※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

38 / 178
※似非土佐弁 未来のある少年の審神者と、見送る事が出来ない陸奥守。
▼いつか主が離れる事を1番厭うのは誰か、と割と真面目に考えた結果。陸奥守の依存の話。明るく見える分、闇が濃厚そうだよなぁと
▼「主が離れる事」に1番拒絶を示しそうなのは誰かな、と考えて浮かんだのが陸奥守だったので。他の刀剣男士は長く存在している奴や観賞物に徹する事に慣れているのなんかは比較的抵抗がなさそう 新撰組は元の主の方に執着していそうだし、長谷部は人がいつかはしぬ事をわかっている じゃあ「優しい」のに「必要なら仕方ない」と此度の戦に出てきた、戦う時機の必要性を知っている陸奥守は?


いつか来る選択【陸奥守+男審神者】

 電子音が鳴り響く。それに目を開いた。見覚えのない景色だ。それでも知識として、それは知っていた。

 駅。プラットフォーム。やけに古めかしかったが、それは確かに、現代のヒトが用いる交通手段、電車。自身が座っていたのは、そこの黄色いベンチだった。堅い座り心地だ。尻から伝わる感触に慣れないものを覚える。膝を開いて肘を突いていた。さて、自分はなぜここにいるのだろう。顔を上げて、辺りを見渡す。

 不意に、その答えが頭に降ってきた。――黄色い線。その前で集る人々。彼らは同じ刀剣男士であり、そして、その中心で笑う人物こそが、自身を凍り付かせた。

(主)

 意識して、あまり「主」と呼ばない。しかし、確かに審神者の彼は、今の自身の主人だった。戦の采配も、文句の吐けようがない。どんなに幼くとも、そこにかわいげというものがない。それがこの部隊の主だ。

 その彼が、髪を切っていた。審神者をはじめてから伸ばしていた髪は、最初に見た時のショートボブ。服装は、狩衣ではなく洋装だ。それも、彼が日頃好むものよりラフな軽装だ。手に持つ箱は、キャリーバッグと呼ばれるものだと、TVを観て知った。

 旅装だった。赤いスニーカーもエナメルのキャリーバッグも、短く切った髪も、本丸にいる時とはまるで違う装い。強いていうなら、1度裁判に召喚されたという時はこれに近い格好をしていた。しかし、あの時は近侍が現代の服装で傍にいた。今は、皆そのままの身形だった。そのままの姿で、ある者は泣き、ある者は苦笑し、ある者は豪快に笑い飛ばして、審神者を囲んでいた。自身はひとり、ベンチに座ったまま。

 旅立ちを見送るようだ。旅立ち? どこにだ。

『3番線に列車が入ります。黄色い線の内側にお入りください』

 機械的なアナウンス。上方から降ってきたそれを、審神者と共に何名かの刀剣男士が見上げる。そして、その黄色い線から更に少し退いた。――やがて、陸奥守にも見えた。

 広がる視界。砂利に敷かれた線路。その向こうから、列車がやって来る。それを、陸奥守も、審神者達も、見ていた。

 不意に気付く。このプラットフォームには、今の自分達以外には誰もいなかった。それと同調するように、入って来た列車。その中にも、窓から見える向こうに乗客の姿はない。たった今、キャリーバッグを持ち上げて列車の中に上がった審神者以外に。

(主を、迎えに来たのか)

 頭を擡げたのは、そんな思考。そこでやっと、腰が上がる。先程から、ずっと立ち上がろう、立ち上がろうとしていた。しかし金縛りのように体が重く、立ち上がった今は、解放されたように反動で前のめりに蹌踉めいた。

 1歩、2歩、3歩。仲間達が数人、振り返る。そこで漸く、審神者が、開いたままの扉。列車の中から、こちらを見た。

 くしゃりと笑う。

「吉行、それじゃあね。今まで有難う」

(欲しかったのは、そんな笑顔じゃ、言葉じゃない!)

 叫びが、頭の中に木霊する。しかし声には出なかった。掠れた声が、声帯を僅かに震わせただけだった。

「あるじ、」

 その続きは、列車の扉が閉じて遮られる。他の刀剣男士達が、手を振って見送る。それを、自身はただ、突っ立ったまま見詰め続けた。

 口を開いたまま。

 振り返った長曽祢が、顔を顰める。

「陸奥守。起きろ」

 

 最悪な寝覚めだ。思い切り眉間を顰めてやれば、彼も不本意だったらしい。内番着のまま、こちらを見下ろしてくる。

「俺だって、お前など起こしたくなかった。主が寝坊しているお前を起こしておけといっていたからだ」

「……昨夜は酒盛りしとったんじゃ。今日は出陣する予定もなかったき、寝坊ぐらい堪忍しとおせ」

「それは俺じゃなくて主にいえ。それじゃ、俺は畑があるからな」

 半身を起こして頭を掻く。頭の芯を刺すような痛みが沁みていた。これが二日酔いと呼ばれるものだと、この身を得てから知った。自身の持ち主達が感じていた痛みはこういうものだったのかと、実感を伴って会得するのは嬉しい。しかし、今ばかりは不快を助長するばかりだった。自室の布団。出て行く長曽祢が、障子に手を掛けながらいう。

