※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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※回想「僧と山伏」・内番特殊台詞ネタ有 完成された人格の付喪神と、大人のような子供の審神者
▼キャンペーン期間中、まんば(当時Lv.97、桜乱舞)でall100を回してたら唐突に10時間1分で来てくれたので拝んでたら、ふと思った事をSSにしました。
▼ここの一兄は前の主の影響を受けすぎた結果、女好きを拗らせています 定期的に女人に接しないと息が出来ない


イデアリスム【数珠丸+男審神者】

 最初は、小狐丸を連れてきた厚を。次に、同じ青江派のにっかりを。同じ天下五剣の三日月……様々な近侍と相談した末、不意に、風の噂を頼りに据えたのは、国広の最高傑作だった。結果として、依頼札は100枚程の消費で打ち止めとなる。

 本尊との交渉の結果。100時間の分霊の解放。各部隊の審神者と近侍が血眼になり求めた、目的の刀剣が現れたからだ。10時間1分。特徴的な鍛刀にかかる時間が、それを示していた。

「おおう。お前、凄いね。まんば」

「まんばと呼ぶなといっただろう……」

 いいながら、山姥切はいわれるがままに手伝い札を放る。すると間もなく、冠する名の通りの数珠を纏った青年が現れた。瞼を伏せた、豊かな髪の、ともすれば三日月にも並ぶ美青年。涼やかな声が奏でられる。

「私は、数珠丸恒次と申します」

「ど、どうも宜しく」

 まだ同田貫が太刀男士だった頃、彼の次に三日月が来た時と同様の戦慄を覚えていた。さすが天下五剣、分霊といえど備える気配が凄まじい。

 けれど続く自己紹介に、内心でつと胸を突くものが出る。

「人の価値観すら幾度と変わりゆく長き時の中、仏道とはなにかを見つめてまいりました」

「……」

「俺は……写しだ……」

「まんば、中てられたのはわかるけど急に拗らせないで」

 淡雪のように溶ける桜が、鍛錬所で舞い散った。数珠丸がこの部隊に着任したのは、この日の事だった。

 

 

「主。元の脇差部屋に戻してくれる気はないのかい」

 にっかりが、珍しく困った顔をしていた。山伏の山籠もりの許可書に花押を彫った判を捺す。それを受け取る山伏と共に、内番着のまま執務室に上がり込んだ青江を見詰め返す。先に口を開いたのは山伏の方だ。

「数珠丸殿と気が合わぬのか。良き御仁ではないか」

「いい人だから困っているんだよ。いや、あれは善人というレベルを超えているね。悟っているよ」

「何だ、自分が汚れてるからいたたまれないのか」

「主、おぶらーとに包むという言葉を知らないのかな?!」

 またも珍しく叫ぶにっかりだが、否定は出ない。それに書類を乾かす為に、卓袱台の日の当たる部分に許可書を置いた山伏が真面目な顔をする。真面目でない彼は見た事がないけれど。

「数珠丸殿も、話せば砕けた事を仰有ろう。いつも通りの青江殿でいいのではないか」

「いつも通りに話したら、『私が禅宗でしたら座禅を組ませて警策で肩を叩くところでした』といわれたよ」

「一体何を話したんだ、お前は」

 呆れながら、今度は別の書類に手を掛ける。今日は忙しい。万屋に納入する収穫した野菜の売買での値付けの提案から、花街への居続けの許可書まである。あとでどちらも人を呼ばねばならない事案だ。伸ばした髪が背中で流れる。1度、裁判所に出た時以来、髪を切っていない。少しでも霊力を貯める為のものは、どうにもこのところ傷まずによく伸びた。それが何を示すか薄々と気付きはじめていた。そして自身よりも纏めにくそうな直毛をきちんと結っているにっかりは、唇を尖らせる。

「とにかく、あの人はなんというか……傍にいると落ち着かないんだよ」

「それは相手が天下五剣だからか。それとも同じ青江派だからかな」

「……意地の悪い事を訊くね」

 卓袱台に突っ伏し、睨め付けてくる。左右で色の異なる目は、そうすると迫力がある。しかし拗ねているだけなのはわかっていた。両方だから、にっかりはいたたまれないのだろう。書類を仕分けていきながら、自身はいった。

「俺にとってはどっちも誇れる奴らだよ。数珠丸は期待の新人だし、お前はウチの主戦力だからね」

「相変わらず転がすのがうまいねぇ。口の事だよ」

「よしよし、その調子。ま、少なくとも、数珠丸がこの部隊に慣れるまでは教育係を任せたよ。長い事、この本丸で単独行動をし続けた結果忠誠が振り切れて俺に抜刀するようになった長谷部の悲劇を繰り返したいか」

