pixivより転載
審神者は思った。サッカー派の刀剣男士がいるなら、野球派の刀剣男士がいたっていいではないか。しかし今のところ、アイデンティティに関わるレベルで野球好きの刀剣男士は来たことがない。精々本丸黎明期に、厚が野球が好きそうだったので誘ってみたらハマってくれて、審神者会議「野球同好会」にもう11年在籍している。
そんな中で、着任早々「サッカー同好会作りたい!」と言い出したのは、先日鍛刀CP開始早々顔を出した朝倉藤四郎だった。傍らには後藤がいる。心なしかぐったりしていた。9年ぶりの藤四郎だからギャップがあったのだろうか。審神者は頭の片隅でそんなことを考えながら、朝倉に尋ねる。
「えっと、審神者会議でなら、サッカー同好会はもうあるよ」
「ちがくて! そっちも魅力的だけどさ、僕はこの本丸でチームを作りたいんだよ!」
「……ってことらしくて。俺も頼まれたけど、俺が声をかけるよりも大将から言われた方がみんなの気持ちが向くかなって」
「パワハラにならないかなあ……まあ、勧誘は止めないし、同好会の結成も止めないよ。なんなら茶道部とか手芸部とかあるし。普段戦で身体動かしてるせいか運動系の部活の話は聞かないけど……張り紙とかしてみたらどう?」
「本当!? やった! 後藤、勧誘頑張ろう!」
「おー……」
どうやら新入りの兄弟に疲弊している様子の後藤に、審神者は苦笑する。恐らくこの調子だとパナノックアウト(1対1)にも付き合わされているだろう。それに、審神者は慈悲を垂らすことにした。果たして見当違いに終わらなければいいけども、朝倉の実装とほぼ同時期に政府から支給された景趣2つの片方が「蹴鞠」だったことに賭けた。審神者は立ち上がると、景趣を「日常の庭・蹴鞠」に切り替える。目を瞬いた2振りの前で、縁側の片隅に置かれていた鞠を手に取る。そして振り返った。
「サッカーはあんまり得意じゃないけど、蹴鞠なら俺も付き合えるよ」
「本当!?」
「逆に蹴鞠出来てサッカーできないってどういうこと?」
「さーはじめるか。3人だとちょっときついかもだけど」
後藤の言葉をスルーしながら、審神者は庭に降りた。
「あー楽しかった!」
「俺は疲れた……」
にこにこと笑う朝倉と、ぐったりしている後藤。彼らの姿を微笑ましそうに眺めながら鞠でリフティングと言う器用な真似をする審神者。そんな彼を見て、朝倉らは言う。
「監督、蹴鞠うまいんだな!」
「それには俺も同意。主ってやっぱサッカーの心得あんの?」
「サッカーは学校の体育レベルだけど、蹴鞠はある」
「どういうこと?」
ぽん、と鞠を蹴り上げた審神者は、落ちてきた鞠を手で受け止めながら答えた。
「俺の実家の本家は武家上がりでね。今でもこの家の男は鞠道を心得るのが風習になってて、分家の男の俺も躾けられたの。どちらかと言えば俺は野球派だけど、サッカーの授業だとまあまあ声援を掻っ攫ってはいたよ」
「自慢か? 大将」
「まあまあ自慢」
「いーなー、主の実家の男性陣と蹴鞠したいなー。サッカーもしたいけど」
「そう言えばこれは雑学だけどね。サッカーの起源は中国で発祥した蹴鞠が元とされているよ」
「そうなの!?」
がばりと立ち上がる朝倉に、審神者は微笑んで言う。
「サッカー協会にも発祥地が21世紀初頭に認定されているよ。中国では紀元前300年に著された『史記』に載っていてね。それから飛鳥時代頃に日本に伝わってきて──」
「出た、審神者先生」
後藤は目を輝かせる朝倉の横で苦笑した。ウォーキングディクショナリー、それがここの審神者である。以前は資料室の書籍の虫干しのついでにボルジア家のチェーザレとルクレツィアの話をしていたことがあったな……そんなことを後藤が思い出していると、一頻り語り終えて満足したらしい審神者は、朝倉の頭を撫でながら言った。
「まあそれはともかく……今度建造するって言う航時船で平安時代以前にも行けるみたいだから、蹴鞠の日本での初大会が見られるかも知れないよ」
「わーい! ところでこうじせん? ってなに」
「新米はわからんか~。実は俺にもよくわかってない」
「審神者なのに!?」
「審神者なのにね」
ははは、と乾いた声で笑う審神者に、後藤はこの先の本丸の未来に一抹の不安を覚えるのだった。とりあえず朝倉のサッカー同好会の勧誘を手伝って気を紛らわせよう、そう決意した。
了