の固執」と小さく題されたその絵は、間近に熱を持ったように溶けた時計、遠くに岩肌の目立つ崖と水辺が見える。貴重品、というのは見ればわかる。この主が書庫に並べている本も奇書ばかりだ。但し、この絵と同様、奇書の「奇」は奇妙という意味のものが大半だが。金具を固定し終えた主が額の汗を拭うのを尻目に、部屋を見渡す。壁という壁に飾られた絵は、ここの主が少しずつ収集していった絵が並んでいた。空は昼、地上は夜の絵。大きな岩が空中に浮かぶ絵。日差しの強そうな人気のない町中、車輪回しをする少女。全ては空に浮かぶ中、台座に右足を、膝に赤子を乗せ、手を合わせた女性の絵。最後は所謂聖母の絵だろうか、と陸奥守は辺りを見渡す。絵以外にも、ここには彫像や置物なども存在する。中には時折動き出しそうなものも存在したが、審神者は気にも留めていない様子だ。時折「審神者の私室の書庫から女の笑い声がする」「本が付喪神化している」などという心霊現象が既に報告されているのだが、彼自身が気にしていないので、恐らくここの彫像などが夜な夜な徘徊しはじめるまではこのままなのだろう。何せ、この画廊や書庫から唯一通じる扉は審神者の部屋からなのだ。危害が加わるとしたら自分からだ、とどうせ審神者は考えているのだろう。そんな事を思いながら、満足げに絵を眺める審神者を見下ろしていう。肩を回した。

「主、朝に喰うて以来じゃから小腹が空いたの。厨に行くぜよ」

「そうだねえ」

「……おんしもじゃ」

「おおう」

 絵を見て動かぬ審神者を小脇に抱える。小栗流を鍛えてやってはいるが、審神者の目方はまだまだ軽い。ここの扉は広く高く作られている。どんな美術品でも入れる時にぶつからないようにだ。その為に陸奥守が審神者を抱えてそこから出ても、審神者が壁にぶつかる事はなかった。書庫から通じる扉の隣、審神者の私室に出ると一気に庭の眩しい光が部屋に届いていた。畳の日焼けは避けられそうにない程の、夏の日差しだった。巻き上げられた簾から出ると、丁度、呼びに来たのだろうか。Tシャツ姿の燭台切が「あぁ、丁度良かった」と審神者が抱えられている事実には触れず、盆の上のものを示した。

「2人ともこもっているって聴いてね。おやつにしよう」

 水ようかんは2人分。茶と共に載っていた。

 

 

 エアコンはある。しかし、庭に面した部屋にはそれがない。この部屋も良い証拠で、障子の向こうの景色を眺め、蝉の声と扇風機の音をBGMに水ようかんを頬張る。あとから気を利かせてくれた燭台切が持ってきてくれた手拭いを首から下げながら、陸奥守は

「しっかし暑いのう。主、何も季節に合わせて『景趣』を変える事もないんじゃないかのう」

「これでも涼しい方だよ、23世紀の日本に比べたら。この本丸が位置している時空間の日本の夏の暑さに調整してるし」

「……温暖化っちゅーのはげにおっそろしいもんじゃのう」

 文字通り、涼しげな顔で水ようかんを頬張る審神者の顔には汗がほとんど見られない。首から下げている手拭いも用を為していないように見えた。彼の生まれ育った時代、彼は東京、昔の江戸に当たるところに生まれたという。彼の時代では本州全土が熱帯化している。四季らしい四季は既に北海道や本州最北端にしか存在していないそうだ。なのでこの本丸に来て、審神者にもたらされる特典として「景趣」というものが存在する。本丸の季節を自由に変えられる権利だ。大概は刀剣男士の時代の為に季節を時候に合わせているが、全体的に23世紀を生きる審神者達にとっては「涼しい」としか感じなかった。水ようかんを頬張る審神者は、「この時代は涼しかったんだね、夏の夜が必ず30℃を超えないなんて」などという空恐ろしい事を言い放つ。それを聴きながら、ふと、陸奥守は茶を飲んで尋ねる。

