▼お久しぶりです。続きがでけました。「What are ■■ ■■■■■■ made of?」(https://novel.syosetu.org/85876/21.html)の続きです。前までを読まないと内容はよくわからんところがあると思います。これで話としては一区切りかなと
本当に久し振りに手をつけたからいろいろ思い出すのに苦労しましたがひとまず審神者と御手杵の関係に決着はついたかな……長かった……本当に……
各本丸は、「刀剣」男士という性質上、銃刀法に抵触しないことが求められる。ゆえにどの本丸の座標も、現代の刑法――特に銃刀法が成立する以前に配置されている。いずれも20世紀から前の時代だ。これは当時、国会に法案を可決させるための苦慮だった。
ゆえに城内での治安は審神者に一任される。文字通りの自治だ。本来の時間から鎖された、大きな密室。それが本丸だ。審神者が狂えば本丸が狂う。そのため監察官としてこんのすけがおり、ひいては政府が警察に代わり取り締まる。政府は単体で武力を持たない。実際に捜査を行うのは政府に命じられた複数の審神者の部隊だった。
ここの審神者は、専ら組織犯罪に駆り出されていた。この日、こんのすけに告げられた任務もそれに絡んだ任務だった。
審神者は呆れた顔をした。
「長谷部、お前は今日明日休みね」
「なっ……なぜですkげほっ」
「燭台切、この風邪ッぴきを部屋までしょっぴいて」
「はい長谷部くん。大人しく寝ようね」
指示を下すと、真っ赤な顔の長谷部は燭台切に羽交い締めにされてそのまま引き摺られていった。執務室でのことだ。卓袱台に頬杖を突くと、入れ替わりにやってきたこんのすけが溜息を吐く。
「とうとう出ましたね。刀剣男士に罹患するインフルエンザ」
「刀剣男士のようにエーテル体で編まれた体でしか発症しないんだってね。歴史修正主義者もよくやるなあ」
「ひとまず審神者様にうつらない性質だと調査報告が上がっているので安心ですね。あとで政府からワクチンが届きますから」
「長谷部の件はそれで解決だね。流行らなきゃいいけど。それでこんのすけ、別件で用事があったんじゃないの――いつもの摘発任務かな」
こんのすけが肯いたので審神者は嘆息した。いつもこの「汚れ仕事」には長谷部が近侍として付き添う。場慣れしてくれている近侍はこちらとしても助かった。今日無理に長谷部が執務室に顔を出したのも、こんのすけに話があるといわれていたからだ。加州にでも付き添ってもらおうか。しかし加州は看護慣れしているゆえに長谷部に付き添って欲しかった。こんのすけに任務について話される前から悩んでいると、障子に影が差す。
「なぁ」
背筋が伸びる。無意識の反応だった。こんのすけは振り返って彼の名を呼ぶ。
「御手杵殿。どうなさいました」
「それが、燭台切と清光の奴に執務室に行けっていわれて。今日の近侍は人手がないから、部隊長の俺が主に付き添えって」
「……無難な判断だね。どうぞ座って。――今日はちょっと特殊な任務に就くよ」
頭から抜け落ちていた――御手杵は槍の中では1番目に来た刀剣男士だ。そうでなくとも戦狂いの気がある彼は、ひとたび実力がつきはじめると次々と相手の大将首を取るようになった。誉を取り続け、気が付けば練度は充分――ゆえに初期刀の加州でなければ、第1部隊の隊長は御手杵に任せるのが自然の流れになっていた。
それも少し前なら構わなかったのだ。「御手杵のことは好きだが苦手」という本音を本刃に話すまでは。それも本刃が悪くないゆえに直しようがないことだ。しかしこんのすけにそんな話はできず御手杵を迎える。
そういえば長谷部以外の少数を編成してこの任務に就くときも、御手杵を連れ出したことはなかった。ただ短刀や脇差などの夜戦向きの身軽な刀剣男士を求めた結果だったが、無意識も働いていたかも知れない。そう考えながら審神者はこんのすけに問うた。