「君がお一人様限定発動の罠を仕掛けなければいい話だよ。……天下五剣の親戚を池で溺れさせるのも不本意だしね。何とかするよ」

 青江が膝を突き、立ち上がる。そして廊下へと消えていった彼を見送ると、自身は書類に視線を戻そうとした。しかし、山伏がこちらを見ていたので顔を上げる。

「どうしたの、山伏。許可書はもう乾いたでしょ」

「主殿は、なぜにっかり殿が数珠丸殿を不得手とするか、わかっているのだな」

「まあね。そういうお前は、数珠丸と仲が良いようだね。それならわかっているんじゃないの」

 胡座を掻いたままの山伏に、書類の影で口の端を釣り上げる。

「お前でさえ、悟りを得る為に修行をしているんでしょ。あんな付喪神、ここの連中は特に傍にいればいたたまれない。付喪神というのは、そもそも情念を以て生まれるものなんだから」

 

 

 マフィン、という菓子らしい。リンゴが多分に含まれたそれは、とても甘かった。しかし、今、自分が味わっている感情はひどく苦い。

「三日月殿。私は、にっかりに嫌われているのでしょうか」

「それにしては、初日から随分としっかりと世話を焼かれていたようだがな」

 自身が刀剣男士として派遣された部隊のひとつ。その一室で、この本丸で見えた天下五剣の仲間の三日月は、フィルムを剥きながらマフィンに齧り付いていた。大皿に盛られたそれらは、ここの審神者の実家から転送されてきたリンゴをふんだんに使っているという。「傷みかかっているから早く消費して」とは、ここで厨を主に預かっているという歌仙と燭台切の談だ。飽食の時代も末期を迎えたようだ。そんな事を頭の隅で考えていると、三日月は重ねていう。口元に食べ滓がついていた。

「にっかりは、恐らく本当に嫌うならば敬して遠ざける奴だろう。何だかんだと世話を焼いてくれているのだから、本当には嫌ってはいないだろう」

「……私も悟りが足りませんね。どうにも、にっかりとは話が合わないようで」

「だろうな」

「三日月殿は、にっかりとは付き合いは長い方で」

 この戦がはじまって1年以上。この部隊は更に少しばかり早く前線に立ったという。事情はまだ知らない。しかしここの審神者は、随分と幼い。あれは10代も半ばが精々ではないだろうか。そこそこに高い身長と変声を経た声と容姿の幼さ、そして海千山千の権謀術数――ちぐはぐの主は、それでも自身に握手を求めてきた。自身を呼び出した山姥切を何とか立ち上がらせ、微笑んで。

 あれは、大人の笑顔だった。

 湯飲みを片手にする、三日月はいう。

「俺もにっかりも、顕現は早い方だからな。共に戦線を潜った。特に俺は、同田貫の次に顕現された太刀だったからな。頭数の少ない脇差とは共に戦う事が多かったよ」

「早かったのですね」

「たぬきが打刀に磨り上げされてからは、書類上では俺が最初の太刀男士になってしまった。ここのたぬきは夜戦や遠戦も出来ると喜んでいたが、中々に寂しい事だ。尤も、ここの主に支えるには、戦には前向きな方が良い」

 湯飲みを置く。静かな月が、瞳に浮かんでいた。

「あのような稚い主を、これ以上、迷わせるのは本意ではないからな」

「……若い、方ですよね」

「わっぱだ。最初の頃は、ただのこの部隊の電源役としてしか期待されていなかった。非常の人、思わぬ軍略の才を見せてここまで来たがな。所詮子供だ。俺達『戦の道具』の言葉を真剣に取り合ってしまう」

 言い切る、声は厳しい。春の陽気のような雰囲気に、剣呑さが降りかかる。数珠丸は見た。

 それは、自身はほとんど縁のない、武具としての瞳。

「なまじ、心と指先を切り離せるのが主の不幸だ。だから、ただの子供に過ぎないのに、戦では頼り甲斐のある主ゆえに、相談をされれば真面目に答える。答えなど、俺達付喪神より持たぬ子供だというのに」

「……主ではなく、貴男に相談したのは正解だったようですね」

 それは恐らく、審神者よりもこの美しい太刀の不興を買う。内輪での無用な諍いは避けたかった。新たにマフィンを手にする三日月は、刃を引っ込めて笑んだ。

「今の相談ぐらいならあしらえるだろうがな。……俺達の時代とは違う。主はまだ、庇護されるべき子供だ。主は頼るべき親と引き離されている。せめて、今や主力の身としては、主には家族のようなものになりたいと願っている」

「……家族、ですか」

「主が迷った時に道を示せる立場でありたい。じじいなのだから、それぐらいの貫禄は見せんとな」

(それは、父親というのでは)

 三日月が子供と強調しても、今の数珠丸には、まだあの主は精神が成熟した大人に思える。そう思うと、「爺」と自称する三日月とは、丁度親子のように思えた。

 ――本尊とは、随分と印象が変わったものだ。

「……にっかりも、迷っているように見えるのです。彼も、立派な霊刀だというのに」

「あれの悩みの根も深いようだからな。以前、石切丸に相談した事で多少は晴れたようだが……お前は立派すぎるんだ。それが悪いのではないが」

 答える三日月に、顔を上げる。その顔には、どこか影が差していた。愁いを帯びた声で、彼はいう。

「俺達は、少なからず悲哀を帯びて生まれる。ゆえに、お前が眩しいんだ。少なくとも、にっかりとうち解けるには時間をかけろ。出来るはずだ。お前は『善き者』だからな」

 

