#くにちょぎ版深夜の60分一本勝負
pixivからの転載
長義と付き合ってそれなりに経つ。しかし、いまだわからないことがある。
「山姥切の好物ぅ? なんでそれで俺が駆り出される……にゃ」
「付き合いが長いんだろう。何か知っていないか」
「お前、そんな形振り構わない質だったんだ……にゃ」
本丸の一室。卓袱台を挟んで、お茶請けのアーモンドフィッシュのうちフィッシュの方を選び取る作業に専念していた南泉は、知己の写しの様子に呆れる。
ただ刀として置かれていた身としては、たしかに長義との付き合いは長い。しかしこの本丸に来てからは、僅かなタイムラグだが、国広の方の山姥切との方が付き合いが長かった。つまり人の身、肉体を得てからの長義のことはそこまでよく知らない。しかし国広は食い下がる。
「とにかく。それでもお前にしか見せていない面とかがあるだろう」
「嫌味な奴って面しか確認してねぇにゃ」
「そこをなんとか」
食い下がられて、さすがの南泉も閉口する。それでもなんとか、この身を得てからの付き合いが長い方の山姥切に何かしてやりたい、とは思った。そして絞り出したのは――
「……あぁ、そういえば最近、加州や乱とかと何かやってる……にゃ」
「何かとは」
「なんか、いんすたばえ、とかいうやつで――そうだ、琥珀糖だ」
「琥珀糖?」
「そうにゃ、最近厨を1部占拠しているにゃ」
「わかった。有難う」
「気を付けろよー」
立ち上がって部屋を出る背中に、そんな言葉が投げかけられる。何に注意するというのだろう。
答えは、厨に入ってすぐわかった。
「ばっ……偽物くん! なんで今来るのかな?!」
空のボールをぶつけられそうになる。それを避けて捕まえた。
「危ないじゃないか長義」
「長義さんテンパってるね!」
「あとは冷やすだけだし、任せたよ長義」
「ちょ……」
その場に居合わせた乱と加州は、エプロンを脱ぎながら、国広の横をすり抜けてさっさと厨をあとにする。
残されたのは、厨のテーブルに乗せられた盆と、長義。それにボール片手の国広だ。国広は特に断られもしなかったので、近寄ってその盆の中身を見た。
盆の中は、色取り取りの色彩で埋まっていた。赤や青、緑や黄色。それを見て、国広は首を傾げる。
「これが琥珀糖というやつか」
「誰に聴いて――猫殺しくんだな? あいつだな?」
「黙秘権を行使する。……しかしきれいだな。ひょっとしてこれから固めるところだろう。どういう風に調理するんだ」
「……こうだよ」
そういって、長義は諦めたようにポケットから端末を取り出す。彼が操作すると、1枚の画像が出て来た。
宝石のように光る、種々様々な透明な石――に見える、恐らくは寒天を固めたもの。それを見て、国広は首を傾げる。
「これがお前の好物なのか」
「好物というか」
「好物じゃないのに作ったのか? いんすたばえ、というのは恐ろしいな」
「食べ物を粗末にするつもりはない。ちゃんと食べるさ。ただ。その」
長義は口ごもる。それに、国広は顔を覗き込んだ。長義は後退り、ガスコンロにぶつかる。そして視線を背け、言った。パットの上に敷かれた色彩を示して。
最初に、青い部分を示す。
「この色が、俺の色で」
「あぁ」
「……この緑色が、国広の色だなって。乱と加州に画像を見せられたとき、そう思ったんだ。それで、その、バレンタインに……」
尻窄みとはこのこと。いつもはきはきとした態度の長義の羞恥に、国広もつられて赤くなる。
今の2人の色は、端末の画像の中できらきらと光る琥珀糖よりも赤く染まっていた。
――バレンタインに、長義にあげたいものを探していたのに。こんな展開は予想が付かないではないか。半ば八つ当たりに思いながら、「画像を撮ったら俺にも喰わせてくれ」とだけ答えた。
結局このときでは長義の好物はわからず、バレンタインには長義の真似をして、長義の目の色と国広の目の色のグミの詰め合わせを贈ることになる国広だった。存外喜ばれたことをここにひっそりと記しておく。
了