「その『位置』っちゅーのは、どこなんじゃ」

「それはこんのすけに聴いて頂戴、多分教えて貰えないだろうけどね。俺も知らないもん。とりあえず銃刀法が執行されるより以前の時代に座標があるんだってよ、当時の政府が刀剣男士を配置する苦肉の策として作った脱法案だそうだ」

 茶を飲む、審神者の顔は涼しいものだ。多少は日に焼けたものの、それでも氷で出来たような白さは相変わらずだ。だが存外体温が高いのは何度か頬を抓ったりなどをして知っている為、暑い今はそれが忌避される。その代わり、審神者の言葉を頭の中で反芻した。

 いわれてみれば、自分達は突き詰めれば「モノ」、そして凶器だ。銃刀法、凶器準備集合罪。戦後に正式に執行された法律は23世紀、有名無実となっていても一応は有効のままだ。銃弾が飛び交う抗争が日常と化している区域も存在するも、それを認めれば瓦解するものがある。建前というのは国にとって重要な「質」なのだ。なので「刀剣」男士達を派遣し、その中継地とするのは銃刀法が施行される「前」。法の遡及性が無効の時代以前に、それぞれの審神者の本丸がある。勿論それがどこにあるかは極秘事項の上、施行される以前であればどこでもいいので、ひとつの本丸を特定するだけでも困難を極める。「余程時代差による環境差を研究してないと難しいだろうね」とは、暢気に水ようかんを食べ続ける審神者の言だ。

 そして、黒文字を持て余す陸奥守は、僅かに顔を顰める。

「……なんか、気に入らんのぉ」

「だろうね。お前の嘗ての主が目指したものとはずれてるように思えるだろうね。でも、そんなもんだよ」

「ワシがいうちょるのは、おんしの事じゃ。主」

 黒文字を咥えた口。円らな目が瞬かれる。まだ幼い顔立ちだ。この年にしては少しだけ背が高い事を抜けば、充分年相応の見た目だ。だから黒文字を置いた陸奥守は、湯飲みを片手に目の前の主を見遣る。

 戦略家で戦術家。こんのすけを通り越し、政府とも1歩も譲らぬ駆け引きをする。刀剣男士の士気にも考慮する。だから陸奥守は気に入らない。

「おんしはいっつもそうじゃな。大人が、いや、大人でも簡単にできん事を平気でしよる。納得しよる。けどなぁ主、おんしは子供じゃ。人と比べる必要はないがの、おんしはいっつも突っ張っちょる。おんしゃあ、なんで子供なのにそんなに大人になりたがるんじゃ」

「……陸奥守は心配してくれてるんだよね、有難う」

 そういって、更に陸奥守を腹立たせる笑みを見せる。それは、穏やかな微苦笑だった。幼い顔に、これ程見合わないものはない。

 主が本当に幼いのだと知ったのは、顕現されて日の浅い頃。何だかんだと話すようになった加州に、「主は確か、今でいう中学生ぐらいの筈だよ」と情報をもたらされた。それを知った時、自身のうちに生じた衝撃はなんだっただろう。

 あの采配をする審神者が、まだ子供。龍馬が江戸に修行に出たのは何歳の時だった。彼が目指した日本は、世界は、あんなに老成した子供を望んだのか。

 それからだろうか。殊更、特別視をしていなかった主に対して、何かしら構うようになったのは。体力作りの為の剣道の指南が切欠だったかも知れない。日ごとに成長していく体と、日ごとに海千山千の深さ高さを見せる審神者。鶴丸が来れば悪化は不可避の悪戯で長谷部や大倶利伽羅とリアル鬼ごっこをしている様は子供らしい、と思ったのも懐かしい。そのトラップすら、士気を下げない為の工夫のひとつ、と知った時には、寒々しささえ覚えた。最近になって、漸く「奇書蒐集」「絵画収集」という趣味を見せて来たから、まだ信じられるのだ。