「それで、今回の任務はなに。いつもと同じ組織犯罪系の任務なんでしょ」
「……実のところ、ここの審神者様にこの任務に就かせるのは、個人的には反対です。なのでお嫌でしたら率直にお答えください」
そう前置きして、審神者と御手杵が眉を顰めながらも促してからこんのすけはいった。
「スナッフフィルム。……その撮影がとある本丸で行われています」
「――その売買にマフィアが絡んでるんだね」
「お話しが早くて助かります」
こんのすけが頭を下げる。しかし嬉しくなかった。隣で御手杵が首を傾げている。
「すな……スナック菓子?」
「まあ知らないだろうね」
審神者はいった。
「殺人ビデオ、といえばわかるかな」
「……ビデオが人を殺すんじゃないよな」
「昔のホラー映画であったなあ、あれは呪いのビデオだけど。ある意味近いけど違うよ。人を殺す様を撮影した動画のこと。そういう趣味の人間に売るためのものだね」
御手杵が顔を顰めた。審神者とて、好きで話している訳ではない。スナッフフィルムのひと言で、自分が嘗て受けた仕打ちを思い出したからだ。足を切られたときの記憶がぶり返す。恐らくこんのすけは年若いことと、審神者が受けた事件のこと双方を慮っているのだろう。しかし審神者は話を促した。御手杵も首を傾げながらも、話の流れで不穏さはわかったようだった。
「それで、被害者は刀剣男士? それとも密入国者やホームレスの人かな」
「後者です」
いってからこんのすけは声を潜めた。
「前者の動画は流出していないだけの可能性もあります」
「――動画が流出したの」
審神者の顔色が変わる。御手杵は殺人ビデオの被害者が刀剣男士かも知れないと聞いて動揺した。
「嘘だろ、俺らはそう簡単に死なないしやられないぞ」
「……そうだね。でもたとえば粟田口なら、他の兄弟を人質に取られて足を切られるぐらいはするかも知れない。――お前らは手入れで治ってしまうでしょう。死なないのが徒になる。こういうのはね、被写体を少しでも長く痛めつけるために態と助命するものだから」
「――」
「もっとも、このやり方だと戦績に響いて政府に不信を抱かれるのが早い。それぐらいなら……俺なら『被写体』を連れてきて、その人たちが逃げないように監視をする役に刀剣男士を割り当てる。それなら出陣してても大した影響は出ない。牢屋に閉じこめてそれを見張っていればいいんだから。実際そういうやり方はたくさん見てきた」
「恐らく、渦中の本丸は審神者様のいう通りだと判断されています」
こんのすけが話を纏める。2人の視線を受けて彼は重々しくいった。
「流出した動画は既に削除されています。これは本丸と思しき背景の中で、子どもが嬲り殺された動画でした。恐らくストリートチルドレンでしょう。実のところ、その動画サイトはスナッフフィルムと称した偽物の動画ばかりだったそうで――管理者が唯一『本物』と判断して通報したそうです」
「流出させたのはスナッフフィルムの購入者か……」
「それについてはさておき。政府の鑑定の結果、背景のある本丸が特定されました。審神者●●●●●●号。30代男性。出身は第2新東京市」
「……ってどこだ」
「昔の長野県松本市。――審神者に特殊な能力は」
「ありませんね。前身は警察官だったそうですが、ある理由で左遷されそのまま審神者に転身したようです」
「ある理由って」
ホログラムのモニターが展開される。それらを眺めながらふと聞き咎めると、こんのすけは口籠もってからいった。
「……キッズポルノを所持していたことが発覚したから、だそうです」
「それはただのキッズポルノかな」
