※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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モブ視点
▼「【刀剣乱舞】書架の隙間【男審神者+三日月】」(https://syosetu.org/novel/85876/5.html)に出てきた弁護士の先生です 元ネタがわかった方はry
▼この本丸に謙信くんと静形さんはいません 現実装(2018/05/16時点)されてる刀剣って72振りでいいよね?
※pixivより転載


【刀剣男士in現世】長谷部とスーツの親和性は異常

 今日は遅くなるから先に寝ててくれ。そう連絡があったのは昼下がりのことだ。珍しいことだ、とデバイスを見て目を瞬いたものだ。

 同棲相手の弁護士は、仕事にやり甲斐というものを求めない。給料は弁護士という世間一般のイメージよりは低いだろう。だが彼のメンタリティは所謂「社畜」とは正反対にあった。尤も、要領が悪いため、思わぬ依頼を任されることもままあるらしいが――閑話休題。いつもは彼が食事を作っているが、今夜は自身が作ることにした。彼よりは料理の腕は劣るが、所謂料理下手・味音痴ではない。出来上がったメニューはそれなりに味のバランスもとれたものだった。自身としては満足の出来映えだった。

 彼が帰ってきたのは、そんな夕食をひとりで食べた1時間後のことだった。

「ただいま……」

「お帰りなさい。遅かった、ね……――どうしたのその怪我!?」

 自身は仰天した。それは無理からぬことだと思う。帰ってきた彼の頭には痛々しい包帯が巻かれ、頬にはガーゼが貼られていたからだ。いっておくが、彼は弁護士である。警察官ではない。見れば、常ならば清潔に保たれているスーツも鞄も、少しばかりよれている気がした。というか少し汚れていないか。まさか依頼人の関係で殴られでもしたのか――慌てて近寄る自身に、彼は力なく笑った。

「あー……詳しいことはいえないけど、テロに遭った」

「テロ!?」

「テレビ観なかったか」

「あっ……もしかしてニュースでやってたやつ!? レキシシューセイシュギシャが出たとかっていうの! でもなんで■■さんが!?」

「あ、晩飯旨そうだな……有難うな」

 溜息混じりに食卓の上を眺める彼は、本当に疲れている様子だった。「風呂どうするかな……」と呟きながら、彼は続けた。

「依頼人の仕事に付き添って外出してたんだよ。そしたら――」

 

 

 

 

 

 裁判所を出る。日差しが照りつけてきた。自然、隣から溜息が漏れる。

「はあ。先生、お疲れ様でした」

「君もね。それに、ええと、長谷部さんも。待っている間退屈だったでしょう」

「俺は主の命に従ったまで」

 隣を歩くのは中学生ほどの少年。その更に隣、やや斜め後ろについて歩くのは20代ほどの青年だ。両者共にスーツという共通点があるが、前者は審神者、後者はその刀剣男士という関係である。弁護士である自身が彼らと共にいるのは、偏に審神者の方に原因があった。

 裁判である。

「証言してもらうのにはまた間が空くと思う。しばらく落ち着くと思うから……また次は1年後や2年後かも知れない」

「今回も3年ぶりでしたしね」

「君が成人する前には終わって欲しいものだけども……あぁ、それで帰りは店に寄りたいんだったね」

「ええ。本丸の皆にお土産を買って帰るつもりだったので。長谷部、『わた屋』の羊羹だっけ」

 わた屋とは大店の和菓子屋の名だ。長谷部が肯く。

「はい。主の分も含めて71人分ですね」

「人が増えたねぇ……」

「はい。増えました」

 ゆっくりと肯く審神者。自身はしみじみと感慨に耽る。生まれた頃から知っているこの少年が、50名を優に超える白刃隊を率いているのだ。それが本人が心から望んだ事態ではないことも知っているが、自身としてはこの少年の将としての思わぬ才幹に驚いている。