 彼が人間であると。

 頬杖を突いていう。皿は既に空だった。

「心配というより、不気味なんじゃ。おんしゃ、その年で『審神者』として……ちゅうより、軍隊の将として完璧すぎるんじゃ。おんしがもっと老けとったら説得力もあったがの」

「陸奥守は正直だね」

 微笑む、審神者はいう。

「俺もこんな主だったら気持ち悪い、って思ってるところだよ。それでも、これが自分自身に望む理想だからね」

「全て無駄なものなど何ひとつなく、っちゅー事がか」

「お前らにとっては良い主でしょ。何か不満があるの」

 心底からの疑問のようだ。小首を傾げる様は、時代が時代ならば大名に気に入られて小姓として取り立てられそうだ。商家育ちの陸奥守は無感動に考えながらも、溜息を吐く。

「不満はある。ワシは、主に幸せになって欲しいんじゃ。今のおんしは、とてもじゃないが幸せに見えん。不幸でも、なさそうじゃがな」

「民主主義は多数決が正義だよ。他の刀剣が俺にどんな主であるかを求めているかわからないうちは受け入れられないね。それに、俺個人の幸せがどんなものかって、陸奥守にはわかるのかな」

 ちりりん、ちりりん。風鈴が鳴る。簾と共に飾られたそれは、涼やかな音を立てた。蝉の音と相俟っている。深い深い溜息が、陸奥守からもたらされた。

「少なくとも、理不尽に憤るんじゃのうて、それを受け流して利用する。それが自分ですら同じ事。自分が立てた理想の為に感情を押し潰す。そんな生き方は、幸せそうには見えんの」

「残念。それはもう、俺の1部なんだ。屹度俺はどこか欠けたまま、もう大人になってしまったんだよ」

 そう語る、審神者の声は今日の中で1番平板だった。驚いて、顔を見る。微笑みは消え、フルフラット。まるでそこだけ色が消えたように、審神者は座っていた。色があるとわかったのは、審神者の目の色の為だ。伏せがちになった審神者の目が、瞬きをする。鮮らかな色が、生気の失せた肌の下で沈んでいた。

「ねえ陸奥守」

 息を飲む。音が消えたようだ。その中で、審神者の声だけが低く響く。見た目よりも低いそれが、陸奥守に余計に途惑わせる一因だった。

「自分の困惑や迷いをぶつける事で、それが自他の為になる。それは、本当に幸福な事なんだろうね」

「……おんしの幸せは、なんじゃ」

 何とか声を絞り出す。すると、審神者は、一転、輝くような笑顔を見せた。しかし、音は戻らなかった。

「温かい日向の縁側で、お茶を啜る事かな。膝に猫がいたら完璧だ」

 この子供は、心が既に年寄りなのだ。だから、自分の幸福は今更追及しない。あとは、どうやって死ぬかだ。

 堪らず、吐き捨てる。

「ワシはおんしの事が嫌いじゃあ」

「だろうね。そうでなきゃ、困るよ」

 審神者は笑った。

「こんなかわいげのない子供を減らす為に、せめて生き方ぐらい自分で選べるように、俺は審神者になったんだから。陸奥守みたいな奴には、俺を嫌いなままでいて欲しい」

 そしてぽつりと、呟いた。

「御免ね、陸奥守。俺はお前にとっては良い主にはなれない」

 それが本当に本当に申し訳なさそうで、そして――それを自分自身でも悲嘆しているようにも見えたので、陸奥守は審神者の願いを叶えるのは難しいように思えた。

 

 

 

 

 

 もし本や美術品に襲われた場合は撃退していいから。そんな末恐ろしい貼り紙が貼られている。いつからここはホラーゲームの舞台になったのか。そう思いながらも、書物以外の芸術品の部屋――審神者の私室からのみ繋がるそこで、絵を眺める。実に奇妙なものばかり、と評すべきか。