「お察しの通り――スナッフフィルム。それも警察が押収したものを勝手にコレクションしていたそうです」
「それを審神者にしたのか」
御手杵が顔を渋くさせる。審神者も同意見だったが、理由はわかった。人手不足だ。それもひとりの審神者が続投し続けられるとは限らない――殺されることだってあるのだ。そんな前身の者はひょっとしたら政府側も使い捨てのつもりだったかも知れない――そして今日に至る。こんのすけは御手杵の言葉に恐縮しながらも、続けた。
「そういう前身で、マフィアとの繋がりは警察現役時代からあったと思われます。現在はマフィアの伝手で撮影班と被写体を連れ込み、本丸で撮影を敢行。その動画を売りさばき不法に収入を得ているものと」
「じゃあ今すぐにでも乗り込まないと、被害者は増えるばかりだな。俺の部隊も他に何人か連れて行った方がいいね」
「おい主、本当にこの任務を受けるのか」
立ち上がる審神者を御手杵が引き留める。こんのすけの前で、膝を立てた御手杵が立ち上がりかけた。こんのすけも真っ直ぐに見上げてくる。その様を、見下ろした審神者は笑んだ。その笑みには苦みがこめられていた。
「大丈夫だよ。俺の事件と今回の事件は関係がない。そうでしょう、こんのすけ」
「……あなたがそういうのなら。しかしやはり、部隊長の御手杵殿に聞いてもらいましたが、ここはいつも通り短刀や脇差の皆様を」
「俺も行く」
御手杵がいった。彼は立ち上がり審神者を見下ろした。目を瞬く彼に御手杵はいう。
「俺が長谷部や清光に変わって聞いたんだ。俺があんたについていく。あんたを体を張って守るぐらいはできるからな」
「……それなら、お願いね」
双眸にどこか遠慮するような色が見えた。御手杵は見なかったことにした。
審神者の過去を聞いた以上、こんな事件のために長谷部も加州もいない今、彼をひとりにはできない――審神者から過去を打ち明けられた彼は、少なくともそう思ったのだ。
こんのすけは溜息を吐いた――本当に審神者を止めたらしい。しかし彼は意を決していった。
「改めて任務です。スナッフフィルムを撮影している本丸の摘発です。他部隊と連携して現場の差押え。及び被害者の救出に当たってください」
「了解しました」
政府の会議場で渡された腕章を触る。袖を通した途端に、服に染み付いたそれは政府でないと剥がせないという。これが味方の印だった。
そして改めて、御手杵は自分たちの本丸の短刀や脇差の強さを目の当たりにしていた。
「裏口は制圧完了。大将、行って良いぜ」
「ここは僕たちに任せてください」
そういう彼らの前では、マフィアと思しき男たちが転がって縄で縛られている。博多が雁字搦めになった男たちを裏庭へ引きずり出すのを御手杵は得物を片手に呆れた心地で見遣る。審神者は今は面布をしている。その下からいった。
「こんのすけもいってたでしょ。『いつも通り』短刀や脇差でって」
「場慣れしてんなぁ」
遠くから剣戟の音がする――想定された事態だ。ここの刀剣男士が飽くまでも忠誠を誓い、あるいは脅迫されて審神者に仕えていることは状況では十分に考えられている。前者ならばこちらも戦うしか術がないが後者ならばその脅迫の種をどうにかしないといけない――考えられる事態は、見目の幼い刀剣男士が捕らえられていること。
この審神者の部隊に与えられた任務は、絵図面で想定されている牢屋のあると思しき場所に潜入。被害者を救出すること――裏口は薬研と博多が見張りに残り、審神者と御手杵、それに物吉と堀川、乱が城内に潜入した。剣戟の音は遠いが早く行動するに越したことはない。この中では最も遅い審神者が絵図面を広げる。
「このまま真っ直ぐ、階段があるからそこを降りれば地下牢のはずだ」
「扉があるようですが」
「御手杵。突き壊せ」
「了解!」
