▼KBC狩りのついでに周回してやっとこさ回想見て 泣いた(プラトーンポーズ) 長谷部まじアガペー……尊い……長谷部の心が綺麗すぎて驚いたよ……カソック姿に偽りなしだよ……全力で頭なでなでしたい……なんかもう息子にしたい そして日本号には全力で感謝したい 誰もが聞けない事でも似たような経緯で黒田家にやって来た貴男なら聞けるものね……!!
お題は「晩霞」(http://www11.plala.or.jp/harutake/banka/banka_top.html)より。
何度も、共に出陣を重ねてのちに引き出した本音。それは大体は自身の見立て通りのもので、正直にいえば嬉しかった。
ただ、この部隊だとどうにも解せない部分もある。
『だが、1番は今の主だ! それだけは覚えておけ!』
あれもまた、間違いなく長谷部の真っ直ぐな言葉なのだろうけれども。畑当番、肩にそれぞれ担いだ腐葉土と石灰の袋。博多と共に通り過ぎた庭。そこで展開されていた光景を眺めていた。
ジャージ姿の長谷部。彼もまた内番中だったのだろう。何があったのやら、庭の池に落ちていた。実のところ「この本丸じゃ元々日常茶飯だったらしいと」と先に来ていた博多から聞いていたが、端正な顔が怒りに歪む様は何度見ても慣れないものだ。池から這いずりだしてきた長谷部は、呪詛の声を上げる。頭にはペンキのような色鮮やかな赤が付着していた。のちに聴けばカラーボールの塗料だといわれた。そこそこ値の張る代物である。
「……あ~~~~る~~~~じ~~~~~~~~」
「ふはははは! 博多が来てからははじめて引っ掛かったな長谷部!」
その声は成人男性かと思われた。しかし単に声変わりの早かった少年の主の声だ。そして聞こえてきた方角は、上。思わず長谷部と共に顔を上げると、丁度その時狩衣の少年が降りてきたところだった――鈎縄で。見上げると鈎はこの城の1番高い階の手すりに引っ掛けられているようだった。病弱という触れ込みでやって来たというこの審神者、それと運動能力は別のものであると日本号は思い知らされた。日焼けしていない顔にそれはいい笑みを見せた審神者は、親指を立てていう。
「地面に埋めて隠した板を踏んだら、ワイヤーで屋根に隠してた竹を組んだ束がお前の体を吹っ飛ばして池に落とすというトラップは見事に発動したみたいだね!」
「……えぇえぇ、更に池の中にまでワイヤートラップを仕掛けているとは思いもしませんでしたよ。まさかあんなに勢いよく水底からカラーボールが飛び出してくるとは。いつ仕掛けたんですがこんなの!」
「竹の束は俺が、池の方は鶴丸が潜ってくれた。そろそろ冷えるから水に潜って俺が風邪をひくといけないだろって」
「その気遣いは同僚にも寄越して欲しいものだ全く!!」
いって、長谷部は勢いよく地面に上がった。その手には既に刀が握られている。日本号と博多には構う様子もなく、刀身が抜かれた。おいおい、と口にしかけたそれを長谷部が遮る。対する審神者は、冒険がはじまる主人公のように眼を輝かせている。長谷部が駆けだした。
「それで主、今度こそ家臣から下克上を受ける主君の気持ちを実体験するつもりになったようですねぇ?!」
「HAHAHAHA、それはご勘弁!!」
いって、審神者は鈎縄の縄を掴む。素早く手繰り寄せて地面を蹴った。屋根の上へと駆け上がる審神者を、「待て貴様ァァァ!!」と長谷部はきちんと靴を脱いで縁側を駆け上がった。どうやら階上に先回りするつもりらしい。長谷部の機動ならば可能だろう、廊下が水浸しになるのは避けられないだろうが――そんな事を考えながら、日本号は隣の博多を見下ろした。
「あれが日常だったのか」
「俺が来てからははじめて見たばい。単独行動しとると引っ掛かるらしいっちゃ」
「成る程」
なれ合いを好まない長谷部らしい。そして博多が来てからは彼が引っ付いて歩いていたからトラップの発動率が下がっていたのだろう。そして再び畑へと足を向けた。怒声と走り回る足音と笑い声。「ちょっと! あとで主が廊下を掃除してよね!」という燭台切らしき声もする。
日本号は思った。こんな主が、本当に今は1番なのかと。
「日本号が来てくれてよかったよ」
それはその日の夕暮れ時だった。今日の畑仕事(新たな苗を鉢植えに植えた。今度はレタスだという)を終え、先に博多を風呂場へやったあと。縁側を掃除する審神者に出会した。声を掛けられた時、去就に迷ったのは、彼がいつもの狩衣ではなくジャージとTシャツ姿だったからだ。スポーツブランドのロゴが入ったそれらを着こなす審神者は、どう見てもそこらの運動部の男子中学生だった。服を汚しながら掃除する少年と審神者の声が脳内で一致した時、「ここはもう綺麗にしたから座って良いよ」と席を促された。見れば、あのあと長谷部が走り回った縁側や廊下は「惨状」のひと言に尽きた。燭台切にいわれた通りに、悪戯を仕掛けた犯人の審神者が掃除していたという。ちなみに半分は鶴丸が掃除していたという――やけに掃除に手慣れているといえば、近くの水場で手を洗ってきた審神者は笑って答えた。
「23世紀にいた時は野球部だったからね。日本の学校は今でも生徒に校舎を掃除をさせるのが習慣だし、合宿所なんかでも雑巾掛けをしてたから」
「ふぅん。……あんまり俺らの『主』らしくはねぇな、しかし」