「それと、主に会うならせめてその顔は洗ってからにしろ。……鏡を見てこい」

 言い捨て、障子を後ろ手に閉める。成る程、自身は相当ひどい顔をしているらしい。見ていた夢を思い返しながら、巻き髪と寝癖の混じった頭を掻く。

 何よりほっとしていた。それに二日酔いのせいだけではない吐き気がした。「主」は、まだこの本丸にいるのだ。長曽祢の言葉を通じて、それを実感した時、何よりも安堵した。

 

 あれは自身の不安だ。そして来るべき、来なければならない、遠くない将来の象徴だ。

 幼い主は去る。この本丸を去らなければならないのだ。1度政府に、戦に関わった以上、完全に関係を絶つ事はないだろう。しかし、日常で会う事はなくなる日が来るのだ。

 

「吉行、起きられたんだ」

 寝坊の言い訳を考えながら、身支度を調えた自身を厨で出迎えたのは審神者だった。思わず身動ぐ自身に、彼は気付く様子もなく手元の鍋をかき回す。濃厚な味噌と僅かな潮の匂いが、陸奥守を出迎える。

 今1番会いたくなかった人物に、2番目に会ってしまった。咄嗟に顔を背けて「長曽祢に起こさせたのはおんしじゃろ」と早口にまくし立てる。厨の様子を改めれば、おにぎりとおかずらしいものが散見された。そして火元では、審神者が着流しに襷を掛けた姿で味噌汁を作っている。

「そうなんだけどね、他の連中はまだ寝ててさ。昨日酒盛りをしていたのは、大阪城を攻略してた面子でしょ。せめて労いに、シジミの味噌汁でも作ろうと思って」

「……二日酔いに良いんじゃったか」

「二日酔いはした事ないからわかんないけど、よくウチの父さんが仕事の付き合いで飲まされては飲んでたからさ」

 いいながら、味噌汁の椀を棚から取るよう要求される。促されるままにそれを手に取り渡せば、審神者は味噌汁を掬った。その仕種を眺めて、言葉を思い出して、考える。

 家族がいるのだ。23世紀では、10代前半といえばまだまだ成人できない年だという。だから、本来なら戦線に立たせてはならない年頃だ。背丈は自身と変わらぬ、しかし横顔は確かに幼い彼が、ここに立っているのは不自然なのだ。握り飯を取るふりをして、盆に味噌汁の椀を乗せる審神者から顔を背ける。この1年で、自身が鍛えてやったのもあり、体つきも大きくなった。

 けれど、決して、ここで育てる訳にはいかないのだ。この少年は、23世紀で生きている。過去の遺物の自分達と異なり、彼はこれからを作る人間だ。それは間違いなく、嘗ての自分の主も望んだ事だ。

「おにぎりの具は梅干しだって。燭台切と歌仙がいっていたよ」

「……ほうか」

「……大丈夫か。そんなにひどいならそこの卓袱台まで朝食を俺が持っていくけど」

「すまんが、そうしてくれると助かる」

「そんなになるぐらい、飲み過ぎないでよね」

 いいながら、選んだ握り飯とおかずを盆に乗せる。それを持ち上げて、土間の向こうの部屋に――嘗てはここが審神者の執務室兼私室だった――立ち入る、少年の後ろ姿を見詰める。頭が痛いふりをして。

 しかし、ついていき、その卓袱台の脇に置かれていた書物――それを見て、陸奥守は今度こそ硬直した。審神者は盆を置きながら、「散らかってて御免ね」とこちらを見上げる。

 それらは、教科書だった。参考書も入っていた。恐らく、彼が23世紀の現世で通っている学校のものだろう。それを手早く片付ける審神者は、照れたように笑う。

「最近、大阪城攻略で忙しかったからね。朝勉しとかないと、頭から抜け落ちちゃう」

「……邪魔したの」

「いいよ、俺がしたくてしたんだから。ほら、朝ご飯食べちゃって。もうすぐ燭台切と歌仙が昼食を作りに来るから」

 ――ならば、そのぎりぎりまで朝食をとり続ければ、この少年は勉強する時間をなくすだろうか。

 そうすれば、少しでも長く、そして、出来る事なら23世紀についていけずに、この本丸に残ってくれるだろうか。

(鬼畜の考え、じゃな)

 それは自身を構成する「先を見据える」刀剣としての自己の否定につながる。だから、陸奥守は、返事をせずに握り飯にかぶりついた。一気に半分程食べたので、梅干しの酸味が口に広がり目が覚めた。

 

 いつか見送るという事を選ばなければならない。だからこの少年を主とは認めたくなかった。

 自分がまた主を失うという選択をしなければならないから。

 

 

(過去を修正するのではなく未来を作るいつか。それでも、自身は「主」を見送る事しか許されていないのだ)

 

 

 

 夢を見る。ここに来て、色んな夢を見るけれど、昨夜の夢は随分と印象的だった。彼に悟られていなければいい。

 駅で、帰りの電車を待つ自身。そんな自分に、幼い陸奥守が、泣きついてくるのだ。

『置いていかないで』

 自身は、それに謝る事しか出来なかった。自分は、「帰る」事を決めていたから。

 恩を返せない事。それだけがつらかった。陸奥守は、あれ程に「主」を渇望して、それを覆い隠して明るく接してくれたというのに。

 屹度本当に見送る時は、笑顔で手を振ってくれるだろう彼に、自分は今のうちに何をしてやれるだろう。このところ、そんな事ばかりを考えるのだ。

 

 

 

End.

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。