出番のなかった本体を喚ぶ。4人を避け、階段を下った先。御手杵の突撃で錠前が脆く砕ける。御手杵の槍を避けると、堀川が蹴破った。
――刹那、白い塊が飛びかかった。
「堀川!」
「くっ……ご、五虎退さん!?」
「こ、来ないでください!」
そこにいたのは――白い少年。傍に子虎を5匹従えたこの城の五虎退だった。手には彼自身の短刀。彼の足元には虎たちがおり、主人同様痩せている。なにより目を引くのは、五虎退の足首に繋がれた長い鎖だろう。堀川が刀を構える前で、彼はその牢の前で刀を握っていた。
審神者が窺うと、牢は4つ。中の様子はそこからでは見えなかったが、五虎退の鎖の長さは丁度牢の前は通れるが扉には届かないものだった。審神者は御手杵に庇われながら呟く。
「成る程。見張り兼人質か。無駄のないことをする」
「落ち着いてください五虎退さん。僕たちはあなた方の救出に来ました」
「きゅ、救出……!? あなたたちは……僕たちの堀川さんたちじゃないんですか……?」
「た、助けてくれ!」
にわかに牢が奥から活気づく。同時に鎖の音がいくつも響いた。牢の中でも拘束されているようだ。牢の柱にしがみつく人々の姿が見える。その前で五虎退は進退窮まった様子で、それでも短刀を下ろさない。怯えきった様子でいう。
「ほ、本当に……一兄や皆を助けてくれるんですか……?」
「今、他の部隊の人たちがその救出に当たってる。僕たちは君たちを助けに来た。もう出られるんだ! だからその刀を下ろして」
「五虎退。下ろすな」
銃声。
堀川が足を押さえて倒れた。五虎退が目を瞠って――その目が絶望した。
「堀川! ――ぐうっ」
「主!」
「お前ら動くな。お前らの主の頭を吹き飛ばしたいか」
首にきつく腕を回される。階段の途中。1番後ろにいたのが徒になった――審神者と同じ狩衣の男が、彼の米神に銃を突きつけていた。隆々とし、御手杵ほども大柄な男だ。
元警察官という履歴は伊達ではないようだった。まだ十分に隆々とした腕が、背ばかり伸びてまだ幼い少年の頸動脈を締め上げる。ぎりぎりで意識が落ちず、ただ苦しいのが続く。そういえばこの男自身がスナッフフィルムを好んでいるのだ。死なない程度に痛めつける技術を身につけていてもおかしくはない――それを体感していやになる。物吉が階段を落ちそうになりながら叫んだ。
「主様!」
「物吉がいる部隊の審神者か。羨ましいな、ええ? 痛めつけ甲斐がありそうな面をしてるじゃないか」
「おい、お前は何が望みだ」
物吉が胸が悪くなった様子で顔を顰める。しかし刀は引っ込めない。奥から御手杵が堀川を支えながら唸る。背後では五虎退が涙ながらに狼狽えていた。最早戦意を喪失している。しかし問題は拳銃を持つあの男――この本丸の審神者にあった。
刀剣男士には当たっても治せる。しかし審神者に当たったら、打ち所が悪ければ死ぬ。ましてや今は頭という即死に至る部位に拳銃が突きつけられていた。動くに動けない面子の前で男はいう。
「俺はもう終わりだ。だが逃げないという選択肢はない。この中じゃ理想的な人質だ。ガキで審神者で人間で。刀剣男士に比べれば簡単に死ぬ――お前ら、主を助けたいよな。なら今から俺の逃亡経路を確保しろ」
「主さんっ……」
乱が唸る。青い目が爛々と光り、常の様子は鳴りを潜めていた。許せば今にも飛びかかりそうだ――しかし、先程堀川の足に正確に弾を当てた技量を思うと、審神者は身動ぎして頭を振った。
「……お前らだって打ち所が悪ければ破壊される。言うことを聞いてくれ」
「話がわかる人質だ。そういう訳で、そうだな、そっちの乱。護衛についてもらおうか。御手杵は室内戦に向いていないし、こっちの五虎退は痩せて使い物にならないからな」
「――ろくに飯を与えなかったのはお前だろう」