 その審神者が嘗て巻き込まれた事件があった。審神者は重要参考人として裁判の度に証言台に立つことを望まれる。とはいっても、以前証言台に立ったのは3年前だ。次はまた1年後か2年後か――裁判というものが時間がかかるのは、23世紀になった今日も変わらない。せめてこの少年が成人するまでには片が付いて欲しいものだ。彼を赤ん坊の頃から知っている身としては、子を持たない自身としては息子のようにも思える。その息子の護衛だという長谷部が、控え目に審神者に問う。

「主。荷物は俺が持ちましょう。羊羹も俺が持ちますから」

「有難う。でも長谷部は護衛だからね、手ぶらでいて欲しいし、羊羹は宅配で送るよ」

「は……」

 肯く長谷部。彼の片手には藤色の包みが握られている。その中身が日本刀であることを知るのは、裁判所を出た今は自分たちだけだった。

 審神者は超法規的存在だ。通常、裁判所に武器を持ち込むことなど御法度だ。それが許可されるのは、審神者が貴重な人材であること。それに万が一歴史修正主義者が出た場合、対処ができるのが刀剣男士のみだからだ。裁判長が随行を許可するのである。尤も、それでも裁判所では法廷に立つ審神者に対し、刀剣男士が随行を許されたのはその廊下までだったが。各地の公的施設には対歴史修正主義者への結界が張られているので、根本的には刀剣男士の警護は飽くまで「念のため」という程度だった。自身の心なしか、長谷部はやや不満そうにしている。それが荷物持ちを許されなかったことか、主人の護衛が廊下までしか許されなかったことへの欲求不満かは判じ得なかった。

 そんな長谷部は気を取り直したようにいう。

「では羊羹を選ぶのは俺にお任せください。あそこは葛羊羹、蒸し羊羹、梅羊羹、栗羊羹、芋羊羹と種類が豊富だと聞いていますからね」

「1種類だけの方が喧嘩にならなくない」

「どうせ宅配を頼むなら多少多めに買ってもいいでしょう」

「買うのは俺のポケットマネーでなんだけどね?」

「だからですよ」

「いい根性してやがる。まあいいけどね――先生も食べますか」

「私は――いいです。自分で買います」

 頭を振る。自身は特別甘いものを好む訳ではないが、「わた屋」に寄ったとなれば同棲相手が羊羹を食べたがるだろうと思ったが、依頼人に買わせるのも気が引けた。自身も宅配を頼もう。そう思いながら、タクシーを呼び止めた。

「それじゃタクシーで行こう」

「はい。……あ」

 タクシーへと歩み寄る自身と審神者。しかし審神者はふと足を止める。振り向いた先を見て、自身は思いだした。

「長谷部さん、行きもそうでしたけどタクシー大丈夫ですか」

 政府からこの裁判所へ向かうとき、タクシーを利用した。その際、長谷部は緊張した面持ちでシートに縮こまっていたのだ。問われた長谷部は、顔を強張らせていたが――「大丈夫です」と肯く。

「鉄の猪を自ら乗りこなす訳ではないですから、平気です」

「……長谷部。無理を言うようだけど、これからも現世に来ることがあるだろうから、慣れてね」

「はい……」

「お客さん、乗るの? 乗らないの?」

「あ、はい乗ります乗ります」

 運転手が不機嫌そうに声を掛けてくる。それに慌てていらえを返しながら、自分たちはタクシーに乗り込んだ。

 自分たちの死角。裁判所の陰。そこから歪んだ気配が乗り出してくるのに気付かずに。

 

「有り難う御座いましたー」

 店を出ると、背後から声を掛けられる。それを聞き流しながら、自身は呆気にとられていた。

「本当に70人分買ったね」

「種類を買ったから実質100人分ぐらい買ったかも知れません」

「これで充分間に合うでしょう」

 審神者が苦笑し、長谷部がなぜか胸を張る。それを見ながら、先程見た光景を思い出す。

 並べられた各種の和菓子。その中でも羊羹は本当に種類が豊富で、仕事中にも関わらず思わず見入ってしまったほどだ。そこで隣に並んでいた長谷部は、店員に言った――「これとこれとこれを30ずつください。宅配で」。店員が目を見開いたのを自身は確かに見た。それでも易々と請け負ったのはさすが大店というべきか。料金を支払い(審神者が)、宅配の手配を済ませて出てきたところである。自身も同様に買い物を済ませたものの、数は彼らの買い物に比べれば遙かに大人しい。大通りへと歩き出す途次、自身は思わず尋ねる。

