プライベッターからの転載
審神者でさえ男性のこの本丸において、ひな祭りほど縁遠い行事はない。しかし、酒を飲む口実にはなる。桃花酒
「……この酒はうまいな」
「おい偽物くん。話を聞いているのかな」
甘酒・白酒の類は大してアルコール度数が高くない。しかしそれでも騒ぐのは場の空気ゆえか。そんな中、一振り、縁側で杯を傾けている国広に、長義は苛立った様子で彼に詰め寄る。彼は素面だ。素面を通り越し、一周回って顔が赤い。それは怒りによるものだと、酔いの回った頭で国広は思った。
「酒が旨いのは結構だがね、それよりこの報告書! 主に対しての提出期限が過ぎてるよ!」
「長義……こういう場でそういうことをいうのは場を白けさせるぞ」
「白けて結構。俺は元監査官としても仕事を全うしたいだけでね――っておいこら、何を飲ませようとしている」
「まぁまぁ、1度飲んでみなって」
いつの間にか、次郎太刀が長義の背後を取っていた。不覚。そう思っていた矢先に、国広の持っていた杯が口に突っ込まれた。噎せこみそうになるのを何とか堪えて嚥下する。
そして、その味に感心した。
「これは……桃の花のお酒かな」
「正解だ。桃花酒といって、これもひな祭りに飲む酒だな」
「偽物くんにしては良いセンスのチョイスだね。……あぁ、なんだか、眠くなってきた……」
そのひと言を最後に、次郎太刀に羽交い締めにされていた長義が、書類片手にずるずると畳に滑り落ちていく。その顔は、先程までの怒りとは異なった、純粋な酔いによるもので。国広と次郎太刀は顔を見合わせた。
「あんたの本歌は酒に弱いんだねぇ。そこまでは写されなかったのかな」
「俺も大して強い訳ではないからな。どんぐりの背比べというところだろう。……さて。それでは俺は失礼する」
「おや、もう飲み終わっちゃうのかい」
中身を飲み干した杯を卓袱台に置くと、立ち上がり、国広は寝転がった長義の体を抱える。書類は長義がしっかりと掴んだままだ。寝落ちしようと仕事にはどこまでも真面目なところが長義らしい。そう思いながら国広は、次郎太刀に振り返った。他の面子は、こちらに気付かずどんちゃん騒ぎである。
「仕事が入った。あとは好き勝手にやってくれ」
「……仕事ってのは書類を片付けること? それとも長義を寝かしつけること?」
「部屋が一緒だから同じことだ」
そういって、国広は長義を抱きかかえたまま広間を辞していった。
「酔っている人間に対する性行為は強姦罪」という話を審神者から聞いたことがある。自分たち刀剣男士には人権がなければ刑法の処罰も受けないが、倫理的にそれだけはやめて欲しいな、と次郎太刀はひとりごちた。
了