「あれ、くりちゃん。いたんだ」

「……皿と茶の回収を頼んできたのはお前だろう。ついでだから、ついな」

「あぁ、立派だねぇ。欲しいっていってた絵、手に入れられたんだ」

 大倶利伽羅が立つそこに、燭台切が顔を出す。扉は開け放たれたままだ。そういえば本丸程貴重品の保存に適した場所はないな、とも思ったが、「ここのは複製画ばかりらしいよ」と燭台切がタオルケットを手にしていた。彼の意図はわかっている。卓袱台に突っ伏し、あるいは畳に横たわる審神者と陸奥守にかける為のものだろう。どうやら軽食を摂ったあとに眠気を催したようだ。朝から忙しそうだったからねぇ、と密やかな声でタオルケットをかけた。そしてこちらに入って来た燭台切は、大倶利伽羅の隣に立つ。彼が見ていたのは、時計があちこちで溶けている絵だ。それを見て、燭台切は苦笑する。

「主が自分の趣味、楽しみっていうのを持ってくれるようになったのはいいんだけど。なんだかこれは皮肉っぽいね」

「『記憶の固執』、か。シュルレアリスムだそうだな」

「そう。他にもマグリットの光の帝国やピレネーの城、キリコの街の神秘と憂鬱……それにこれもダリの絵だね。ポルト・リガトの聖母だったかな。しかし主の趣味が出てるね」

 そこまで把握している燭台切も凄いが。内心で思いつつも、大倶利伽羅が見るのは目の前の溶けている時計の絵だ。何とも、皮肉な気分にさせる。

 時間、それを表す溶けた時計、そしてタイトル。全てが歴史修正主義者と自分達の戦いを皮肉ったような絵だ。そう感じる程度には、昼寝をする彼らの平和そうな寝顔に苛立ちを覚えていた。特に、審神者に。

 普段はあれ程悪辣な事をし、そして大人顔負けの戦術や謀略を巡らせる癖に。寝ていると、実年齢を思い出させるのだ。子供なのだ。大人ぶっている子供なのだ。深刻な事に、その精神は本人の思いこみも相俟ってすっかり老け込んでいる。それがわからぬ程には、大倶利伽羅は人を見てきていなかった。だから、つい減らず口をたたいてしまう。

「主もいい趣味をしているな。本の趣味もそうだが、こちらも中々だ」

「そうだね。主は画集で充分っていっていたのに、結局こうして飾られる絵を買っちゃったからね」

 その皮肉をどう受け止めたのか、燭台切は隣で笑っている。細められた隻眼を尻目に見ても、その感情は読み取れない。

「本までは良かったよ。閉じれば見えなくなる。でもこうして、部屋に入ればいつでも見られる絵を買ったっていうのが、主にとってどう働くか。僕には予想がつかないよ」

 言葉を返す前に、燭台切は部屋を出て行く。卓袱台の上の皿や茶を手早く片付ける彼に、置いていきぼりを食らった。そしてさっさと立ち去ってしまった燭台切を見送った大倶利伽羅は、途方に暮れて絵を見遣る。

 シュルレアリスム、超現実主義。芸術の思想。けれども不意に、大倶利伽羅に不安が過ぎる。「記憶の固執」、そのタイトル自体に不安を覚えた。

 ――主を老け込ませたものは、過去。「記憶」にある。

 これが、審神者を追い詰めるならば、その時は――自室に置いてきた自身の本体を自覚する。打刀に磨り上げされようと、切れ味は変わらないのだ。

 その程度には、大倶利伽羅は審神者を嫌っていた。愛情を持って、嫌っていた。審神者があれ程に、「嫌ってくれ」といっているから。幼い子供が嫌ってくれと、泣いていっていたから。

 

 

 

 

 

(心が年老いた子供)

 

 

 

 

 

 

「んお、寝ちょったか。おーい、主。起きんかい。……主。主? ちょ、誰か塩水ー! あと氷嚢ー!! 主が日差しの中で寝ちょったから熱中症起こしかけちょるー!!」

「えぇいこの病弱体質が!! ほらまず水だ!!」

「くりちゃんナイス!!」

 

 

 

End.

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