pixivより転載
その単騎遠征が終わったのは、夜。夜食は用意されていると、廊下の掲示板に張り出されていた。
(これは有難いな)
厨を預かって久しいという燭台切か歌仙の配慮だろう。雪降りしきる庭を尻目に、風呂上がりの大般若は縁側を歩く。夜食は厨に取っておいてあるという。首にかけた手拭いを掴みながら歩いていると――厨に灯りが点いているのが見えた。消し忘れだろうか。そう無防備に考えて顔を覗き込ませた。
「…………あっ、にゃがみつ。お帰りなさい」
厨の隅。冷凍庫の前に寝間着の少年がひとり。いくら刀剣男士と見紛うほど若いというより幼かろうが、見間違えようがない。この本丸の主だ。そんな彼の手には――アイスもなかとクッキー&クリームのアイス。
大般若は呆れて暖簾をくぐった。
「夜中のお菓子は歌仙と燭台切に怒られるぞ」
「お、お腹が空いたんだもの……冬のアイスって美味しいし。それよりお帰りなさい。報告は明日にしてくれていいよ」
「助かる。お、酒も入ってるな」
厨の食卓に乗せられた夜食。それには「大般若用」とメモが置かれている。有難くそれをいただくことにして、さてと冷蔵庫を開く。
冷やしていたカップ酒。それには「大般若」と名を書いておいた。それを夜食の盆に乗せると、審神者が呆れた顔で見る。
「にゃがみつこそ、あまり安酒は飲むなって燭台切にいわれてたでしょ」
「なぁに、美術品以外に高いものを使う気にはなれないってだけさ」
いいながら食卓に着く。普段は50振り以上の刀剣男士の食事を作るための余剰スペースだが、食いはぐれたモノが簡単な食事をするために厨の片隅に椅子も用意されている。大般若がそれを引っ張り出していると、向かいで審神者も同様にしていた。それを見て、カップ酒の蓋に指をかける。
「腰を据えてアイスを食う気かい」
「にゃがみつもひとりで食べるよりは味気があるでしょ」
「とかいってアイスを食ってるのが見つかったら一緒に言い訳してもらうつもりだな」
「さてなんのことやら。今日は焼き鮭定食だよ」
いわれてカバーをどける。果たして中には白飯、焼いた塩鮭、副菜にホウレン草のアーモンド和え、味噌汁はジャガイモとワカメ。漬け物もついている。酒より先に飯に手をつけながらしみじみと述懐する。
「燭台切や歌仙も、よくこんな細かい食事を毎回作れるなぁ。こんな大所帯、もっと大雑把になりそうなもんだが」
「内番に料理当番っていうのもあるからね。手伝いをしてくれてるんだ。それでも専ら主役は燭台切と歌仙なんだけどね……偶には休んだらっていってるんだけど、2振りとも趣味だといって憚らないんだよね……」
「……まぁ、こだわりというものがあるんだろう」
さて、顕現してまだ日が浅い。その料理当番というものはまだ回ってきたことがない。そのうち自分も駆り出されるのだろう。料理の経験など皆無に等しいから恐らく皮むきなどに専念することになるだろうが――近い将来の予想図を立てていると、いつの間にか審神者はアイスもなかを食べ終えていた。持ち出した匙を片手にクッキー&クリームのアイスの蓋を開いている。アイスに次いでアイスとは、酒を呷る身としては甘ったるい光景だ。アーモンド和えを頬張り、そしていう。
「あんた、いくら成長期だからってそんなに甘いものを食べると太るぞ」
「大丈夫。カロリーは霊力に変換されて本丸運営に持って行かれているから」
あっさりと返された言葉の真に意味するところを、このときの大般若は推し量ることができない。ふうん、と流す。
それから一口、二口。会話が途切れる。味噌汁を呷ると、ふとアイスを頬張っていた審神者は言い出した。
「アイスもなかって美味しいじゃん」
「まだ喰ったことがないからわからんが」
「そっか。それとクッキー&クリームも美味しいんだ」
「それがどうした」
「アイスもなかって要はアイスのサンドイッチみたいなもんだから……」
じっとクッキー&クリームの空いたケースを眺めて審神者は呟いた。
「クッキー&クリーム味のアイスもなかってあれば嬉しいし売れると思うんだけどなあ」
それを聴いて、大般若は言うべき言葉を見つけた。
「主。あんた、寝ろ」
「これを食べ終わったらそうする」
「その前に主。君は寝る前にお説教だよ」
その声に審神者は固まり、大般若は顔を上げる。風呂上がりらしい燭台切が、厨の出入り口。浴衣姿で仁王立ちしていた。審神者は慌てる。
「これはそのだね、遠征帰りでお疲れのにゃがみつを一緒に食べることで労おうと思って」
「うん。でも夜食は夜食だね」
「にゃ、にゃがみつ~……」
「君も安酒ばかり飲まないようにね」
引っ張られ引き摺られていく審神者。彼を見送りながら、大般若は「安酒」を呷りきった。
「御馳走様」
審神者の残していったゴミも片付けるべく、大般若は食卓から立ち上がった。
窓の向こうでは、雪が降りしきっている。
アイス食べるよ!
了