▼ここの部隊の蜻蛉切は、主君筋の槍だった御手杵に対して基本敬語です。別のシリーズのところだと違うかも。
告げた途端、御手杵は思いきり顔を顰めた。
「やだ」
「やだじゃなくて。来るもんはくるよ、日本号。蜻蛉切やお前と揃いの天下三名槍が一振りだよ。我が儘いわないの」
「や~~だ~~~~」
「御手杵殿、はしたないですぞ」
執務室、こんのすけに知らされて渡された資料。画像と共に送られてきた詳細を閲覧しながら告げると、ホログラムのモニター越しに、卓袱台の前で御手杵が畳の上に転がった。玩具売り場の子供である。否、今時の子供もこんな事はしない。広い間取りで助かった。縁側にまではみ出した御手杵は辺り構わず長い手足をばたつかせているが、幸い簾にぶつかる事も卓袱台を引っ繰り返す事もない。本丸の一角、呼び出されたのは現行実装されている槍男士の二振りだ。ホログラムを展開させながら、審神者はいう。御手杵の「やだやだ」という駄々を無視して。
「何でも、今月の中旬から特別任務があるんだそうだ。そこで手に入る、もしくは報酬として与えられる、らしい。次に歴史修正主義者が拠点を置きそうな戦域にも出るかも知れないらしいから、色々と未定だ。後者だと、今までの池田屋と同じく、恐らく打刀以下の寸法の奴らに活躍して貰う事になる。ただ、特別任務の次第によっては、お前らに出て貰う可能性がある」
「それは、嬉しいですな」
今なお隣でばたついている同じ槍男士の事は無視しながら、蜻蛉切は太い笑みを見せる。常にない好戦的な表情だ。
ただでさえ、最近は池田屋という夜戦ばかりの戦域で、打刀より刀身の小さな刀剣男士が有利。太刀以上、ましてや長身を誇る槍の自分達、特に御手杵などはその大きさが最も有名だ。しかし前回の「大阪城攻略」のように、どんな大きさの刀剣男士でも活躍できるような舞台であればこれ以上に嬉しい事はない。絶対の期待は持たせられないぞ、という審神者の真意はわかっている。それでも万が一の為に、腕を鈍らせておかないでおけという事だ。士気は下げたくはないが、戦略家の側面が強いこの審神者にとっては「最悪の事態」は避けたいところだろう。たとえば、鈍った状態でいきなり特別戦域に放り込まれるような――それを了解すると、モニターが消える。しかし、隣の御手杵はふてたままだ。畳の上に俯せになるTシャツ姿の先輩格に、蜻蛉切は呆れて溜息を吐く。
「御手杵殿、仲間が増えるのは喜ばしい事でしょう。戦力の充実が主の求むるところというのは貴男もわかっているでしょうに」
「そりゃわーかってるよ、俺もこの人が場面に応じて戦術を変えていくところは見ててすごい楽しいし」
「えーと、褒められてるのかな」
「褒めてるよ、でもだからこそ日本号が来たら、あんたに使って貰う機会が減るかも知れないじゃん」
起き上がり、卓袱台に顎を載せる。対面する、途惑う審神者は少年の顔をしている。実際幼いのだ。御手杵の行儀の悪さを咎めながらも、彼の普段の愚痴から、それが彼が1番恐れている事だと知っていた。
戦った経験が浅い。それが1番のコンプレックスだ。だからこそ、部隊の中では戦を求める。自身も御手杵の事はとやかくいえないが、彼は日頃との落差が周囲を驚かせるのだ。普段は寧ろ温厚だと思われる態度だが、一度出陣となれば意気揚々と敵を屠る。士気の高揚には最も適した人材、ならぬ槍材だ。戦に出して貰えなければ自分には意味がない――そう思っている節がある事を、蜻蛉切はわかっていた。
そして審神者は、呆れた様子で、脇に置いていたあんみつを再び食べはじめるのだった。
「何いってんの、あほ杵」
「あほってなんだよ、あほって!」
