▼個人的に、刀剣男士は「武器」ゆえにサディストなんだと思ってます。その性格に差異があるだけで。彼らがどうこうではなく、作られた時点でヒトを攻撃するように方向性が植え付けられている訳ですし。特に防御を知らない槍男士はその極地なんじゃねーかなと んでマゾヒストの欲求に付き合ってくれるからサディストは優しい
今日のおやつは、リンゴのスコーンだ。主の実家から転送されてきたリンゴが原料だ。加州がそれと紅茶の入ったティーポットを持ってやって来ると、審神者は前屈をしていた。
そう、前屈である。正確には、どうやら股関節を柔らかくするストレッチらしい。胡座を掻いたように膝を割り、畳の上に腹から顔を突っ伏している。一瞬、理解が追いつかない。盆を片手に顔を上げる。卓袱台の上にはスリープモードを示すホロのモニターで電子の金魚が泳いでいた。時折水泡を吐く様は、度々池をブービートラップの種にする為にまともな魚を池で飼わない審神者にしては良い趣味だと思う。しかし今の論点はそこではない。なので、加州は盆を置くと、深々と長く息を吐いていた審神者に話しかけた。
「主。新技の開発か何か」
「見ての通りの柔軟体操だよ。体が硬くなってたみたいでさ」
よかった。柔軟体操だった。また長谷部を怒らせる新しい技かと思った。その言葉は胸にしまう。加州はそこそこの付き合いでこの審神者の扱いは心得ていた。体を起こす審神者は、首の骨を鳴らした。
「運動部だから、体が硬いと怪我の元なんだよね。諸説あるけど、少なくとも野球をやってる時にスプリットして捕球する事もあるから体が柔らかくて損はないの。ここに来てどたばたしてたから、すっかり忘れてたよ。吉行に鍛えて貰ってはいるけど、柔軟も定期的にやらないとな」
「それで仕事の休憩がてら、唐突にストレッチって訳。……背中押そうか」
「おねがーい」
おやつの前に軽いストレッチもいいだろう。脚を伸ばした前屈をはじめた彼に、そう思いながら背中に両手を添え、景気よく押した。低音の悲鳴が上がった。
加州清光は審神者の扱いを慣れていた。なので利口にも、なぜこの少年が自身の体の硬さに思い至ったのかを追及しなかったのだ。
苦しい。重い。あと大きい、色んな意味で。ただでさえ時期に合わせて冬の景色にしているこの城は、夜間はよく冷えて気管支に負担を掛ける。そこに更に自身の片脚を担いで挿入に臨んでいる長身の筋肉質の男というトリプルコンボで、はっきりいおう。審神者は死にそうだった。敷布を握っていた片手をふらふらと彷徨わせる。
「御手杵、この体勢、というか体位はやめよう。この体位は何」
「うーん、なんだろうな。なんか名前があった気がするんだけど」
審神者の私室。薄暗がりの中で、正常位……とはやや遠いものの、少なくとも正面から睦み合う青年と少年。字面からすれば耽美だな、などと審神者は遠く思う。実際の関係は本人達の資質によるものが大きいと、Tシャツで顔の汗を拭った御手杵を眺めながら思う。快楽はある。恋愛感情も、不器用でいびつながら、存在する。問題は、2人ともあまり色気はない。いってしまおう。性交渉は2人にとってのコミュニケーションの一環に過ぎなかった。あまりに身体能力の異なる刀剣男士と人間で出来るスポーツとすら考えている節があった。それがどちらにとってそうなのかは敢えて明言しない。
そうでなければ、こんな大きい男の逸物なぞ受け入れられない。既にがたがたになった後腔、開かれた太股。しゃがんだ御手杵は、疾うに乱れた寝間着の上で、少年の中に自身を入れようとした。御手杵はこの行為が嫌いではない。寧ろ受け入れる形に出来ている女よりも、そんなものは存在しない男とする方がひょっとしたら好きなのかも知れない。御手杵は槍である。肉に穴を穿つのがその本性だ。審神者と関係を持つ以前は色街の女を戯れに抱いたが、どうにも戦場程には熱心になれないとやめてしまった。とにもかくにも、本性は無機物だ。それも「刺し殺す」という方向性が与えられた道具だ。今は手にしていない依り代を扱うのと類似した形で人を穿つのは気分は悪くなく、更にいえば「生まれる時代を間違えている」現在の、同性の主を組み敷くのは、最早それだけで本能の部分が満たされてしまうのだ。
躊躇いがちに生まれた「恋愛感情」と呼ばれるらしいそれは、御手杵にとってはいまだ征服欲と所有欲に似ている。洗練した采配を見せる、常に斜に構えたような少年は昔の基準にしたって幼い。不敵に笑い世の中の有象無象を掌で転がしてやろうという生き様の審神者は、立場を取っ払ってしまえばこんなに無力で稚い少年なのだ。敷いた片脚の太股の付け根をなぞると、小さく震えた。それは「心配」や「保護欲」にも繋がる感情だったが、ひとまず御手杵がぐずぐずに煮崩れさせた審神者は、今の彼にとってひたすら情欲をそそる存在だった。更にいえば、この少年、昼間に陸奥守に剣の稽古をつけて貰っている甲斐もあってか、それなりに体力もある。普段は中々時間の取れないふれあいを取り返すべく、御手杵はそれ全てを搾り取ろうとしていた。