促されるままに腰掛ける。土にまみれた自身はお世辞にもきれいとはいえなかったが、審神者は気にする様子もない。手放さないでいた酒瓶を手にすると、手酌する自身の横に審神者は座った。掃除は一旦休憩するつもりらしい。
「それはよくいわれるねー。ただでさえ子供っぽい顔だし、実際子供だもん。精いっぱい采配は気を遣ってるけど、威厳を醸し出すなんていうのは端から諦めてるよ」
「そうじゃなくてよ。普通、実質上の家臣の俺らに命じずに自分から掃除なんてしねぇよ。『主』っていうのは」
「正三位を畑や馬の世話をさせてる癖にっていう事かな」
「茶化すなっての」
自身が口癖のようにこぼす台詞を引用されて、日本号は苦笑混じりに否定する。片足を膝に乗せ頬杖を突く。視線は、隣で姿勢良く座る審神者へ。
長谷部が、それでも戦となればきちんと主とあおぐ少年の横顔へ。
溜息を吐く。
「長谷部は、今はあんたが主として1番だといっていた。でも、あいつも趣味が変わったな」
「自分を怒らせてばかりで威厳の欠片もない主を、1番といっちゃうか。長谷部は本当に一途だね。心が綺麗だ」
笑う審神者の横顔は、憎らしい程に爽やかだ。それが、今日のような所業を審神者が態としているのだと、否が応にも思い知らせる。
怒る長谷部は、いつもの辛気くささはどこぞへ吹き飛ぶ。ましてや、文字通り主に刃を向けるなど、今までの彼を思えば天地が引っ繰り返ったような行いだ。
一途で、純粋な長谷部は、常に自身の主を慕う。裏切られたと思えば引き摺るし、優しくされればそれに大きく応える。黒田家への想いが日本号の想定していたよりも深かったのには驚かされた――それが長谷部だ。だから、「主」に手向かう今日のような真似は、恐らく自身が来るまでにここの審神者が長谷部の感情を引っ張り出すように積み重ねてきた結果なのだろう。そして、それをここの主は態と仕向けた――まだ着任して日が浅い。それでも、この年若い主が食えない人間である事は、早々に察していた。
長谷部の純粋さを、心に負った傷を、この主はひだまで読み取っている。そして――
「そういう事をお前にはいってくれたんだな、長谷部は」
笑みを湛えたまま、しかしどこかさみしそうに審神者はいう。
「俺には、長谷部の本当の本音は引き出せなかった。人間で、主だから。日本号が来てくれてよかったよ。同じような経緯で黒田に引き取られたお前なら、長谷部のいいたい事を引っ張り出してくれるんじゃないかなってね」
「あんた、長谷部の感情は充分引き出していると思うがね。あんな長谷部は見た事がないぞ」
「ヒトを怒らせるのは得意なんだ」
人の悪い笑顔で、審神者はいう。
「特に、長谷部みたいな自分を押し殺してしまうタイプをね。逆に、お前とか御手杵とか、飄々としている奴は怒らせにくいな」
「へっ、よくいう。……ま、あんたの思惑通りにはなりたくはないな。長谷部にとっちゃ、あんたぐらい腹の黒い主の方が手応えがあって良いだろうが」
「おや、お前にいわせれば『ただのはなたれ坊主』じゃなかったのかな」
「……あと、長谷部ぐらい根に持つ奴だな」
着任初日に言い放った事をまだ怒っているらしい。日本号は頭を掻く。初対面の印象は、それこそ今のように、ただのそこらにいる少年だった。率直に口に出してしまい、凍り付いた審神者。その隣にいた鶴丸が吹き出し、すぐさま切り出した肘鉄のキレは恐ろしく良かったが。この主を必要以上に怒らせない方がいいな、と密かに決めながら日本号は立ち上がった。そろそろ日が暮れる。夕食もあるのだ。泥を落としてこなければ、長谷部や歌仙らに文句をいわれる。それから、同様に掃除を再開するつもりらしい審神者が雑巾をバケツから取り出したところで、日本号はいった。
「それで、そんな長谷部を休ませる口実に、カラーボールの染料を頭から落とすのに時間と手間がかかるからと馬当番を他の奴に代わらせたあんたはいつ休むんだい」
「長谷部は最近連勤だったからね。ああでもしないと理由をつけて働きたがるから、『お詫び』として休ませないと。今日は生姜風呂だよ、お前もゆっくり浸かっておいで。俺はきちんと休んでるから心配しなさんな」
そういいながら、縁側の柱を拭きはじめる。審神者の顔はどこまでも飄々として真意が読めなかった。だから日本号は酒瓶を片手に肩を竦める。
「あんた、損な質だな」
「そりゃ、随分と前から耳タコだ」
悪役を買って出る性分など損でしかない。しかし、審神者はそれを苦とも思っていないようだった。
(こういうところが、今は1番だと長谷部にいわしめるのかもな)
季節ひとつも審神者の意志ひとつ。そんな本丸でも、そろそろ秋の気配が目立ちはじめていた頃だった。
(いつか必ず訪れる別れを知っているから、忘れる事に苦のない主になろうとするのか)
余談だが、自身が実装される機会になった政府主催の演習。そこで随所に仕掛けられた「竹藪」は元より打刀以下の寸法の刀種のみがすり抜けられるというものだったが、政府には「ここの部隊の長谷部程竹藪を華麗にすり抜けた刀剣男士はいなかった」と1部で評判だったという。
「そりゃ、普段からあれだけ豊富なトラップに晒されていればなぁ」
とは、厚の談だ。そういえば、自身の回収後も演習に赴いていた部隊の中で、1番笹をくっつけていなかったのは長谷部だったな、と箒で笹を掃きながら日本号はしみじみと感慨に耽ったものだった。
End.