pixivより転載
山姥切長義という刀剣男士は、たしかに優秀だ。
政府で監査官を務めていたのもあり、仕事はそつなくこなす。だが国広は思う。
「……長義。いくら何でも根を詰めすぎじゃないか」
「煩い偽物くん。そんなことを言っている暇があったら冷蔵庫から栄養ドリンクを持ってきてくれないかな。『毒サソリエキス』っていうの」
それは審神者が床に伏せった日のことだ。大典太が来てからはおさまっていた病弱さが、予防接種を受けたといっても今年のインフルエンザの流行には耐えられなかったと見える。そのために、報告書などの仕事が、事務仕事に慣れている者に回されてきていた。つまり長義である。もう一振り、長谷部は別件で奔走していたがこの話は別に語ろう。とにかく長義は、せかせかとキーボードを叩く。紙で書く習慣の多い刀剣の中で、パソコンを扱えるという点でも彼は重宝されていた。アナログ派の国広には、現在長義が打ち込んでいるタイピングの速さが目に止まらない。国広は部屋に備え付けの小さな冷蔵庫からドリンク剤を取り出すと、それを長義に渡す。彼は無言で蓋を捻ると、その中身を勢いよく呷った。そして再びホロのモニターに向かう。それを見て、国広は小さく溜息を吐いた。
「長義。お前みたいな奴をワーカーホリックというんだぞ」
「仕事に不熱心よりましだろう」
「それに、今やっている仕事はそれは3週間は先の〆切の報告書だろう。それは主が回復したら自分で書くぞ」
「主の仕事を先んじるのも部下の役目だ」
「……」
国広は黙って立ち上がる。長義は、茶や菓子を出すなどをして傍にいてくれていた国広がいなくなるのを少し寂しく思ったが、その自分の心情は無視した。何やら背後で物音がしているが、国広にも国広の仕事があるはずだ――
途端、目を塞がれた。
「?!」
「いいから、長義」
そのまま体を引き倒される。それが蒲団だと気付いたのは、抱き締められる感触が伝わってきてからだ。一緒に寝転がったのだろう国広から、体温が伝わってくる。
「休め」
「だが、仕事が」
「なぁ、勘違いするなよ? 長義」
声音は厳しく断じるようで、それでいて優しかった。
「これは士気が下がるとか、戦力に影響が出るとかそういうことを言いたいんじゃない。お前が心配だから、休んで欲しいんだ。俺からのお願いだ、これは」
「……」
「な。いい子だから」
子どもをあやすような声で、体を優しく叩いてくる。心音に近い速度のそれは、やがて、長義を眠りに誘った。
障子が開かれる。
「悪い、長義。こちらの件は済んだ。仕事を手伝う――おっと」
部屋に入ってきた長谷部は、その様子を見て僅かに微笑んだ。
「……またあとで来る」
蒲団の上で寝転んだ2振りの刀が返事をしないのをわかっていて、長谷部は部屋を出て、障子を閉めた。
了