※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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A.エラーで目が見えなくなった御手杵 B.目を負傷した審神者 の2本立てでお送りします
pixivからの転載


【おてさに♂】目隠し鬼

A.

 

 様子がおかしいことには、すぐに気付いた。

「御手杵。ぶつかって歩いてるみたいだけど、どうしたの」

 書類を片目にだったが、彼だとはすぐにわかった。緑色の長身といえば、この本丸で一振りしかいない。その彼が物音を鳴らしながら歩いてくるから尋常ではなかった。彼は大柄な体と得物に見合わず、さして隠蔽値が低い方ではない。ここまで物音を立てて歩いてくるのは珍しかった。

 陰が差す。ぬっと出入り口から差し掛かる影――此度の戦の部隊長だった御手杵が報告に上がるとは聞いていた。先に手入れを受ける必要があったので今まで待っていたのである。そう、手入れは終わったはずだ。ひどい怪我ではなかった。急ぐ報告でもなかったから後回しにしていただけだ。その彼が――出入り口で立ったまま、動こうとしない。さすがに訝しく思い顔を上げる――異変に気付いたのは、その目を見たときだ。

 焦点が合っていない。

 書類を置く。卓袱台を回り込み、御手杵の前に立つ。彼はその審神者の動作に気付いた様子はない。それが問題だった。

 御手杵の頬に手を触れた。顔色は普通だ。ただ、問題はただひとつ。これだけ間近に迫っても、御手杵は自身と目が合わなかった。

「御手杵。いつから目が見えてない」

「手入れ部屋を出たときからだなぁ」

「目は怪我をしてなかったよな」

「右腕と左足大腿の刺し傷ぐらいだぜ」

「よし。御手杵はここ(執務室)ここから動くな。これ以上ぶつかって歩いて怪我を増やされちゃ敵わん。こんのすけ!」

 

 結論からいうと、政府のシステムエラーだという。こんのすけは肉球を見せて説明する。

「手入れ部屋に入ると、傷は完治するんですが、その分のダメージがナマモノの目に回ってしまうという次第でして」

「おい早急に復旧してくれよ、出陣させられないし手合わせもさせられない」

「わかりました。明後日にでも復旧すると思われます」

 神妙に肯くこんのすけ。彼はふと、審神者の隣に並ぶ御手杵を見た。目が乾くという理由で、今の彼の目は包帯で巻かれている。全く見えないのだから致し方ない。寧ろよくこの状態で手入れ部屋から執務室までたどり着けたものだ。こんのすけは妙なところで感心しながら、本命の用件を尋ねた。

「それで、その間の御手杵殿のお世話は」

「俺がやるよ」

 あっさりとした答えだ。予想はしていた。それでもこんのすけは、審神者の「言い訳」を聞くことにする。

「……本丸の運営もあるでしょう」

「どうせ出陣も手合わせもないんだ。2日か3日ぐらい清光や長谷部に任せられるよ」

「成る程。それで本音は」

 言葉が詰まる。しかし数秒ののち、首を傾げる御手杵の横で小さく呟いた。

「……こういうときぐらい、御手杵に触れる口実が欲しい」

「成る程。正直で何よりです。ただ他の刀剣の世話もちゃんと受け付けるんですよ」

 そうしてこんのすけは姿を消した。

 

「とりあえず、部屋に戻ろうか。夜は同室のたぬきや蜻蛉切たちに面倒を見てもらってね」

 審神者は立ち上がる。迷わず御手杵の両手を持って。それに釣られて御手杵も立ち上がる。1,2,1,2。かけ声を上げながら、審神者は後ろ向きに縁側を歩いた。三名槍及び同田貫の部屋はそう離れていない。御手杵は審神者の体温を頼りに、恐る恐る足を踏み出している。曲がり角に注意を払いながら、戯け言葉を口にする。

「あんよが上手、あんよが上手」

「なんだそりゃ」

「うまく歩けるようにするお呪い。稀に鍛刀されたばかりの刀剣が歩けなかったりするでしょ、そのときにも使うよ」

 目が見えないことをいいことに、にやけ顔を満開にして嘘八百を並べ立てる。それが見えずとも伝わったか、包帯の下の御手杵は怪訝そうだ。

 しかし、不意に口にした。

「でも、これはこれでいいな」

「は」

「あんたは俺に触れる口実が欲しいっていってたけど、俺もあんたに触れたかった。見えないから、余計に体温が伝わる」

 羞恥で衝動的に手を振り払いそうになる。しかしそれを予見していたように手をしっかり握り替えされた。それに、目が見えないことに感謝しながら、自身は顔を赤らめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

B.

 

 23世紀の医療ならば完治するという。それだけが救いだった。

 外は氷雨。消毒薬の匂いが立ち篭める、真っ白い空間。個室が宛がわれたのは審神者という特殊な職種ゆえか。少なくとも今の御手杵にとってそれは有難かった。

 今の自分の顔は、本丸の皆に見せられるものではない。このような、悔恨と怨嗟に満ちた顔など。審神者にも見えないことが救いだった。そしてそれが現在の彼が深く深く落ち込んでいることの原因だった。

 現在、審神者の目は包帯で覆われている。白い包帯の下は眼球の再生を促す特殊なゼリーで満ちており、三日三晩は解いてはならないという。

 ――審神者が参加した会議。それは今後の戦略の展望に関する所謂真面目な会議だった。真面目に語らいたい面子が揃ったのだ――テロが起きるのは予想されていたことだった。予期していたのは歴史修正主義者や検非違使の襲撃だ。

 よもや参加者の人間が爆弾を仕掛けて来るとは思わなかったのだ――そして、その間近にいたのがこの審神者だった。近侍だった御手杵は、咄嗟に首から下は庇った。しかし庇いきれなかった。

 こんのすけがぴょこり、ベッドの上に登ってくる。審神者が小さく蛙が潰れた声を出した。

「御手杵殿。あなたの体もエーテル体でできているとはいえまったくのノーダメージとは限らないんですよ。あなたも検査を受けないと」

「いやだ」

「いやだって」

「こんのすけ。清光や長谷部とかが来るまでどれだけ時間がかかる」

「そうですね、今回の事件でゲートが混雑していますから……数時間はお覚悟を」

「なら、俺はそれまで離れない」

 御手杵の手が、こんのすけの体を床に下ろす。そして椅子をずらすと、枕元に向かった。

 その手が、大きな手が。刺激を与えないように、そうっと。そうっと包帯をなぞった。愛おしそうなその仕種に反し、こんのすけの目には、御手杵の顔はあまりに悲痛に満ちて見えた。

「主が、俺が誰だかわかるまで。離れたくないんだよ」

 それは守りきれなかったという悔恨か、それとも傷付いた主への執着か、あるいは――

 こんのすけは、それ以上は考えるのをやめた。今はこの審神者の保護者代理が来るまで待つしかなかった。そうでなければ、この大きな体の槍は動きそうになかったのだ。

 

 

 

 

 

鬼さんこちら

 

 

 

了

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