「本当にあの量の羊羹を食べきれるのか」

「うーん、甘いものが苦手な刀剣もいますけどね。それでも2,3日中になくなるのは確実ですね。甘いものが好きな奴もいますから」

「短刀男士はやはり体が幼いせいか、甘いものを好む者が大半ですね」

 そう話す2人の会話を聞いていると、ふと審神者が足を止める。どうしたのかと思うと、スーツのポケットからデバイスを取りだした。

「電話です。すいません」

 そういって電話に出る。

「もしもし、清光。どうしたの。今から帰るところだけど――」

 話しながら近くの建物まで身を寄せる審神者を、目で追う。ぽつんと取り残されたのは長谷部と自身だ。審神者がいなくなると、途端に接点のない2名になってしまう。自身は苦く笑いながら長谷部に話しかける。

「それにしても、審神者くん――君のご主人が元気そうでよかった。風邪をひいたりはしてないかな」

「最近は。剣を鍛えてもう3年になりますからね。大典太――病避けの刀剣が来たらぴたりと風邪をひかなくなりましたよ」

「そっか……ん?」

 会話が途絶えかけたときだった。ふと、「それ」が目に入る。

 数m後方。物陰に隠れるように、子どもが蹲って泣いていた。しまった、と思った。自身はさして善人ではない。しかし、1度目にしたものは無視することはできなかった。仕事中だが、訳を話せば人の好い審神者は、困っている子どもを見捨てさせはしないだろう――長谷部に軽く声をかけてから、そちらに歩み寄る。

 子どもは少女のようだった。ワンピースを着ている。路地裏に姿が半ば隠れている。顔を覆って泣いている。そんな少女に、自身は声を掛けた。

「どうしたんだい。お母さんかお父さんはどうしたのかな」

「いないの……」

「困ったな、迷子かな。近くの交番に行こうか」

「いないの……」

「うん?」

「いないの……」

 自身の声のかけ方は定番だったと思う。しかし、少女の反応はおかしかった。壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す。そして、少女はゆっくりと顔を上げた。

 戦慄する。その目は、瞳孔も白目もなく。ただ、赤く光っていた。立ち上がった少女の背後から、「ぐにゃり」と何かが這い出てくる。

「いないのいないのいないのいないいないの」

 後退る自身に、少女はにたりと笑った。

「審神者は、いないの?」

「――」

 少女の「皮」が剥がれる。中からは短い刀を咥えた骨が出てきた。「彼女」の背後の陰から這い出てきた異形――大きな刀を構えた「それ」が、自身に振りかぶってきた。

 

 声がかけられる。最初、その声は遠かった。しかし次第に鮮明になってくる。閉じていた目をこじ開けた。

 審神者だった。

「先生! ■先生! しっかりしてください、大丈夫ですか!?」

「……■■■くん。私は一体どうなったんだ」

 体を起こす。すると背中と頭が痛んだ。頭を押さえるとぬるりとした感触が手に伝わってくる。血だ。驚く自身に、ハンカチを差し出してきた審神者。彼は藤色の布を握っている。自身はそれを有難く受け取り額に当てながら、周りを見渡す。一体なにが起きたのか。

 自身が覚えているのは、謎の異形に凶器を振りかぶられたこと。咄嗟に避けたが、吹っ飛ばされた――背後を見ると、そこは建物の壁だった。恐らく背中と頭が痛いのは壁にぶつかったせいだろう。しかし斬られなくてよかった。50代にしてはよく避けたと思う。フィットネスクラブに通っていてよかった。そんなことを考えながらもそれらを見た。

