pixivからの転載
梅の木が咲き誇る。そんな中、薄ら寒くとも、雪がなく、晴れていれば洗濯物は外に干す習慣がこの本丸にはあった。コインランドリーのような洗濯機や乾燥機も完備されているのだが、ひなたの匂いを吸った洗濯物を好む者も多かった。
山姥切の長義も国広も、その口である。
黄昏も終わる頃、自分の洗濯籠を抱えて自室に戻ってきた国広。声もかけずに不意に襖を開けたのは、いつものことだった。問題は、先に自室に戻ってきていた長義だ。
早々と就寝の準備をしていたらしい。それもいつものことだった。シーツも被せてある。問題は、長義が彼自身の褥の上。そこに座り、頭から別の白いシーツを被っていたことだ。
刀種ごとにシーツの色は違う。それは乾いた洗濯物を仕分ける際、大雑把に「これはどの刀種のシーツ」と分別するための仕儀で、数の多い短刀や打刀、太刀などにはやや不評の上、今度来るという新刀種「剣」に関してはどうなるのかという議論が渦巻いているが――閑話休題。打刀は白だった。個性の闇鍋といわれる打刀男士に白とは皮肉だ、とは長谷部の談だが、国広としては汚れがわかりやすくて気に入っている。あと修行前は、自身の被っていた布を洗濯のためにはぎ取られた際に代わりにシーツを被っていたこともあった。長義も布を被ってきていたが、彼の布はいかにも高級そうで、シーツで代用はできそうにないな、とは国広の感想だ。
その長義が、シーツを被っている。頭からだ。長義は先程からこちらを凝視したままだ。国広はそんな長義を上から下までまじまじと眺めた。そしていう。
「……特の頃の俺の物まねか」
「誰がそんなことするか! あぁ、もう、ただの戯れだよ。気にしないでくれ」
「気にする」
シーツを外そうとする長義。国広はしゃがみ込み、その手を止めた。そして再び被せる。国広は純粋に疑問を抱いていた。何の為の行動だったのだろうと。
「長義。お前、何がしたかったんだ」
じっと見つめる。青い目が、気まずそうに逸らされ、俯いた。そして、彼にしては珍しく、歯切れ悪く呟く。
「……加州くんや乱くんが見ていた雑誌に、ウェディング特集というのがあってな」
「ほう」
「それで、そこには、その、花嫁がヴェールというものを被って……花婿に捲ってもらうんだ。そこで、その」
「その?」
「…………結婚の誓いの、接吻をするんだ」
「成る程。長義はその花嫁の真似をしていたと」
「ただの戯れだ。気にするな」
「気にする」
同じ言葉を繰り返し、手を掴む。その手は、そっと、長義の被っていた頭のシーツを外した。じっと、緑の目が、青い目を見つめる。そして、どちらともなく目を瞑り――唇を重ねた。
「これで、誓ったな」
「……何をかな」
あっさりと離された唇。それに寂しさなど感じていない、と自分に言い訳する長義に、国広は笑って言った。
「『永遠の愛』とやらだ」
「――は」
ちゃんちゃらおかしい、とは長義は言えなかった。
自分たち刀剣男士は明日も知れない身だ。次の戦では折れているかも知れない。今のところ、審神者の采配のお陰で、この4年折れた刀剣は一振りもいないという。しかし今までがそうだったからといって、これからもそうとは限らない。戦況は、常に悪化している。この本丸にいると、平和なあまりそれを忘れそうになるけれども――それでもここは戦場なのだ。刹那に生きるのが自分たちなのだ。
なんてばかばかしい。しかし、そうとは長義は口にできなかった。
信じたかったのだ。その言葉を。永遠を。変わらぬ愛を。
だから、シーツを脱ぎ捨て、国広の首に手を回す。驚く国広に、長義は妖艶に微笑む。「花嫁」には相応しくないほどの。
「誓うなら、もっと口付けをしてくれないと証明できないよ」
「上等だ」
褥に引っ繰り返される。夕食の時間まであと少しかかる。ヴェールだったものを下敷きに、愛を確かめ合うには十分な時間だった。
了