「くるしいって、くるしい」
……しかし、いかんせん、この体位はお相手の好みではなかったようだ。荒げられる息。腰ごと片脚を持ち上げて抱き合おうとすれば、近付く程に審神者は押し退けようとする。御手杵は一旦身をぎりぎりまで引きながら問う。何が苦しいというのだろう。息の浅い審神者は「腹に膝が入るんだよ」と訴える。
「お前が体を傾ける度に、脚が腹から入ってくるというか、全体的に圧迫してきて……おまけにお前の体も重いし。うまく息が出来ない」
「俺は気持ちいいけどな」
「この野郎」
冬の空気のごとくからっと笑えば、審神者は血管を浮かせた。一応は幾晩も褥を共にした相手だが、こういった時は色気もない。「このマ●掻き野郎」と1部御手杵にはあまり通じない雑言を吐く。敷布を握る手に力がこもっていた。
「自分が気持ちよければいいのか、何の為の夜だこら」
「あんたと気持ちよくなる為だろ」
「ならせめてこの脚を降ろせって、さっきから足の裏筋が突っ張って痛い」
「主、体堅くないか。でもそれよりも」
腰と片脚を抱え直す。審神者の中に先端だけ入ったままだった自身が、蠢き審神者が悲鳴を上げた。
「あんた、抜けとはいわないな」
「……ここまでヤっといてまた一からなんて冗談じゃな、ちょっと重い重い重い!」
反論は許さない。体を傾いだ。審神者の中に御手杵が入る。既に馴らしてあったとはいえ、怒張していた審神者自身の為に後腔には力が入っていた。そこに重力と御手杵の膂力で彼自身が押し入る。審神者の胸に膝は容赦なく食い込んで彼は一瞬噎せたし、脚は確かに突っ張って悲鳴を上げているようだった。
「あ、脚痛いって、腱が切れる」
「大袈裟だな、これぐらいじゃ切れないって。人体の急所を把握してる刀剣男士の言葉は信じろって」
「急所ぎりぎりプレイはさすがに好みじゃない、だから、やだ、やだ」
「あんた野球部なんだろー、体が堅いのはまずいんじゃないか。これもスポーツっていう話もあるし、ついでに柔軟しとこうぜ」
「今はそれどころじゃない、だから、脚を倒すなって」
既に審神者の言葉はしどろもどろだ。目が胡乱になり、バランスを崩さないようにと必死で縋る敷布の手も限界のようだった。実のところ御手杵は、視界の情報処理で忙しかった。寝間着の乱れた少年の姿や、白い液にまみれ、更に自分自身の体液で腹を汚しそうな程に膨らみきった彼の痴態はひどく愉快だった。
事が終わったらいってやろう。昼間の姿とのあまりの差異を。この幼さで前線に立つという重圧に晒されているこの少年は、ちょっとやそっとの「癒し」じゃ報われない。足場から叩き壊し、ぐちゃぐちゃにしてやらなければ「彼」は一時の解放感も得られないのだ。この幼い主に今必要なのは、他の誰からも与える事を許されない「屈辱」だった。――これぐらいしないと、今の彼には効かないのだ。このところ被虐趣味の気も出はじめている審神者に懸念を覚えつつも、御手杵は慈愛を以て思った。
(いつか、この人を「普通」に抱いてやれればいい)
「やめ、やめてって、そこまで来るとお前の無駄にでかいのが、奥まで」
「奥じゃないと、気持ちよくないんだろ」
事実だ。しかし審神者の双眸に、確かに「屈辱」と、それに伴って悦のようなものが見て取れた。
腰が震える。ほぼ同時に、審神者の腹も白濁で汚れた。
このところ、御手杵は青江とよく話している。
元々「脇差との方が話が合う」と公言している槍男士だ。青江とも仲がよい。そもそも優しい人柄ならぬ槍柄なので、他者とあまり喧嘩する事がない。しかしかといって、青江と特別に親しくしている様子もなかった。これまでは。
数冊の雑誌を手渡され、「じゃあ僕これから内番だから」と去っていく青江を見送る御手杵。早速といわんばかりにその場で雑誌を広げたので、蜻蛉切はひょっこりと後ろから覗き込む。
……数秒前の自分を石突きで殴りたい。
「あれ、あんたもこういうの興味あんのか」
「……御手杵殿。その……それは」
「参考文献。これも主の為だぞ」
蜻蛉切は見る間に髪と同じぐらい赤くなった顔を背ける。
原色けばけばしい雑誌。それらの主張の如く、雑誌の内容は……ひと言でいうと、「夜の生活に刺激を与える」ものだった。しかも大半が男女だが、男性同士の雑誌も見受けられた気がした。「これはあんまり見たくねーなぁ」とぼやく御手杵は、呆ける蜻蛉切の前で嘆息する。以前はしなかった表情だった。
「今は対症療法しかないからなぁ。精々主が飽きないようにしないと」
低音の悲鳴が聞こえる。あれは審神者の声だ。しかしあまり緊張感のある声ではなかったので、蜻蛉切の意識を奪うのには不十分だった。
(事前の「用意」は大事です)
End.