「おっと人質。顔が見えないとろくなことをいわんな」
そういって面布を引き剥がす。剥がした布が階段を落ちていった。晒されてなお睨み上げてくる顔を、ふと――男はしげしげと見た。
そしていった。
「――お前、スナッフフィルムに出てなかったか。子どもが病院で足を切られる動画を警察で押収した、たしかあの青髭事件」
「――」
審神者の目が驚愕に歪んだ。
それは男の真後ろ。薬研が飛びかかっていたからだ。
「でえりゃっ!」
「うわっ」
なにせ狭い階段の前だ。恐らく銃声を聞きつけたのだろう、裏口にいたはずの薬研が男の首筋に組み付いた。その拍子に男の腕が緩んで解放されたものの――目の前は階段だ。咄嗟に落ちてきた審神者の体を物吉と乱が支える。
銃声。審神者が辛うじて振り返ると、薬研が組み付いた男は拳銃を放していない。しかし足で組み付いて首を絞め落とそうとする薬研の足を外すこともできずもがいていた。それを見て薬研が殺すこと――得物を使うことを躊躇っていることに気付いた。頸動脈を切れば事は済んだ。
「薬研、――」
殺すな、とは会議でいわれなかった。しかし殺せばこの事件で責任を問われるべき者がいなくなる――その躊躇いが「それ」を起こした。
男の脇腹を、槍が突いた。
物吉と乱に引き寄せられた。その横を、それが駆けた。御手杵の槍だ。
「――」
「ぐうっ、――」
銃を取り落とし、脇腹を押さえる。その刹那、薬研が絞め落とした。
男が倒れた。階下から五虎退の悲鳴とも歓声ともつかぬ声がした。
「無事だったと!? 銃声がしたから薬研兄が走っていって心配したばい!」
「堀川が負傷した。ここの手入れ部屋を借りる。博多も御苦労様」
銃声を聞いたものの、他の刀剣男士やマフィアとの応戦に足止めされ他の面子は中々駆けつけることができなかった――彼らが事態を収束した頃には、被害者たちの安全確保を担当していた部隊が首謀者の審神者も捕縛していた。交戦して首謀者の審神者は左の脇腹を負傷。命の別状はないので簡単な応急手当で拘束されたまま護送されることになった。この本丸の五虎退は御手杵の石突きに鎖を砕かれ解放。今はこの本丸の粟田口兄弟に囲まれている。また被害者たちは他の部隊が保護し真っ先に政府に連れて行かれた。密入国者やホームレスなどばかりだったから政府がどういった処分を下すかは、審神者の想像には容易いようで難しかった。
今の彼はそれでなくとも頭がいっぱいだった。心配してくれていた博多を労い、負傷した堀川を手入れ部屋に入れてもらい、それを部屋の外で見守っていた。手入れ部屋から離れなかったのは堀川が心配だったのもある。それ以上に、先程見た光景が頭から離れなかった。
「主」
「……御手杵」
手入れ部屋の前。同じ腕章をつけた他の本丸の刀剣男士や職員が彷徨いている中、そこに御手杵はやって来た。正座をしている審神者の背後につくと、立ったまま彼にいう。
「さっき拘束されたとき、どこか痛めたりしなかったか」
「それは大丈夫。締め上げられて苦しかったけど、それだけ」
「じゃあ精神の方はどうだ」
言葉が詰まる。言われた内容に驚いたのもあったし――御手杵が「心」について触れるなど、思ってもみなかった。足音がする。話し声がする。安堵に満ちた空気だ。その中で審神者は振り返らない。
「あんたが関わった事件の動画とやらがあったってあの男は言っていただろ。あの男が観た動画なら、十中八九スナッフフィルムの類だ。――あんたは足を切られた、とかいってたな。俺が調べた限りじゃ、青髭事件とやらは酸鼻の極みだった。あんたが痛めつけられた様子を映した動画が、あの男に観られていたと知って、そんなに憔悴してるのか」