 

 

 今度の休日は、花街の3日の居続けが許可された。それに浮き足立っていたのかも知れない。その会話を聞いてしまったのは。

「ひと言でいえば、お前は人格者なんだよ。だから、他の連中はいたたまれないんだ」

 春の夕暮れ。いつまでも桜の舞う、庭の木。審神者が「夏」にしなければ、葉の生えぬ美事な桜は圧倒される程に常に満開だ。手入れの要らぬ不可思議なそれが、自身の足元まで舞ってきた。執務室の前。開かれた障子越しに、彼らの後ろ姿が見えた。

 マフィンの盛られた大皿を間にした、数珠丸と審神者だ。思わず足を止めた言葉。数珠丸が、興味深そうに審神者を見ていた。穢れも知らぬ顔で。正された背筋。後ろ姿でも、主が苦笑しているのはわかった。もう、長い付き合いだ。

「今まで見てきた刀剣男士の中でも、お前の人格は最も完成された一振りだ。でも、皆がお前のようになる訳じゃない」

「私は、そのように見えますか」

「……少なくとも、お前は他者の意見を素直に聞き入れる。自身が与えられた役目に、自分なりに前向きに対処する。これらは、人の身を与えられた者には、少しばかり難しい事なんだ。数珠丸、お前は『正しい』刀だから、それが素直に飲み込めるようだけどな」

 足を止めたまま、息を飲む。思わず、彼らの姿を見詰めた。

 知っているのだろうか、主は。自身が、刀剣男士として戦う事に、少しばかり疑問を抱いている事を。

(知っている上で、私達を使っているのだろう)

 大坂城にいた頃は自身の知己だったという三日月は、あの主を子供だという。庇護すべき童だと。しかし、一期一振には、こういったところが恐ろしいと思ってしまう。どこまで見抜いているのだろう、この人は。冷や汗をかく自身に気付いてかそうでないのか、審神者は数珠丸を見上げていた。

「『正しい考えを示す』刀として、主に示されたんだろう。だから、付喪神のお前もそのようになった。お前達は、とても素直なモノだからね。だから、今も、あっさりと状況を飲み込んでしまった。でも、それが出来ないのが普通なんだ」

「……私の有り様は、間違っていますか」

「正しいよ。だから、それは曲げないでいて欲しい」

 茶を啜る音がする。その間、数珠丸は答えない。縁側に、湯飲みを置く音がする。再び口を開いたのは、審神者の方だった。

「お前のような、完成された人格の刀剣男士は、はじめて見た。他の刀剣男士は結構、人間に近いからね。人間だと到達できない域に達した、人外ならではの姿だ。……奇跡だよ、お前の存在は。だから衆生に接してきた他の刀剣男士にとっては、ちょっとばかり落ち着かないんだ。お前のようには、まだなれないから」

「……私は、仏ではありません。……なれません」

 はじめて、数珠丸の迷うような声を聴いた気がする。着任してまだ日の浅い彼は、しかし誰よりも悟りを開いているように思えた。天下五剣の数珠丸恒次の名にふさわしい刀剣男士だと。

 主の声は、随分とあっさりとしていた。

「ならなくていいよ。飽くまで神様なんだから。お前はお前のままでいい。自分の有り様に迷ったら、原点に立ち返ればいい。お前は、日蓮上人の刀。自分の主を誇りに思っているからこそのその姿だ。俺は、自分の主をそれぞれの形で深く想うお前達の事が好きだよ」

 それはごくいつも通りの主の言葉だった。時折手酷い悪戯をしては長谷部に追いかけ回される。それでも優しい、有能な主君。よく覚えていないけれど、その有り様は、一期一振の前の主に似ている気がした。往時の、慕われる主。

 しかし、刹那に見た数珠丸の表情は、複雑な色を帯びていた。

(まるで哀れなものを見るような)

「……有り難う御座います。主も、出来れば、ありのままの姿でいてください。及ばずながら、私も、貴男の手助けになるよう働きます」

「刀として戦ってくれれば、それで十分だよ」

「…………はい」

 踵を返す。何となく、今の数珠丸と鉢合わせになりたくはなかった。

 なぜか、彼の言葉に、胸にざわめくものがあった。

 

 

 

(理想を抱いて溺死せぬよう、その手を掴んでやらねばならなかった。彼は子供だから)

 

 

 

 

 数珠丸と主は似ていると、山伏は呟いた。どこがと問えば、兄弟は心配そうにいう。

「数珠丸殿は、前の主という理想を美事に体現されている。しかし、主は人の子。我々の主として、自らの思い描く『理想』を演じているのではないか。心配なのだ」

 

 

 

End.

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