「俺が日本号を入手したいって思っているのは、お前のお陰だよ。お前がずっばずっばと敵を屠っていくのを見て、『槍って凄いんだな』って思って蜻蛉切も組み込むようになったし、日本号も是非組み込みたいって思ったんだよ。つまり、お前ありきなの。うちの槍、及び部隊は」
「……そーなのか」
きょとん。目を瞬く。それに肯いた審神者は、寧ろ面倒そうにいう。
「わかったなら戻っていいよ。今日のおやつは見ての通りあんみつだよ。厨で燭台切と長谷部が配ってるから。蜻蛉切もね」
「はっ。それでは御手杵殿、参りましょう」
「おう……」
先に立ち上がった蜻蛉切に促され、御手杵も立ち上がる。縁側にまで出て振り返ると、匙を口にしながら審神者は小さく手を振っていた。それに頭を下げながら、自身は御手杵と共に歩いていく。後ろを窺えば、「そっかー……」と意味の成さない言葉を、御手杵は反芻していた。自身がまず在った。その言葉が中々に実感出来ていないらしい。自身としては当たり前の話だと思う。天下三名槍といえば、自身にとっては御手杵の名が真っ先に上がるのだ。そして日本号と三振りで力を合わせて戦える日が来るのは遠くないと思うと、それはそれで嬉しいのだ。
そして今、御手杵よりも面倒な事になっていると、蜻蛉切はおろか彼以外も思っている事がある。厨を訪ねると、そこに赤い眼鏡の少年と黒い髪を短く刈り込んだ少年が長谷部に絡んでいた。
「長谷部ー長谷部! 俺さもっとあんみつ盛ってこらせい! けちくさか!」
「俺にも!」
「皆に平等にと主は仰せだ! 贔屓出来るか!!」
「博多君、厚君、我が儘いわないの。あ、2人とも。主からのお話終わったのかい」
「あぁ……」
「おーすげぇ作ったな。あんみつ俺にもくれ」
鍋の前で、足にしがみつく子供を長谷部が振り回す。しかし両方の足にしがみついている彼らは容易には振り払えなかった。それを口頭で窘めるだけの燭台切が、笑顔で槍男士の2人を迎える。手際よく鍋からあんみつを盛る燭台切。そんな彼らの横を、気がつけば入って来ていた小夜が、長谷部の方へと歩いてくる。長谷部が見下ろすと、2つの器を掲げた小夜は、囁くような声でいった。
「兄様達の分、お代わり」
「だ、め、だ。お前の兄達がやってこいといったのか!?」
「違う。美味しかったから兄様達にもっと食べて貰いたくて」
「~~~~~~」
「はい、匙は食器棚に入ってるから。味わって食べてね~」
背後のやり取りには一切構わず、燭台切が言い切る。自分達はそれを尻目に、その場の離脱を図った。
あんみつを持って、縁側を歩く。漸く落ち着いたらしい御手杵が、呟いた。とても、気の毒そうな顔で。
「……確か、日本号って黒田家の槍だったよな」
「……長谷部殿の苦労が増えぬといいが」
自分達では止めようもない、黒田組の長谷部への絡みよう。短刀達は見目が子供の為か、精神もやや幼い傾向にあった。彼らと絡む長谷部は微笑ましい、といえなくもなかったが――政府から送られてきたという資料。刀剣男士としての日本号の姿は、自分達よりも年長に見えた。
彼がどのような性格をしているか、想像も出来ない。黒田家に渡った経緯は長谷部に似ているが――
「……俺、日本号と仲良くするようにするよ。長谷部が気の毒だし」
「私もそうしましょう」
真面目な長谷部の気質は既によく了承していた。なので御手杵の言葉に、否やはなかった。ただでさえ振り回されやすい長谷部だ、これで子供だけではなく大人にまで絡まれた日には。まだ見ぬ刀剣男士への友好を、彼らは縁側に腰掛け、あんみつに誓った。
(黒田組長谷部を労る会)
「こんのすけ、この立ち姿の酒瓶? からして嫌な予感しかしないんだけど。俺、アルハラされないよね」
「万事審神者殿次第です」
「マジか」
End.