「正直、あのときの様子を映した動画が流出するのは想定の範囲内だったよ。そもそも撮影した連中もいかれてたんだから、それに共鳴する奴が出ても可笑しくない。……俺はともかく、他の子どもが映っている動画が流出するのは許せないけど。所詮人の鎖は脆い」
「じゃあなんで」
審神者が膝の上で拳を握った。
「お前がヒトに武器を向けたからだよ」
御手杵が怪訝に眉を顰めた。
「こういう任務をしている以上、どうしても男士たちにヒトを傷付けさせることはある。実際、長谷部もそれに躊躇いがない口だ。殺させこそしなかったけど、足の腱を切るぐらいまではセーフだと思ってる。そのぐらいなら今はすぐに治せるし」
「なら」
「御免ね、御手杵。口に出すべきじゃなかったね」
何をだ。御手杵が訝しむと、彼はいった。
「言ったでしょう。俺はお前が誰よりも武器らしいことを知っていた上で、お前が武器を振るうことを厭っていたんだ。お前の為人が優しいから、お前が人であって欲しいと願ってたんだ。だからお前が俺のせいで人を刺したことに驚いているんだ――今、俺が悄気てるのは俺の勝手な気持ちだ。だから、ほっといてくれて大丈夫」
項垂れる様は到底言葉を裏切っていた。
「ごめんね。こんな思いをさせるぐらいだったら、お前は槍のままでいさせた方がよかったんだ。お前は、武器だから」
「謝るな、主」
衣擦れ。しゃがみ込む。御手杵は背後から審神者の頭を掴んだ。その手は槍を振るうに相応しく、大きい。
「何はどうあれ、俺はあんたの気持ちが知れて嬉しい」
優しい声だ。しかし厳然とした響きがあった。
「けどな、主。あんたと俺は違う人間だ。……俺が人間っていうのはおかしいが、とにかく違う。あんたの感傷と俺がヒトの身を得たことは関係がない。親が子の未来を憂えて子殺しをすることと同義をいっているんだ、あんたは」
「……手厳しいね」
「あんたも散々いってくれたからな。お返しだ」
笑って乱暴に頭をかき回す。御手杵はいった。
「俺があのとき、あの男の脇腹を突いたのは俺が主のあんたを助けたいと思ったからだ。俺自身が考えての行動だった――穂先を向けたのはあんたが理由だったが、俺は少なくとも誰かを傷付けたいときに『あんたのため』だなんていわない。俺がそうしたかっただけだ」
目頭が熱くなる。
「だから、あんたが気に病む必要はないんだよ」
拳に、水滴が落ちた。
手入れを終えて出てきた堀川に「僕は生きてますよ!?」と慌てられたのはこの数分後だ。
「最近、あんたと御手杵はよく一緒にいるな」
畑仕事の休憩中だったらしい。冷たい茶を飲む同田貫が、縁側で茶菓子を食べていた審神者にいった。目を瞬く彼に、同田貫は肩を竦める。
「あんたは御手杵の奴を避けてただろ」
「あーうん。その辺の行き違いはちょっとは解消されたから。迷惑を掛けたね」
「俺ぁ戦に支障がなければそれでいいんだよ」
「……同田貫も、自分のために動いてるんだね」
「あぁ?」
審神者の言葉に怪訝そうに眉を跳ねた。同田貫は言う。
「そんなのは、付喪神も人間も変わんねぇだろ。みんなそうだろ。お為ごかししようが根っこは自分のためだ」
「……たぬきはシンプルでいいね」
あだ名で呼ぶ彼は、湯飲みを持ちながら嘆息した。
「結局、口ではどういっても、誰も彼もがそうやって行動したんだ。勝手に俺が傷付いてただけの話だったんだよ」
同田貫は審神者の言葉が理解できなかった。割といつものことだ。
心ある刃物
End.
→Next......
「こんのすけ。はいかいいえで答えろ」
地を這う低音。御手杵の槍は突き立ったまま。彼の一声があれば、こんのすけの身を突き立てるだろう。そうなればアバターといえど中の人間も無事では済まない。審神者は、笑いもせずに尋ねた。尋問という言葉がぴったりだった。
「お前は、俺の弟が利用されていたことを知っていたか」