ベッターより転載
国広たちが、その遠征でその道を通ったのははじめてだった。
「うわぁ……!」
感嘆の声が漏れる。遠征で組んでいた短刀男士たちが、その野原に駆けだした。それを止める間もなく、彼らはそれぞれ地面に這い蹲る。彼らのリアクションも、国広と長義には納得がいった。
一面のシロツメクサの野原だったのだ。
「こんな道があったんだな……」
「今まで気付かなかったな」
「すごーい、本丸にこんなのないよ。裏山も柴が生い茂ってるだけだし。ねぇ、本丸にちょっと持って帰ろうよ!」
そういって、乱は既に草の上に座り込んでいる。他の短刀男士たちも同様だ。それを見て、国広はちらりと長義を窺う。この遠征での体長は長義だ。国広は、長義は寄り道を嫌うかと思った上での目線だった。
しかし、意外なことに。長義は野原に分け入っている。彼を囲むように寄ってきた短刀男士たちの前で、彼は微笑んだ。
「少しぐらいなら構わないよ。――みんな、シロツメクサなどの草での遊び方は知っているかな」
「しらなーい」
「教えて長義さん!」
「……いいのか、長義」
「ああ。少し考えがあってね」
「?」
耳打ちする国広に、長義はそういいながら、手元のシロツメクサの花を摘む。それを器用に、ゆっくりと編んでいく。やがて出来上がったのは花冠だった。それを乱の頭に乗せてやる。歓声が沸き起こった。
「わぁ、かわいい」
「今やってみせたのをやってみてごらん。本丸の皆にもお土産を渡そう」
長義がそういうと、短刀男士たちはそれぞれ花を積み出す。そこでやっと、国広は長義の横に陣取った。国広は意外そうな顔で長義を見遣る。
「あんたがこういうことを知っているとは思わなかった」
「政府にいたときにね。監査に行った先の本丸が幼女で、庭にはシロツメクサの野原があったんだ。そこには何度か監査に行って、それでシロツメクサの遊び方はすっかり覚えてしまった。ついでに、シロツメクサは食べられるという知識も身につけたしね」
「そうなのか」
「葉っぱがね。エディブルフラワー――食用花というらしい。食用菊のおひたしなんかがあるだろう、あれと一緒だ」
「きれいだな。エディブルフラワー。料理に取り入れたら彩りがきれいそうだ」
言いながら、国広も手元のシロツメクサの花を摘む。長義は怪訝そうに国広を見た。
「お前も作るのかい」
「見様見真似だが、俺も作りたくなった。駄目か」
「駄目とはいわないけど――俺が摘もうと言い出したのは、政府に調査を依頼するためだよ」
「政府に?」
手で花を編みながら国広は尋ねる。長義は声を潜めた。
「シロツメクサは明治以降に日本に渡来した植物だ。この時代は戦国。まだまだシロツメクサなんて日本に存在するはずがないんだ。歴史修正主義者の仕業というより、この辺りは時空が少しおかしいのかも知れない」
「成る程。たくさん持って帰って調査してもらうつもりなのか」
「6振りで編めばそれなりの数になるだろう」
「ああ――だが、他の短刀たちの分は見逃してやってくれないか」
「なにを」
長義が国広を見る。そのとき、頭に軽い感触が伝わった。僅かに青い匂いがする。
花冠が載せられたのだと気付いたのは、手で触れてからだ。
「今、あんたにやった分だけで、調査は十分に出来るんじゃないか」
一瞬、長義は口を開けた。だが、すぐに顔を逸らす。
そして慌てたように手元の花を摘みだした。国広がその行動の是非を問うと、長義は唸るようにいう。
「……不格好な花冠を政府に提出する気は起きないね。俺が見事な出来の花冠を作ってそれを提出しよう」
「そうか」
「勘違いするなよ。飽くまで! 俺がこんな不格好な花冠を作ったと思われたくないんだからな!」
そういいながら編まれていく花冠はたしかに整っていて、長義の銀色の頭に載せられた、見様見真似で作った花冠はぶさいくな出来だった。
しかし、国広の目にはそれが愛おしいものに映った。
乱が振り向く。そして自分たちを見て笑った。
「あ、長義さん。切国さんの分の花冠も作ってるんだね!」
長義の手が一瞬止まった。それを、国広は穏やかに笑って見ていた。
結局、そのとき編まれた花冠は国広の頭に載せられ。政府に提出する材料として僅かに摘んだシロツメクサの花と草は長義の懐にしまわれ、彼らがこの日の遠征で作った花冠たちはしばらく本丸の随所で飾られることとなる。
了