報告書を持ってきた宗三と長谷部。偶々顔を揃えた彼らを見て、自身はふと思い出したことを口にした。
「この間、会議で余所んちの長谷部を見たんだけどさ。うちの長谷部って、宗三に似てるね性格が」
「そうですかね」
首を傾げる宗三。対する長谷部は書類をぴしゃりと卓袱台に置いた。
「何を寝ぼけたことをほざいてるんです。顔を洗って出直してください」
「違った。もっと辛辣だった」
そんな会話をしたのが懐かしく感じられる――本丸の玄関先。そわそわと歩き回る自身を見咎め、通りかかった宗三が呆れた声を出す。
長谷部が修行に旅立って、こちらの時間で3日目。今日が予定の帰還日である。
「あなた。あんなことをいっておいて心配なんてしているんですね」
「そりゃあね――ああ、帰ってきたみたいだね」
にわかに戸口の外から声がする。大層賑々しい歓迎の声だ。それを聞いて内心で安堵する。手紙を見てどうやら大丈夫らしいとは窺えた。それでもこれまでの修行に旅立った者たちを省みると不安が募った。そんな自身に、宗三は溜息を吐く。
「どうせあなた方の関係は良くも悪くも変わりませんよ。きっとね。ほら」
扉が開く。風が吹き込んだ――淡い桜が舞い散る。
玄関先で立っていた審神者に、ふと長谷部は、胸に手を当て一礼した。
「過去を清算してきたへし切長谷部です。――もはや過去に含むことはありません。この刃は、今代の主のためだけにあります」
「……」
「主、どうなさいましたか。何かご不満でも」
外から他の刀剣男士たちが顔を覗かせている。隣の宗三も怪訝そうだ。しかし自身は、長谷部の穏やかになった物腰より気になることがあった。
「長谷部」
「はい」
「その服、どうやって脱ぐの」
「他にも言うことがあるでしょうがこの唐変木。俺がたった3日間留守のうちに若年性痴呆症にでもかかりましたか」
「ああよかった、お前はうちの長谷部だわ」
胸をなで下ろす自身。斜め後ろで、宗三が嘆息した。
卓袱台の端で報告書を整える。新しい装束に身を包んだ彼は、しかし変わらぬ仕事ぶりで自身を支えてくれる。相変わらず口さがなかったけれども。
「まったく。いの一番にいう台詞があれですか」
「悪かったって。ちゃんとそのあとお帰りなさいっていったでしょ」
ホロのモニターに取りかかる。長谷部のいない間は初期刀の加州や部隊長の御手杵に任せていたものの、主命厨のあだ名を取る長谷部の熱心さには比ぶべくもない。その点では余所の長谷部と遜色がないだろう。気のせいか仕事を進める手も早くなった気がするのは修行のためだろうか。手紙で委細は伝えられていたが――
「……自信をつけてきたみたいだね」
修行について触れろ、と言外にいわれたので触れてみる。長谷部の手元に澱みはない。恐らく真実なのだろう。自身はそんな彼に話を続ける。
「下げ渡されたという事実はそこにあっても、そこに愛があったかどうかが重要だったんだね。長谷部は」
「……ちょっとこそばゆいので、言い方を改めてもらえませんか」
「愛されることは自信に繋がるんだよ。長谷部。人間だって一緒だ」
長谷部の抗議に構わず自身はいう。報告書をスキャンした。内容を吟味して書類に判を捺す。長谷部の手元に突き返しながら自身は笑った。
「愛されるというのは認めてもらうことだからね。たとえどんなひどい人間でも、主人は主人だったんだから。……修行が有意義なものだったことを嬉しく思うよ」
書類を受け取った長谷部は、――さて、どんな顔をしていただろう。モニターに集中していた自身には直ぐには見えなかった。なにせ長谷部は書類を片手にやや俯いていたので。
しかし不意に顔を上げた。それは帰ってきた早々の、晴れやかな――しかし口元には皮肉げな笑みを湛えていた。
「まったく、あなたという人は」
吐息混じりの声だった。
「ヒトのことをなんだと思ってるんですかね。あなたみたいにヒトを無遠慮に暴き立てるような人は、きっと極楽には行けませんよ」
「精々審神者業で稼いで、閻魔様に袖の下を贈ることにするよ」
「それじゃ、俺はそこでお先に待っています」
「――」
長谷部の言葉に顔を上げる。長谷部は、悲愴なほど穏やかな笑みを湛えていた。書類を片手に。
そんな長谷部に、自身がいえることはひとつしかなかった。
「そうか。地獄に堕ちるときは一緒だな」
「道案内をして差し上げますから」
「それなら、寂しくないな」
そして自身も笑った。
きみと
了