 耳に届くのは悲鳴、サイレンの音。それになにかが破壊される音。見れば、破壊痕がそこらに残っている。そして見た――あの異形が暴れ回っているのを。

「――あれは」

「歴史修正主義者です。まさかこんな、現代の町中に出るなんて――俺目当てかな。俺ひとり相手に6振り出してくるなんて敵も余裕があるな」

「あれが――?」

 背筋が凍る。話には聞いていた。ネットでも情報を拾った。それでも敵に関する情報は少なかった。刀剣男士の画像は出回っていても敵の画像はなかったのだ。それはそうだろう。戦闘中に画像を撮れる余裕はないだろうから。そしてこんな異形と敵対しているということに戦く。審神者と長谷部はいつもこんな敵と対峙しているのか――審神者はそう考える自身を見透かしたように、微笑んでみせる。

「大丈夫ですよ。いつもはもっと余裕を以て戦えるように整えています。あんな奴らは余裕で倒せますよ」

「しかし、今は現世だろう!」

「大丈夫。『戦は易きに勝つ』。ですけど」

 刹那、向こうで影が飛び出す。笠を被った敵の1体を、「それ」が袈裟懸けに斬った。どう、と倒れる敵。「それ」は――長谷部だった。抜き身の刀を、向かってくる敵に向けて構え直した。審神者は誇らしげに言う。

「あれぐらいの連中、うちの長谷部の敵じゃありません」

「――圧し斬る!」

 侍姿の方が似合いそうな台詞を、スーツの長谷部が叫ぶ。長谷部の刀を包んでいた布袋が、審神者の手に握られていた。

 

 通報を受けたという。間もなく政府からの援軍がやって来た。しかしそのときには、敵の刀剣は長谷部にほぼ倒されていた。鮮やかだったと自身は思う。その長谷部は、刀を布袋にしまっている。

「先生、ご迷惑おかけしてすいませんでした。あとでちゃんと病院に行って、政府に治療費請求してくださいね」

 救急隊員に頭の怪我の応急処置を受けていると、その場での事情聴取を終えたらしい審神者が頭を下げてくる。それに、自身は笑って応えた。疲れていたからだいぶん元気のない笑みだったと思うが、ないよりはましだろうと笑う。

「君が悪いんじゃないだろう。悪いのは攻めてきた向こうだ。過去の改変を目的とした連中が、この時代にやって来た理由はどうあれ――事故のようなものだ。まぁ、頭と背中は痛いけどね」

「背中も診てもらってくださいね……俺たちはこれから政府の人たちに付き添ってもらって本丸に帰ります。今日は有り難う御座いました」

 そういって再び頭を下げてくる。それを見て、自身は罪悪感に似たものを覚える。審神者は悪くないのだ。それを正しく伝える術が思いつかない。

 だから、代わりの言葉を伝えることにする。

「伝えてくれないかな。審神者くん」

「はい、誰に何をでしょうか」

「長谷部さん」

 審神者に言った。

「格好良かったと伝えてくれ。審神者くん。君は良い部下を持ったね」

 遠回しに、審神者のことも褒めたつもりだ。良い部下を育てたと。それが伝わったのかどうかはわからない。しかし、審神者は確かに微笑んだ。

「ええ。自慢の部下です」

「そろそろ、いいですか」

「あぁ――はい。それじゃ、次に会うまで元気で」

「先生も」

 救急隊員に声をかけられ肯く。担架に乗せられて運ばれながら、自身は頭を下げる審神者をずっと見ていた。そしてそっと目を閉じた。事務所と家へはあとで連絡しよう。それにしても疲れた日だった。

 

 

 

長い一日

(あぁ、本当に疲れた!)

 

 

 

 

 

「もし清光が風邪をひいてなかったら、清光が今日戦ってたんだろうなあ」

「じゃんけんで勝った甲斐がありました」

「相変わらず戦闘狂だねえ……そうそう、長谷部。先生が格好良かったって」

「当然でしょう。俺を誰だと思ってるんです」

「……戦っている姿がだって」

「だからいったでしょう。俺を誰だと思ってるんです」

「ああ、うん。そうだね。長谷部はそういう奴だよね」

 

 

 

 

了

 

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