※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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▼この主従は父子的関係かも知れません 長谷部が父、審神者が息子
お題は「わるものマニア」(http://www.w-mania.com/)より。
pixivより転載


【とうらぶ】風のように【長谷部+男審神者】

 いつだって、つむじ風のようにヒトを振り回す。

 

 明け方。縁側から走ってくる足音。それが自室の前で止まった途端、障子が開け放たれる。障子が傷まないか心配なほどに景気の良い開け方だ。しかし自身は蒲団を頭から被ったままだ。それが気に食わなかったらしい。

「はーせべっ!」

「ぐぇっ」

 蒲団の上から、「それ」が飛び乗ってきた。衝撃。蛙が轢き潰されたような声が出る。しばらくして、退こうとしないその重みに対して蒲団を捲った。口からこぼれたのは、「それ」の正体に気付いてなお漏れる悪態だった。

「何をする貴様……」

「長谷部! 見て見て!」

 そういって蒲団から降りた「それ」――審神者は、蒲団を引っ剥がすと自身を引き起こす。寝間着のままだが、審神者に構った様子はない。常にない様子で手を引っ張ってくる。蹌踉めきながらついていくと、障子が開け放たれた。

 白。白だ。白いものが、空から降ってきていた。この本丸に来て、はじめて冬の景趣にしてから、はじめての。

「雪だよ! 初雪!」

 審神者は微笑んでいた。その笑顔に、けたたましいベルの音が重なる。

 

 目覚まし時計を反射で叩きのめす。静かになった。それをいいことに上半身を起こし、ぼんやりと朝日が差し込む障子を眺める。ちちちち、外では小鳥が囀っていた。海松色の頭を掻き、長谷部は嘆息する。

 今し方見た夢は、想い出の回想などではない。そうであればよかった。長谷部は慨嘆する。

 ここの本丸の審神者が着任したのは、一般の審神者より半年ほど早かった。試行期間のためである。ゆえに2205年1月に着任した審神者たちが冬の景趣にしても、初雪がちらほらと降るというものではなく、いきなりどっかりと積もった状態で開始とあいなった。もちろん着任した地域の差はあったが――それより長谷部にとって重要なのは、この本丸での本当の「初雪」が降った頃。自身は審神者とそこまで親しくはなかった――すくなくとも、いきなり部屋に乗り込まれ、蒲団の上に跨られるほどには。

(あの頃はまだ、主のトラップもかわいらしいものだったしな)

 蒲団を片付けながらしみじみと述懐する。精々、侵入者防止に鳴子を張り巡らせる程度だった。いつしかそれが「防御より攻めの姿勢」を持つようになり、落とし穴(中には竹槍)、丸太が振ってきて池に吹っ飛ばされ、挙げ句池の中にはさらにワイヤートラップが仕掛けられており……身を以て保障しよう。ここの本丸に侵入する者はホー●・アローンの鑑賞を推奨する。なお悪化の原因は鶴丸の顕現によるものである。トラップは敵のうち単騎行動(複数行動していれば気配と音でわかる)且つ脇差以上の重量(短刀ならば苦無でもない限り相手に手間取らないので)している者を標的としているので、つまり大倶利伽羅ほどとはいわずとも単独行動を好む長谷部は絶好の引っかかり対象だった。大倶利伽羅は馴れ合わないといいながら、初期は燭台切が、のちほどやってきた鶴丸や太鼓鐘に構われているゆえに被害は少なかった。真に被害者となったのは長谷部の方だった。

『……へし切る!』

 審神者と鶴丸を抜刀して追いかけ回すようになったのは、数々のトラップの巻き添えを食い数ヶ月。終に堪忍袋の緒が切れた頃だ。機動お化けと呼ばれる長谷部の俊足から彼らは鈎縄やパルクールといった様々な手で逃げ果せる。その度に地団駄を踏んだものだ。もっとも、仕事のときとなるとそれらのことは一切忘れて軍議に臨むのだが。

 それが「なんだかんだと許してくれる」と思われたのか。それが良かったのか悪かったのか。自身に審神者が懐くようになったのはその頃からだと思った。あるいは兄か、あるいは父のように。

 ……さて、足音がする。顔を洗いに行くために手拭いを手に取っていたときだ。

 障子が開け放たれる。やはり勢いよく、すぱんと。寝間着に幼顔を乗せた審神者が覗き込んできた。

「やっぱり起きてたね、長谷部。お早う」

「お早う御座います。今朝は随分お早いですね、主」

 いいながら、先程沈黙させた時計を見る。まだ5時だ。長谷部はいつもこの時間に起きている。たとえ主がどんな人間だろうと自分は規則正しく仕えるだけだ。そう決めている長谷部を知ってか知らずか、審神者は手拭い片手の長谷部の空いた手を掴んで引っ張る。

「今朝は目が覚めちゃってさ。それよりこっち来てこっち」

「なんですか、もう」

 ここまでは夢の中と一緒だ――ただし、景趣はもう春だ。直ぐには春爛漫とはいかずとも、冬の景趣の間に硬く結ばれていた芽が萌ゆる頃だ。

 そう、庭のあの梅も。

「ほら見て!」

 片手を伸ばして審神者はいう。その指の先を、長谷部は寝ぼけ眼でじっと見つめた。次第に焦点が合う――それは、たしかに。開いたばかりの、小さな梅だった。

 それを見ながら、審神者はあどけなく笑う。

「起きたら咲いてるのが見えてさ。誰に見せようと思ったら、長谷部はいつも1番に起きてるの思い出してさ。もうすぐ桜も咲くよ。春だね、長谷部!」

「――そうですね」

 長谷部は、ふと、口元を綻ばせる。

 風のように、ヒトを振り回す人だ。けれど風はときに喜びももたらす。

「1番に見せてくださって、有り難う御座います。光栄です」

「……そこは『こんな朝早く引っ張り出して梅一輪ですか』って鼻で笑うかと思った」

「失敬な。俺にも花を愛でる心ぐらいはありますよ」

 審神者の物言いに眉を顰めながらも、顔を上げた。咲いていたのは紅梅だった。直に白梅も、そして桜も咲くのだろう。そうしたらまたこの審神者と鶴丸はトラップという名の悪だくみを盛んにするのだろう。

 しかし、それも今だけは優しい気持ちで、風のように受け流せそうだった。……今だけは、だったが。

 そもそも、風のようなこの審神者に、懐かれて悪い気はしなかったのだ。だからあんな夢を見たのだ。審神者と最初から親しかったら、という埒もない夢を。叶わぬ夢を。今が、それなりに幸せだからこそ。

 風が吹いた。まだ、この程度の春風では、梅も散りそうにはなかった。

 

 

 

了

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